表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
一章 スワーレイド湖国
11/88

11話 篤紫の仕事と桃華の憂鬱

 あれから数日、タナカさんのお宅にお世話になった。

 羊のオルフェナは喋るペットとして、普段は夏梛が大事に抱えている。オルフェナの方も満足しているようで、とりあえず問題はなさそうだ。

 どうやら車の状態と羊の状態は、簡単に切り替えられるらしい。タナカさんちの裏庭で、光を纏いながら車に変化したときは、全員で腰を抜かしたものだ。




 今日は移民手続きが完了したと言うことで、細かい資料をもらいにスワーレイド城を訪れていた。

 本日も手続きをしてくれるタナカさんを筆頭に、篤紫、桃華、夏梛、そしてオルフェナというメンバーである。

「あら、今日はかわいい羊さんがいるのね」

 先日の受付嬢モリモトさんが、オルフェナを見て目を輝かせた。

 ちなみに、今日も夏梛が大事に抱きかかえている。

『うむ、我の名はオルフェナという、よろしく頼む。ええと……すまぬが……』

「サナエと申します、オルフェナさん」

『サナエ殿であるか、家族共々世話になる』

 普通に受付嬢と羊の会話が成り立っている、不思議。



「まず住宅の候補として、タナカさん宅の近所にある家を、使っていただくことができます」

「貸し出し手続きをしてあった、私の実家ですね。第一候補で推していたものが通ったようですね」

 最初の候補としては、タカヒロさんの生まれ育った家が借家の対象となっているようだ。


「タカヒロさんの実家、とのことですが、今は誰も住んでいないのですか?」

「ええ、父は先の戦禍で亡くなっていますし、母は再婚して湖の向こう側、農村地のスエヒロさんの所に嫁に行っていますから、実家は空いています」

「あぁ……、失礼なことを聞いてしまったようで」

「いえいえ、物心ついたときには父はいなかったので、特に問題はないですよ」

 できれば子どもがいる家庭に借りて貰いたかったようで、今回はまさに渡りに船の状態だったのだとか。

 ほぼ知らない世界のほぼ知らない土地で、これ程ありがたい縁はない。


「住宅としては他にも候補がありますが…「あのっ」…」

 続けてリストを見ていた受付嬢モリモトさんの言葉を遮って、夏梛が訴えかけてきた。

「おとうさん、あたしカレラちゃんのお家の近くがいい。せっかくカレラちゃんと仲良くなれたのに、離ればなれは……」

 安心させるように、夏梛の頭をなでる。

「大丈夫だよ、夏梛。

 モリモトさん、できればタカヒロさんのご実家をお借りできれば、と考えています」


 魔族の特性からか、国としても子どもが少なく、特に北地区の子どもはカレラちゃんしかいないのだとか。お世話になっているし、近くの住宅ならば借りられるに越したことは無い。


「わかりました、それでは手続きを進めますので、ソウルメモリーの認証をお願いします」

 カウンターに置かれた黒曜石板にスマートフォンをかざすと、黒曜石板が淡く輝いた。それから、オルフェナ用の認識タグと、金貨が入った袋を受け取る。

 タグはペット用のソウルメモリーだそうで、魔法文明の便利さを再認識した。



「それから、生活のための初期資金として、総額で金貨十枚分のお金が支給されていますよ」

 金貨十枚とは、どのくらいの価値なのだろうか?


「通貨としまして、鉄貨が一番価値が下の硬化になります。次いで銅貨、銀貨、金貨、白金貨の順に価値が上がっていきます。

 それぞれの貨幣が百枚で、貨幣を上の貨幣に替えられます。鉄貨が百枚で銅貨一枚ですね。

 一番市場でよく使われているのが銅貨で、次が銀貨でしょうか。

 金貨は高額な取引で使われるケースが多いです」

 日本円……には簡単に換算できそうもないな。

 露天の串焼きが銅貨三枚位だったからざっと三百円としても、単純換算だと金貨十枚は一千万円にもなってしまう。

 銀貨一枚が一万円になる計算か、いずれにしてもすごい金額が支給されていることになるが……。


「使いやすいように、金貨九枚、銀貨九十九枚、銅貨百枚で小分けにして入れてありますので、確認してくださいね」

 どうも貨幣価値に慣れるまで、時間がかかりそうだ。




 手続きを終えて、借りることになった自宅に向かいながら、篤紫は悩んでいた。

 少なくとも生活基盤は目処が立った。しかし、無職であるからして、遠からず資金が底をつくはず。

 仕事を探すか、もしくは何か他の手段を持ってして、生活のための資金を得なければならない。とりあえず、タカヒロさんに聞いてみるか。


「タカヒロさん、仕事を斡旋しているところはありませんか?」

「仕事ですが……それであれば、まずご自分のスキルをソウルメモリーでチェックすることをお勧めしますよ。能力適性などの、方向性がわかります。

 まずは慌てずに、この国に慣れていけばいいと思いますよ」

 初期資金はそのためのものだと言われて、妙に納得させられた。スキルも設定の中にあったはずだ。

 言われてみれば確かに、色々と確認しながら、生活のリズムを慣らしていかないといけないのだろう。

 魔法の使用に関しても、恐らく生活する上で必須技術。夏梛はともかく、篤紫と桃華はまだ使えるようになっていない。

 生活が落ち着いたら、夏梛に教えて貰わないとだめか……。


 タカヒロさんと話していると、夏梛が隣に並んできた。どうやらオルフェナが何か聞きたいらしい。

『オーナーよ、仕事ならばいつものように、会社に出勤すればよいのではないか?

 ここからでも出勤するだけなら、我が高速で運ぶことができるぞ』

 安定のオルフェナさんである。


「ああ……あのな。何というか、もう会社がないんだよ」

『ふむ、兄上殿がまた何かしでかしたのか? 確かに仕事態度はあまり芳しいものではなかったが、潰れるほど経理状態が悪かったのか?』

「いや。そういう問題ではなくてだな……」

「オルフェナさん、ここは日本ではないのよ。私たちは違う世界に来てしまっているの。説明しづらいのだけれど……」

『ふむ、道理で我が喋れるわけだ。不思議には思っていたのだよ』

「「「えぇ………」」」

 全員が絶句した。


 オルフェナは完全に認識がおかしかったようだ。ここ数日ですら、まとまった休みを取って、休暇をとっていると思っていたのだとか。





 桃華は夏梛と並んで歩きながら、篤紫がなにかそわそわし出したことに気がついた。隣を歩くタカヒロさんを見て、しきりに頭に手を当てている。

 これは……何か聞きたいが躊躇っているサインだわ。

 あ……思い切って聞くみたいね。


「タカヒロさん、冒険者ギルドとかはないのですか?」

「「……」」

 篤紫の言葉に、桃華と夏梛の纏う空気が一気に冷たくなる。

 篤紫は異世界転生とか、異世界転移のお話が大好きなのよね。

 今回も三日間お世話になっている間、やけにソワソワしていたのは、これだったのね。


「ボウケンシャギルドですか、それはどういったものなのでしょうか?」

「冒険者が薬草採集とか、魔物討伐とかの依頼を受けて、その対価として報酬を受けることができる組織なのですけど……」

 篤紫の説明に、桃華は内心頭を抱えた。


 どうも篤紫には現実が見えていないようね。

 つい先日も、車ごと怪物オオカミに襲われたのに、何を勘違いしているのかしら?

 一方的に襲われて、三人で怖くて震えていたのに。違う世界に来ても、体の動きが変わった感じもないし。


 もしかして、あのオオカミと戦う気でいるのかしら?

 まだ住むところも決まっただけよ。

 どんな家か、家具の状態や設備の確認すらもできていない。

 イライラするわ。



「それでしたら、探索者組合が近いでしょうか。国営の組織で、国民であれば誰でも登録が可能ですよ。

 色々な素材の買い取りなどをしています。

 ただ、基本的に国壁の外にある素材が買い取り対象になりますので、難しいかもしれません」

 タカヒロさんも、篤紫が喜びそうなことを言っているし。

 夏梛と顔を見合わせて、大きなため息を漏らした。


『タカヒロ殿。壁の外というと、黒いオオカミは対象になるのだろうか?』

 なぜかオルフェナも援護射撃に入る。

「ええ、もちろん大丈夫ですが……あれは討伐ランクAですよ。周辺警備隊クラスの実力が無いと、討伐は難しいですよ」

『それならば、我の収納に入っておる。我もその組合とやらに登録可能であろうか?』

 相変わらずオルフェナさんが意味分からないわね……。

 あなたも、オオカミに普通に噛みつかれていたクチですよ。

 それに収納って何かしら?

 私たちが乗っていたのはただの車のはずよ?


「登録主であるアツシさんが組合員になれば、オルフェナさんも組合を利用できますよ。

 出張所が各門の近所にあるので、色々落ち着いたら行ってみるのもいいでしょうね。ユリネがお休みの時にでも案内させますよ」

「それは、ぜひお願いします」

 勝手に話が進んでるし、なんであんなにキラキラとした目をしているのよ。

 男って、困った生き物ね……。


桃華さんは苦労人……

天然ですが

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ