密会
前回のあらすじ
語彙力……
△▼△▼△
日差し和らぐ夕暮れの刻。
孤児院の清掃を見届け、聖堂への渡り廊下を歩いていると。
「あっ、いたいた! レムリアさ~ん♪」
向かいから冒険者パーティ・『ローダンセ』のアイリスさんが、大きく手を振ってやって来た。
その後ろには、アベンさんとレッキさんの姿も。
「いらしてたのですか、お元気そうで何よりです……っ」
言い終わるや否や、アイリスさんにガバッと抱き付かれた。 いきなり全体重を預けられ、尻餅をつきそうになったのを何とか堪える。
「レムリアさぁ~ん♪」
「もうぅ、危ないですよ。 それに、ここは教会内なのですから、こういった事をされてしまうと……」
「ちょっとだけ~♪ 今だけ~♪」
なんて言いながら更にグッと抱き寄せ、クンクンと私の首筋を嗅ぎ始めた。
体温や匂いに癒されるそうだけど、素を知っている親友に所構わずこう甘えられると、表向きの対応は何かと恥ずかしい。
せめて私室でなら抵抗できるのだけれど……聖堂でしなくなっただけマシかな。
原則として、シスターに触れるのは厳禁とされている。 とは言え、こうなると聖職者として引き離す訳にもいかず……満足してもらえるのを待つしかない。
そんな風に膠着していると、アベンさんとレッキさんに「すみません」と引き剥がされた。
「ふへぇ~……」
「報告が済み次第自由になれるんですから、もう少しくらい我慢してください」
「数日泊まれる。 抜け駆け禁止」
寂しがる仔犬みたいなアイリスさんの肩をそれぞれが掴み、アベンさんはやれやれと、レッキさんは露骨に不満そうな視線をパーティリーダーへ向ける。
お2人も相変わらずだな。
アベンさんはとにかく生真面目で最年長なせいか、親のような世話焼きが身に染み付いてしまっている。
レッキさんはその容姿や性格から、子供達の一番人気で、レッキさんも無類の子供好きだ。 それはもう今すぐ孤児院に行きたいとウズウズ(イライラ)している程に。
3人はいつもこの街に寄ると教会に泊まるのだけれど、今日もアイリスさんは私の部屋、アベンさんは冒険者用の宿泊楝、レッキさんは孤児院だろう。
ここにいないアンデさんとスピネルさんも、いつもの宿屋かな。 彼等は教会や子供が苦手で、よく娼館に通っているから。
「それで、今から司教室を伺うのですが、レムリアさんも御一緒いたしますか?」
「っ……」
アベンさんの言にこの度の用件を察した私は、この場では「……はい」と頷くに留め、急遽予定を変更して共に司教室へ付き添うことにした。
司教室は聖堂や孤児院とは別楝にあり、事務室や会議室・貴賓室等がある一階奥の突き当たりに構えられている。
この時季になると使用中の部屋や全廊下の窓は開け放たれているため、戸締まりしているシスター達に挨拶し返しながら、私達は司教室の前へと辿り着いた。
「少々お待ちください」
扉横に設置されている、年季の入ったサイドテーブルの引き出しから小さなハンドベルを取り出し、ゆっくりと3回鳴らす。
暫くして、中から女性の「お待たせ致しました、ご用件を伺います」との返事が返ってきた。
「レムリアです。 冒険者パーティ・『ローダンセ』のアイリス様・アベン様・レッキ様をお連れしました」
「……承りました、少々お待ちください」
少しして「お待たせ致しました」と扉が開かれた。 冷房の涼しい空気に乗って、香油の甘い香りが漂ってくる。
側仕いに「どうぞ」と招かれ、「失礼します」とアイリスさん達を先導して入室していく。
司教室は横に長方形で広々としており、右手に来客用のソファーやテーブル、その奥に司教用の執務机という配置になっている。
そんなソファーに、齢65にもなるクォーツ教区担当『キョウ=エンジェライト』女司教は既に腰掛けておられた。
「お疲れな中、お時間を頂きありがとうございます」
頭を下げる私に「いえいえ、丁度手が空いた所でしたので」と立ち上がり、対面のソファーへとローダンセの3人を、いつも通り自らのお隣へと私を招く。
そんなキョウ司教がゆっくりと腰を下ろしてから、「失礼します」と私達も浅く腰掛け、会談は始まった。
・ ・
「――でねぇ、そのケリアちゃんがすんっごいんだよ!♪ まだ3歳なのに計算が得意でね、簡単なお会計ならパッと出来ちゃうから、お母さんの隣で「はい!♪」って手を上げて答えてくれるの。 それがもう可愛くてさぁ♪ 何人かはケリアちゃん見たさに買いに来てたね、あれ絶対!」
「フフフッ♪ 商売上手な子ね。 この街にも来てくれたら、買い出しの子達にでも同行しようかしら」
「あの、お二人共その辺にしてください。 本題が進みませんので……」
もう5回目となる私からの苦言に、「あぁぁ~……ァッハハハ」と笑って誤魔化そうとする非常に似た者同士な2人。
お互い話し好きで、アイリスさんには思い付いたままを口にする癖があり、キョウ司教は執務に忙しく外(主にクォーツ教区外)の情報に飢えている節がある為、突発的に枝分かれしては止まらなくなるというとんでもなくややこしい組み合わせとなっている。
かと言って、孫とお婆ちゃんのように親しく、パーティリーダーでもあるアイリスさんを別室で待たせておく訳にもいかず……。
久しぶりなのは分かるから、せめて報告が終わってからにしてほしい。
気を取り直し、どうぞ……と溜め息しか出せていないアベンさんに視線を送る。
「それでですね……国境沿いまで行くと異変や目撃情報もパタリと無くなり、数日滞在して調査しましたが、やはりムグ村近辺から動いていない可能性が考えられます」
「そう……」
厳しい現状に、今度はキョウ司教の表情が陰った。
あの村の森はとにかく広く、彼等が好みそうな土地ではある。 しかし山脈が国境となっているため、そのまま見失う可能性も極めて高い。
こんな時こそのアンデさん……と言いたいけれど、精霊にだって限界はある。 何より相手が、更には都合まで悪い。
思案に暮れる私達に、アベンさんは続けた。
「あれから猟師と冒険者が数名、森でそれとおぼしき群れを目撃しているので、暫くは様子見が妥当かと。 もちろん調査は続けますが、巣の掃討が現実的でない事くらいご存じでしょうから、下手に刺激するなどという心配は薄いのではと考えています」
「……そうですね」
テーブルの紅茶を両手で持ち、一口飲み下す。
ゆったりとした動作でテーブルへと戻したキョウ司教の表情は、普段の穏やかな笑みに戻っていた。
「少し、疲れが出たのかもしれませんね。 信じるのは私の役目なので、皆さんはどうか、良き隣人として正見く見届けてあげてください」
「もっちろん♪」
迷いのないアイリスさんの嬉しそうな笑顔に、アベンさんレッキさんも続いて頷く。
私も、想い同じく共に頷いた。
そうして、私達は今後の方針と対策……時々アイリスさんの土産話しも交え。
司教室を後にしたのは、日が沈み星の輝き始めた宵の刻だった。
・ ・ ・
アイリスさん達と別れ、少し遅れた引き継ぎのため聖堂へと向かう最中、誰もいないのを良いことに、口を片手で覆い小さな溜め息を吐く。
(ムグ村かぁ……)
何でよりにもよってあの村に……と思うと、顔には出さないが頭が痛い。
もし仮に、私も巻き込まれたゴブリンの襲撃に深く関わっているのであれば、彼等の立場はより危ういものとなる。
唯一の救いは、村長さん一家やシエルナさんルースさんのような、偏見で差別することの無い寛容な村民が多い点だが。 それでも原因が彼等となれば、話は別だ。
直接危害を加えた訳ではないにしても、犠牲者を出した以上、この問題が大きく拗れるのはどうしたって避けられない。
(嫌だなぁ)
お願いだから、これ以上私の聖域を荒らさないで。 気軽に酔えなくなっちゃうから!
そんな悲痛な願いと下心を胸に秘め、私は心の中で(ムグ村に栄えあれ)と神に祈った。
これにて2章、完結です。
一応2章のつもりでしたが、ストーリー構成最悪ですよね…;
それ以前に更新遅すぎるし。
もう本当に申し訳ございません。
もちろん次回からは3章が始まります。 よろしくお願いします。
さて、気になった方もいるでしょうから記載しますと、正見を「ひとしく」などとは読みません。
何故こうしたのか、それは「偏見を持たない」をどう言い換えれば良いのかが分からなかったからです。
なので必死に1週間苦悩し続けた結果、(こっちの世界ではこう読めるんだ)という事にしました。
すみませんでした。
本当に、ここだけで1週間くらい掛かりました; 深夜まで悩み、寝不足で頭痛を抱えながら悩むの繰り返しで。
語彙力ぅ……
非才な素人ですので、どうか優しく見逃して下さい;
長々とすみません、お付き合いいただきありがとうございます。
では続きを書いてきます。
次回はいつになるやら……でわノシ




