27話 魔導城
篤紫はギルドカードを作っただけで満足した(マテ
ギルドを出ると、すでにお昼になっていた。
一旦、宿に戻ることにする。
「そう言えばさっき、何の気なしにスワーレイド湖国の銀貨で払ったけど、大丈夫だったのかな?」
当たり前のように銀貨を渡して、受付嬢のオルガさんも問題なく受け取っていた。
地球の常識では、国が違うと大抵貨幣単位が変わっていたから、その都度、その国のお金に換金していたはず。
「それなら大丈夫よ。通貨に関しては、世界共通なのよ。
大きさが精密に決められていて、材質も鉄貨から始まって、銅貨、銀貨、金貨、白金貨まで共通硬貨なの。それぞれの国の紋章のみ打刻が許されているから、コレクションとして集める人もいるわ。
実はね決まっている大きさでさえ揃えれば、勝手に作ってもいいのよ。
金属自体に価値があるって考え方かしら?
ただし、鉱脈がある場所は凶悪な魔獣がいたり、ダンジョンの深部だったりするから、実際には現実的では無いけれど」
そう言って、シズカさんは手をヒラヒラ振った。
偽造貨幣の存在自体が無い代わりに、そもそも材料を揃えることが困難とは、なるほど良くできた仕組みのようだ。
宿に戻ると、夏梛とカレラちゃんが起きていた。
3人でおなかすいたから、ご飯を食べに外に出かけようか話していたところだったようだ。
「ここの宿は、お隣の料理店と中で繋がっているのよ。お城の二人以外はみんなそろったから、お昼にしましょうか」
ロビーを横切るときに、フロントの受付嬢に呼び止められた。
どうやら、宿泊客は食事代が割り引かれるようで、人数分のチケットを渡してくれた。
考えてみれば、昨日のお昼辺りからゆっくり座って食事ができなかったな。食料自体は桃華が屋台飯を大量にストックしていたため、食いはぐれる心配とは無縁だったけれど。
さすがに、次から次に出てくる調理済みかつ、調理し立ての食材に、全員目をまん丸くしてたっけ。
食事のメニューは、日本のファミレスメニューだった……何だろう、作為的なものを感じるのは、なぜだろう。
スワーレイド湖国でも城前の喫茶店しか寄っていなかったから、ほとんど比較対象がないのだけれど。
そして、なぜか午後は女性陣と男性陣で別れることになった。
新しい衣類が欲しいのだとか。
確かに、スワーレイド湖国では見られない、華やかな服を着た女性が街を歩いているのを見ると、欲しくなるのも頷けるが。
でも、間に合うのかな? この世界ってオーダーメイドでしょ?
「それじゃ篤紫さん、迷子にだけは気をつけてね」
『安心するがいい、我がいれば篤紫が迷うことはない』
「うん、オルフ、お父さんのことお願いね」
「オルフちゃん、あそこに見えている尖塔が街の中心だから、迷ったらそっちを目指せばいいわ」
「また夕方だっこさせてね」
『おぬしらも、気をつけるのだぞ。
何かあったら、桃華か夏梛のスマートフォンで我に電話するがいい』
篤紫は空気だった。
なにこれ、けっこうへこむ……。
噂の国立魔導学園は文字通り国の中心に建っていた。
城の形は、おとぎ話のシンデレラ城を一回り大きくした感じか。荘厳華麗な建物だ。
その城を中心にして、円状に多数の城が建っている。敷地だけでも相当な広さであることが覗える。
城壁の八方に据えられた城門から中心まで、ざっと見ても20分以上かかりそうだった。
……正直言おう。これじゃない。
シーオマツモ王国の名前の由来は……まあなんとなく分かる。お城の規模歴史からすると、4000年とか5000年の歴史があるのだろう。
せめて、日本のお城にして欲しかった。
これ、絶対に大昔に日本人がやらかした後なんじゃないか?
篤紫は大通りの真ん中で四つん這いになってうなだれた。
『のう篤紫よ、いつもの儀式は構わんが、目立っておるぞ』
う、うっさい。
跳ね橋を渡り城門をくぐる。
城壁は前後が深い堀になっているため、もう一度、跳ね橋を渡ってやっと敷地内に入ることができた。
深い堀には綺麗な水が湛えられていて、中を色とりどりの魚が泳いでいる。覗き込むと、底から水が湧き出ていた。
おそらく要事にはかなり有用な防衛拠点になりそうだ。
『真ん中のお城が、魔導城であるな。この国の王族貴族が政を行っている場所だな。
それと同時に、あそこは大図書館でもあるぞ』
「図書館? お城じゃないのか?
いや待て、あれって国立魔導学園じゃないのか?」
『うむ。魔導学園はあれではないぞ? あくまでも中心にあるのは魔導城だ。
今は見えぬが、あの城の周りにある建物の一つが、国立魔道学園だな。
それにあの城自体は、今でも個人のものなのだよ。
太古の大魔導師メルフェレアーナ・メナルアが今でも所有しておる。一万年ほど前に世界を導いた女傑として有名であるな』
魔導城へと続く道を歩きながら、周りを見回す。
城壁の中は公園になっていた。
見える範囲には、たくさんの池がある。そのそばには、必ず小山があって、岩と樹と滝が綺麗に配置されていた。
それぞれの池のそばには林もあって、その池のテーマに合わせているのか、それぞれ植えられている樹の種類は異なっていた。
……これ、日本庭園じゃね?
テーブルとチェアーもあちこちに設置されていて、家族連れが思い思いの時間を過ごしているようだった。
子ども達が、積もった雪で雪だるまを作っている。
完全に和洋折衷で違和感はあるけど、風景自体はテレビ番組とかで見たことがある。
もう一度言おう。日本庭園が再現されている。
ただ、林の隙間から見えるのは、西洋のお城なんだよ。
ああ、もうこれ、訳分からんぞ。
「で、そのメルフェレアーナさんは、さすがにもう没してるわけなんだろう? いわゆる歴史的建造物のくくりで国が管理しているわけだ」
『いや、まだ生きておるぞ?』
「はっ? マジで?」
『うむ、今は世界旅行に出ておって、行方はわからんようだがな』
うわ、なんてチートだよ。
「しかしオルフは何でも知ってるんだな」
『うむ、我のデータベースに入っているだけだぞ』
「そですか」
魔導城に近づくと、今度は周りに建っている城に目が行く。
そこは、まさに城博物館だった。
見える範囲でも、建築様式が全て違っている。
あからさまな城だけでなくホテル様式のものもあれば、ギリシアの神殿様の建物まである。ちなみに、頑なに日本の城はない。
目がクラクラしてきた。
『ホテル様の茶色い建物が国務機関。国の運営自体はそこにいる役人連中がやっておるぞ。
神殿様の建物が国立魔導学園であるな。
他にも、ここからは見えぬが、全部で8つの建物があって、それぞれに国の重要な機関が入っておる。
全ての施設に特に入場制限はされておらぬから、入ったからと言って追い出されることはないな。
もちろん、魔導城にも入れるぞ。
むしろ、篤紫が今必要としているのは、魔導城の大図書館ではないか?』
さんざん勧められたからか、国立魔導学園に用事がある気になっていたけど、確かに自分は本の虫。大図書館の方が性に合っている気もする。
「ちなみに大図書館には何か制限があるのか?」
『入場にソウルメモリーの読み取り機があるだけだ。
だが、それが最大のセキュリティーだな。中の時間も100倍に延ばされておるから、食料や寝袋を持参していかないと大変らしいがな。
読み取られた情報だが、出るときに異常がなければ自動的に消えるようだ』
想像を絶するセキュリティーだな。
むしろ、地球のような個人情報ダダ漏れのザルセキュリティーに比べたら、恐ろしく高度だ。
これが魔術による制御なのだろう。夢が広がる。
「ちなみに、異常ってどんな状態が異常と判断されるんだ?」
『蔵書の破損や、中の設備の損壊、あとは本を盗んだりすると記録に残るぞ。
いずれにしても、後で城主から請求が来るだけだが』
それが一番怖いです……。
ともあれ、オルフェナの案内で、篤紫は魔導城に歩みを進めた。
てか、オルフェナのデータベース、なんなの?
次回、その頃の女性陣は……?