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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
二章 シーオマツモ王国
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25話 シーオマツモ王国

 明るくなりつつある、朝の峠を徒歩で下っていた。


「オルフ、追っ手はまだいるか?」

『うむ、少し前に気配が消えたな。

 シーオマツモ王国領の奥までは追わぬ判断のようだな』

 羊の姿に戻って夏梛に抱きかかえられながら、オルフェナがまん丸な目を細めた。細めたんだよな? 少し潰れただけだったが……。


「いつもは馬車で通っていたから、徒歩は新鮮だよ。

 ここの景色、こんなに綺麗だったんだね」

 サラティが周りの景色を見ながら、感嘆の声を上げる。

「確かにそうですね、いつも馬車の中で気持ちよさそうに寝ていましたから」

「ぐっ……。それは言わない約束じゃん」


 くるぶしまで積もっている雪を踏みしめながら、一面白で彩られた景色をじっくりと楽しんだ。


 確かに、ゆっくり歩きながら雪景色を見るのは初めてかもしれない。ほとんどが車移動だったからな。若い頃は雪山に滑りに行っていたけど、結婚してからはもっぱらコタツの番だったか……。


オルフェナに周りの警戒を任せたまま、峠道をゆっくりと下っていく。






 スワーレイド湖国から正式にシーオマツモ王国に向かうには、峠を越えないといけない。峠は越えるには、雪のない道で歩いて半日はかかる行程だった。


 オルフェナに乗って、峠の頂上まで走る。

 このままシーオマツモ王国に向かっても、既に壁門は閉まっている時間だろう。

 追っ手のことを考えると、できるだけ早く進みたかったが、安全を考慮して頂上で車内泊をすることにした。

 オルフェナの中にさえいれば、絶対の安全が確保できる。


『今度、中の空間も拡張しておこう』

 オルフェナが呟いていたが、こやつは車なんだよな? いったいどこを目指しているのだろうか。

 確かに、中の空間が広ければキャンピングカーのように使い方もできるだろうが……。


 車で行くと目立つという理由もある。

 この世界の交通は、機械が発達していないから、基本的に馬車止まりのようだった。遅かれ早かれ、オルフェナは車から羊に変わってもらう必要がある。


 そもそも、コーフザイア帝国の斥候を引き連れたまま、シーオマツモ王国に向かうわけにはいかなかった。


 疲れていたのだろう。峠の頂上に着く頃には、全員眠りに落ちていた。

 雪がしんしんと降り始めた。






「おとうさん! みてみて、すごく大きい壁だよ。

 入り口がすっごく小さく見えるね」


 シーオマツモ王国は周りを山に囲まれているため、スワーレイド湖国と同じように、魔獣対策で外縁を国壁で一周囲っている。

 日本で言うところの松本平一帯を国土としている国だ。王族の世襲制の国で、貴族制度がある国だという。


 魔族に対する忌避が少ない国で、国としてもスワーレイド湖国と同盟を組んでいるそうだ。


「見晴らしがいいな、山の形はやっぱり一緒なんだな」

「私には本当に懐かしい景色ね。篤紫さんと結婚するまで、ずっと過ごしてきた場所だもの、懐かしいわ」

「モモカさんはシーオマツモ王国の出身なの?」

「いいえ、日本にいた頃の話よ。

 こっちの故郷は、スワーレイド湖国よ」

「あらあら、嬉しいわね」


 検問はソウルメモリーが採用されているため、スムーズに通過することができた。

 こと魔術に関しては、シーオマツモ王国はかなり進んでいるらしい。


 スワーレイド湖国とも技術交流が頻繁に行われいたようだ。市街に建っていた街灯や、生活魔道具などの便利道具は全てがシーオマツモ王国からの輸入だったようだ。

 確かに、魔法が使えれば魔術を使う必要がないので、技術交流がなければもっと文明は遅れていたのかもしれない。




 門をくぐったところで、篤紫は目を見開いた。

「まて、まてまてまてまて。

 これはないだろう、絶対にこれじゃない」

 篤紫はその場で崩れ落ちた。


「なんで洋風の建物なんだよ!」

 全員の視線が冷たかった。




「それでは、わたしとタカヒロは王城に行ってくるよ。

 この辺の地理はシズカさんが詳しいから、しばらく観光でもしててほしいかな」

「分かった。ちなみに時間がかかりそうなのか?」

「ここの女王はお話が好きだから、ちょっとね。

 半年前に来たときも、半日おしゃべりにつきあわされたし」

 スワーレイド湖国の国土が壊滅し、国民がコマイナ都市遺跡に避難している。おそらく今日は帰してもらえないだろう。

 こんな時、魔王は大変なのだろう。



 見渡す範囲全てが中世ヨーロッパの町並みだった。

 地震がある国土だから、基礎や支柱の部分は耐震構造で作ってあるはずだけど、建物からして見た目は完全にヨーロッパだった。

 石畳などかなり風情がある。


「シズカさん、この街は昔からこんな感じなのですか?

 スワーレイド湖国はもっと日本っぽかったはずなのに」

 篤紫が首をひねりながら、オススメの宿屋に案内してくれているシズカさんに尋ねた。


「ニホン? にどういった建物があったのか知らないけれど、この街の街並みは記録にあるだけでも5000年は変わっていないそうよ。

 この国や、中枢にある国立魔導学園は太古の魔道士、メルフェレアーナ・メナルアが作ったと伝えられているわ」

 言いながら北の方、建物の屋根の上に出ている尖塔を指さした。


「あれは?」

「サラティとタカヒロが向かった、王城を兼ねた、国立魔導学園よ。

 アツシさんが魔道具の製作を目指すのであれば、まずあそこを尋ねるべきね」

 魔道具の製作――間違いなく、自分が仕事としてやらなければならない分野だろう。この世界で英語文が使えると言うことは、つまり魔術言語が理解できることに他ならない。


 だからこそ、国立魔導学園は大事な通過点であるような気がする。


「宿に着いたわ、取りあえずチェックインだけしてしまいましょう」

 後で行くだけ行ってみよう。そう思いながら、宿の入り口をくぐった。




「それじゃ、お留守番よろしくな」

「アツシさんとオルフちゃんとお散歩に行ってきますね」


 歩いてここまで来るのは幼少組には堪えたのだろう。宿屋にチェックインすると、夏梛とカレラちゃんが、目を離した隙にベッドですやすや眠っていた。

 部屋は念のため、3部屋借りている。

 今日の予定を話していたときは、まだ二人でベッドの上をはねていたはずだったが。


「さすがにここ数日ハードだったから、夏梛もカレラちゃんも疲れたのね。

 二人のことは見ているから、お散歩に行ってらっしゃい」

 桃華も疲れたと思う。篤紫は手を振ると、部屋のドアを閉めた。





『して篤紫よ。念願の冒険者ギルドに顔を出すのか?』

 オルフェナ言葉にドキッとした。

「それはいいわね。私も昔は冒険者としてこの辺で活躍していたことがあるのよね。

 懐かしいわね……」

 シズカさんまで、懐古に浸り始めた。


 ……これは、フラグが立ったか!

 焦る気持ちを抑える。異世界と言えば冒険者、冒険者と言えば冒険者ギルドというのは鉄板だ。

 確かに自分には戦う力はない。

 だが、登録して気分だけでも浸ることができるだろう。なんなら、今から鍛えれば間に合うはず!

 中に入ると、熟練冒険者に絡まれるまでが、基本だからな。

 そういう場合は、にらみ返す……はできないな。どうするんだったか?

 そうだ、オルフェナに凄んでもらおう。


 極めて冷静な顔で、一人と一匹に切り返した。


「い、行きましぇう……」

 声が裏返った……。冷ややかな空気が流れた。


『そこまでか?』

「あ、ああ。そこまでの価値はある」

 自分が思った以上に顔がにやけていたらしい。

 オルフェナに突っ込まれて、顔が真っ赤になるのが分かった。


『ふむ、話を振ったのは我だからな。

 昔から異世界移転物や、異世界転生物を読むのが好きだとは知っておるが。

 まあ我をテイムした体で、テイマーで登録でもすればよいのだろうな、我がいれば大抵何とかなる』

「魔道具で魔物をテイムしていた方もいたから、いいと思うわ」

 オルフェナとシズカさんのお墨付きが付いた。よし。


 期せずして、冒険者ギルドに行くことになった。


 オラ、ワクワクすっぞ!


さあ、冒険者ギルドいくよ!

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