エメルナちゃんの成長記録
前回のあらすじ。
魔法授業も順調だよ?
人生最初の目標が決まった。
村興しをしよう!
理由はつまらなかったから。
ボッチだった私には分かる、楽しい場所ってのは皆の遊ぶ姿を見ているだけでも楽しめるものだ。
でも皆と回った村は、お世辞にも楽しいとは思えなかった。
人も少ないし、見所も無い。
地元の人には日常的すぎて感動や特別感が薄いとかのレベルですらない。 生後1ヶ月の私がそう思ったくらいだし、本当に見所が無いのだろう。
牛や豚だって、遠くには見れたけど触れ合える訳でもない。
そもそもまだ牛・豚を見るのが珍しい時代でもないらしい。 リアクションだって薄かった。
服装や食事を観察する限り、この世界の暮らしに不満はない。 むしろ恵まれてるくらいだ。 でも、遠路遥々来てくれた客人に、これといったおもてなしすら出来ないのは、やっぱり寂しい。
行商人だって、暇な筈だ。
テーマパークなんて高望みはしないから、せめて癒されるような、皆で楽しめるイベントが欲しかった。
1年を通して見れば、何かお祭り事だってあるだろう。 もしそれで一過性にでも観光客を集められているとしても、私が言いたいのはそういうイベントじゃない。
1年を通していつでも楽しめる施設が欲しいのだ。
とは言え、私はこの村をほとんど知らない。
なので何をするにしても、まずは成長しなきゃならない。
*
てな訳で、あれからもう3ヶ月。
生後4ヶ月に突入した夏。
1日の予定は代わり映えしないし、季節が変わったくらいしかイベントがある訳でもないからね。 省略ですよ。
幸いにも、私はお母さんに連れられ、色んな所に行くことが出来る。
もちろん、フローラちゃんと一緒に。
あぁ~可愛いなフローラちゃんマジ天使♪
言い忘れていたけれど、私達は白い布を卒業し、だぼだぼの赤ちゃん服を着せられている。
理由はハイハイの一歩手前、寝返り~ずりばい~お座りが出来るようになったから。
つまり3ヶ月前、首のすわっていない私は半裸オムツ一丁で馬乗りにされた訳で……イラッ。
生後4ヶ月でここまで成長するものなのかと感心したが、日本より危険の多い異世界だし、成長が早いのも頷ける。
ちなみに下前歯が2本生え始めたので離乳食を開始、授乳と共にお粥ペースト~野菜ペーストと、徐々に食べられる物も増えていった。
お米が流通しているのかと驚いたものだ。 ただ日本のほどではまだない。
次はタンパク質たる大豆か白身魚のペーストに挑戦する。 お粥も野菜も超美味しかったから期待が高まっている。
にしても歯茎がむず痒い……
そんな朝を経て私達は今、真夏の草原に降ろされている。
ハイハイの練習だ。
本当はフローラちゃんのお婆ちゃんも来たがっていたけれど、また来客があるとかで断念していた。 正直助かる。
フローラちゃんのお婆ちゃんがあの日いなかったのは、商業ギルドのギルド長としての仕事で忙しかったからだそうだ。 後日会えたのだけれど、紅い髪の美魔女で驚いた。 実際に凄腕の魔術師らしく、会うなり手を握って魔力量を測定された。
それからことあるごとに私達を鍛えようとする若々しい(見た目50代)魔術師である。
お姉ちゃんに((砂粒でも見せたらダメ! 天才とか思われて騒ぎになるよ))と、十字架を当てられた時のように警戒されていた。 そうなると、私もつい意識してしまうので凄く疲れる。
1人でお留守番しているらしいけれど大丈夫だよね? 熱中症とは無縁なくらいパワフルだし。
あぁでも、そもそも真夏と言っても日本ほど暑くはないっか。 日差しは強いけれど湿度が低いみたい。 湿度が上がると不快指数も比例すると聞いたことがある。
空気がカラッとしていて、私はここの夏、嫌いじゃない。
呼ばれる仔犬みたいに「おいで~♪」と手を叩いて招かれる。 距離は1mもないけど。
しかし筋肉が発達しきれていないので、体を持ち上げることはできない。
仕方なく這って進むと、右側のフローラちゃんもキヤァキャァ喜びながら桃ロングさんに這って行った。
自分で進める事が楽しいようで、見てるだけで微笑ましい。
私も真似した方が良いのかな? でも女の勘って怖いとこあるし、無理すると看破されそうな気がする。
自然体の方が『そういう子だ』と思ってくれる希望が持てるし、やめとこう。
足にタッチし、お母さんに誉められた。
言葉は、フローラちゃんを目安にしている。 フローラちゃんが喋れるようになって数日後までは、クーイングで誤魔化すつもりだ。
お母さんには申し訳ないけど、いきなり話出す赤ちゃんとかキモいでしょ?
まぁ、まだ話せるほど言葉を知らないんだけど……
*
それから更に2ヶ月後。
生後6ヶ月目。
自ら持つ『コップ飲み』を獲得し、離乳食に塩や加熱殺菌した牛乳が混ざり始め、固ゆで卵の卵黄が食べられるようになった頃。
遂に私は、『ハイハイ』を獲得した。
言葉はまだ…………しかし、『喃語』を獲得したフローラちゃんは色んな物に興味津々で、部屋中を這いずり回っているとのこと。 ハムハムしたり触っていたりする物の名前を片っ端から教えているみたいだ。
喃語。 クーイングと違い「ダァダァ」「バブバブ」など、2文字以上の言葉を発することを指す。
月齢が上がるにつれバリエーションが増え、意味のある喃語を発することもあるんだとか。
私もそろそろ喃語デビューしないとな。 それなりに日常会話も理解出来てきてるし(お姉ちゃんと)。
そういえば数週間前、桃ロングさんがお母さんに夜泣きの相談をしていたけれど、その後どうなったんだろう。
私の場合は、授業中にトイレ・授乳で体が泣き出し、強制的に夢から起こされたことは何度もあったけれど、その都度お母さんが対応してくれていた。
さぞストレスが溜まっているかと思いきや、そうでもなさそうなんだよね。
なんでも、お姉ちゃんの言うには私が起きている間に家事を済ませ、寝ている間は一緒に寝てくれているらしい。
生後間もない赤ちゃんには時間の感覚が備わっていないらしく、一緒に寝起きして睡眠不足を解消する手段なんだとか。
で、何が問題なのかというと、桃ロングさん家は6人家族で、祖父母も喜んで手伝ってくれてはいるが、一緒に寝るような時間は取れないとのこと。
なのでお母さんは、授乳のタイミングを徐々にずらし、尚且つ寝る前に満腹まで飲ませるという方法を提案した。
つまり体内時計を調整し、夜中の空腹を予防するわけね。
その後も、朝は日差しを浴びせ・夜は暗い寝室に移動するとか、充分にスキンシップを交わすとか、寝床の環境を工夫するなどの微調整も忘れなかった。
結果、トイレに起こされることはあっても、夜泣きの回数は減りつつあるらしい。
良かったぁ。
夜泣きは原因不明が多いらしいからね、心配してたのよ。
そして今日は、抱き枕用のぬいぐるみを買いに商店街を訪れた。
私もだけど、フローラちゃんも大きくなったなぁ。 倍とまではいかないもののベビーカーが欲しいくらいには。
強いなぁ、お母さんってのは。 私も鍛えないと……
女性服専門のブティックを訪れると、婦人服・子供服の一角にぬいぐるみが並んでいた。
お父さんから貰った高弾力わんこもあれば、汚れたら終わりそうな綿まみれのヒヨコ等、様々な種類が棚に収まっている。
完成度は低い。 ヒヨコは丸っこくてかわいいけど。
あとカラフルな……生物とは思えないぬいぐるみもあった。
真ん丸の玉に羽のような耳が生えている。
こんなキャラクターいなかったっけ?
((あぁ、これ精霊族の妖精種だね。 赤が火・青が水・黄色が風・茶色が土・緑が木・白が光だよ。 ちなみにそれは耳じゃなくて羽ね♪))
へぇ、こんなのがいるんだ。
青欲しいかも。
結局買ったのは、フローラちゃんが掴んだ子犬サイズの羊だった。
*
更に2ヶ月が経ち。 季節も変わり。
生後8ヶ月目。 秋。
上前歯が2本生え始め、離乳食が後期(持って食べられる茹でた野菜スティックや蒸しパンも可)へと移り、3回食になった頃。
ハイハイをマスターしたフローラちゃんの喃語が、次のステージに辿り着いた。
桃ロングさんを見ながら「マンマ」と言ったらしい。
お母さんに報告する桃ロングさんの涙目が印象的だった。
まぁ、私はつかまり立ちが出来るようになったんですけどね!
………………分かってる、ここでフローラちゃんとクーイングしあって、夜には私も驚かせてやるさ。
日常会話のリスニングにも慣れてきたし、お姉ちゃんとの会話も成立してきたところだ。 まだカタコトの外国人って評価だけど。
私も、そろそろ両親に良いところを見せてあげたい。
いつもの草原に着く。
秋らしく枯れた茶色い一面を、肌寒い風が吹き抜ける。
この世界は自然に近いので、排気ガスやPM2.5なんかを気にせず深呼吸できるのが素晴らしい。
むやみに科学を発展させて環境破壊してほしくないな。
そう言えば、ちょっと前に収穫祭があった。 しかし観光には使えなさそうなので落胆した。
草原に鉄板や食材を運び、この1年間の作物に感謝し、労働を労い、健康を祝う。
それだけ。
正直、規模の大きいだけのBBQ。
特にこれと言って楽しめなかったのでパス。
来年は、私も焼き鳥を食べたいな。
っと、草原では既に見知らぬ数組の家族が遊んでいた。
両親と女の子。
母親と男の子。
赤髪のおっさんと男の子。
「おぉ!? シエルナさんとエレオノールさん、久しぶりだな!」
あっ、衛兵のおっさんじゃん。 懐かしいぃ!
村の外になんて行くことないからご無沙汰だよ。
休暇なのだろう、衛兵の鎧は脱ぎ、黒い皮ジャケットとジーパンでラフにきまっている。
しかし職業柄か、腰には短剣が差してあった。
で、キャッチボールしてたのは息子さんかな? 桃ロングことエレオノールさんより濃いピンク髪だね。
おっさんほどは目立たないが、どことなく父親を意識したコーデで親子感が漂う。
バイクあったらツーリング楽しめそうだな。
5~6歳くらいか? 目元はおっさん似かも。
なんでも、ご近所さんとたまたま外出が被って、子供達も仲が良いらしく、そのまま草原に連れだって来たらしい。
しっかりお父さんしてるねぇ、スマホとかあったら絶対こうはならなかったよ。
衛兵って言っても、やってること殆ど交通整理だけどね。
「…………」
息子さん仏頂面だなぁ。 マイク向けられて黙る子供みたいに。
いや、この頃になると畑等で学び始めるらしいから、久しぶりの父親との休暇だったのかも。
悪いことしたなぁ……ちゃんと謝れよおっさん。
空気の読めるエレオノールさんによって、私達は少し離れた場で腰を降ろした。
お母さんにもたれかかって立ち上がると、ハイハイのレベルが限界突破しそうなフローラちゃんにタックルされる。 「ぉふぅっ!」って呻きが漏れ、弓なりに倒れる。
頬を草のカサカサが擽る。
腰が殺られたかと………
あまりにも激しいタックルに両お母さんが青ざめている。
伸された私へのしかかるフローラちゃん。 くんかくんかからのペロペロが耳たぶを襲う。
いやぁぁ補食されちゃうぅ~! 百合に目覚めちゃうぅ~~!
((嬉しそうだね♪))
擽ったいんだよぉ!!
それに殆ど同じ体重だから重いの!! ふざけて刺激を誤魔化してるの!
あぁ足りない歯でハムハムしてきたぁ!!
私は魅了なんてスキル使ってないよ!?
その後、エレオノールさんからおっぱいを貰い、フローラちゃんは落ち着いた。
何だったんだ……
美魔女お婆ちゃん登場