初熱7
前回のあらすじ
実質、ただの妄想
異変に気が付いたのは昼食後だった。
日頃なら眠気に微睡み、夢世界で異世界語や魔力操作等の授業を受けている最中なのに、今日は不思議と頭が冴えわたっている。
てか、食べる前より若干熱くなってきた気さえした。 昨日は高熱+全身怠くてもぐっすり眠れたのに……。
そのため引き続き暇していると、汗を拭くため、お母さんに上半身を脱がされ――
「ん?」
――二度見された。
包帯を取り、空石を手に持つ。
そういやそんなの着けてたんだっけ。 すっかり忘れていた。
「もう……?」
深刻そうな表情でそう呟いたお母さんの視線は、ずっと空石に向けられている。
傷や汚れでも見付けたのかな。
何をそんなに凝視しているのか気になっていると、ふと私も、些細な違和感を発見した。
(ん? あれ、変色してね?)
包帯で巻く前までは、たしか薄茶色かったように記憶してるんだけど。
これは…………何色だ??
なんと言うかこう、磨りガラスでコーティングした琥珀みたいになっている。
側はボヤッとしていて、中身が透明な明るい茶色、なのだ。
体温で変色する材質なの?
汗を拭かれながら、お姉ちゃんが説明してくれた。
((魔石って……まだ見てなかったんだっけ?))
(照明にはカバーが付いてるし、お父さんが買って来ても高い所に置かれてたからねぇ)
子供の手の届かない場所で保管してください系なんだろうとは察している。
特に私は奇行児と認識されているから、興味を持たないようになのか、見せてすらもらえなかった。
言葉を改め、お姉ちゃんが続ける。
((魔石ってね、宝石みたいに綺麗なんだけど、魔力を消費すると乾燥した石みたいになっちゃうんだよ。 で、逆に魔力を吸収すると、また元の宝石みたいに戻せるの))
(フリーズドライかよ)
もう魔素が凄いのか石が凄いのか分かんねぇな。
前世に持ち帰って解析してもらいたい。
・
お母さんに抱えられ、診察室のナースちゃんを訪ねると、ちょうど昼休憩中だったらしくすぐに会えた。
中途半端な空石片手に、ナースちゃんが私の鳩尾に耳ピトする。
ふかふかな耳毛が擽ったい。
「……もうこんなに溜まったなのですか? なのに、まだまだ熱いなのです」
「巻き付けて暫くは下がってったんだけど、眠れなさそうにハァハァしてて。 汗拭こうとしたらこうなってたの」
「ん~……」と唸りながら、不穏な表情で張り詰めた雰囲気を纏う二人。
に、おいてきぼりを喰らう私。
何がそんなに難しいのかが、説明不足なので分からない。
こんな時は、頼れるお姉ちゃんに聞くしかない。
二人が無言なのを見計らい、私は内側に問い掛けた。
(まだ満タンっぽくはないんだけど、どゆこと?)
((ん~……何て言おうか))
急なヘルプなのに、お姉ちゃんは少し考えてから、分かりやすく図解したイメージまで添付して教えてくれた。
((魔石ってね、こう、自分と周囲の濃度を一定に保とうとするのよ。 濃い所からは吸収して、同じ濃度になると中途半端でも吸収しなくなるの。 でもね、周囲の濃度が薄まった場合は、放出しないで留めるの))
まさしくバッテリーだな。
((で、このくらいの魔石なら、……だいたい下級の精霊魔法2回分。 一般民がライター代わりに使う程度、かな?))
(分っかんねぇわw)
説明に新たな???を挟まないでほしい。
『「???」については26pの説明文を参照してください』を読んだ気分だわ。
仕方ない、精霊魔法とか言うのはこの際無視しよう。 超気になるけど。
(ごめん、私で例えられないかな? 『このくらいの大きさの結晶を作れる量』とかなら、想像しやすいんだけど)
それ以外の魔法の話をされたって、想像した魔法&無詠唱設定でメンタルを鍛えている段階の私では基準がない。
魔法なんて言われても未だVRシューティング感覚だからなぁ。
お姉ちゃんが、何て説明したものかと唸る。
((いや、ん~まぁ……それだと、ほぼ同じ小ささのしか作れないかも))
(……え?)
この小石程度?
魔石なのに、何かしょぼくない?
((だって、普通に魔法で使うより、魔素を凝縮する結晶化の方が遥かに効率も燃費も悪いもん。 そもそも結晶化って、まんま魔石作りでしょ?))
(あっ)
考えてもみれば、1から1を作り出しているような物だった。 いや、空石の部分を引いたら、1以下かも知れない。
(うっわ使えねぇ……)
((いや、それでも1歳児平均の数倍だからね))
あそっか。
比較対照が分かり辛過ぎる!
((つまりお母さんは、満タンになってる頃には体にも異変が生じる危険があるから、その前に空石を交換した方が良いんじゃないかって来たんだよ。 ほら、40度以上の熱が続くと脳に障害が残らないか心配になる、あんな感じ))
(あぁ~)
そりゃ不安だ。 確かにそれなら、下手に様子見してるより空石を交換した方が絶対に良い。
せっかく魔素そのものを吸い出せる便利アイテムなんだから。
在庫はまだ3つもあるみたいだし、遠慮なく使わせてもらおう。
と、ちょうど良いタイミングで、ナースちゃんが在庫の空石を持ってきてくれた。
さっきのより一回り大きめだ。
さっきまでのが鶉卵Mサイズとするなら、こっちは鶉卵Lサイズ。 で色は同じ薄茶色。
同じこと産なの?
「とりあえず、また気になる事があれば来てなのです。 こっちのは、師匠が帰ってきたら真っ先に伝えるなので」
「うん、ありがとうね」
空石の冷たさにヒヤッとしながら巻き付けられつつ、そんな二人の会話に耳を澄ませる。
と、休憩室の戸が開いた。
「たっだいまぁ~……。 あれ? 何かあった?」
「師匠!」
お疲れ気味なシア先生に、ナースちゃんがすかさず詰め寄っていく。
「どこまで行っていたなのですか! こっちはやっぱり信じてもらえなくて大変だったなのですよ!! あとペン返してなのです!」
「あぁッハハ、ごめんごめん」
尻尾をピンと反らせてプンスカ怒るギャン可愛ナースちゃんに、笑って誤魔化しつつペンを返すと、シア先生はそのまま一直線に私のもとへ歩を進めた。
机に置かれている中途半端な空石を手に取り、椅子に座る私と目を合わせる。
「ねぇシエっち、エメルナちゃんに魔法を見せたことある?」
「え? いやぁ……」
心当たりを探すお母さんだが、私もお姉ちゃんもこれといったのがピンとこない。
両親が魔法を使ってる所なんて、ゴブリン戦で遠目に見えたくらいで、普段使いなんて全くしないからなぁ。
ファタジー感が薄くて物足りないくらいだ。
てか、それって今の状況と何か関係が?
「あっ! いや1回だけ。 誕生日の時にちょっと……」
嫌な記憶まで芋蔓したらしく、トーンと表情が沈んでいく。
(あ~)
あったあった。 プレゼントのクレヨンに忍ばされてた……手紙? を燃やしたあれだ。
一瞬だったし、ゴブリン戦が印象深くて埋もれていた。
お母さんが、ジト目で当時のムカ着火ファイアーを振り返る。
「――って事があってさ」
「ん~。 エメルナちゃんの前で魔法を使ったのはその時だけ?」
「の、筈だけど。 ルースがこっそり見せるとは思えないし」
シア先生も「だな」と頷く。
大丈夫、お父さんは抜け駆けなんてしていない。
私が保証する。
「じゃぁ、最近で良いから、二人以外でエメルナちゃんに魔法を見せた人っていた?」
「え~……」
口に手を当て、うつ向くお母さん。
長考していると、隣で自分の手帳を見ていたナースちゃんが、ハッと顔を上げた。
「もしかして、魔素濃度を計りに行っていたなのですか?」
「ん? んまぁ、それもあるけど、基準値よりチョロっと濃かったくらいで問題無かったよ。 刻印製品の配置もちゃんとしてたし、もう考えられる原因は1つだね」
お母さんも顔を上げる。
「分かったんですか?」
「うん」
(マジか!)
さらっと頷くシア先生。
さすが両親が信頼し、ナースちゃんが師匠と崇める人だ。
私とお母さんとナースちゃんで、聞きたいオーラ全開な視線を送っていると、シア先生が椅子に座るよう促した。
私の隣にお母さん、対面にシア先生とナースちゃんが着く。
「多分その子」とシア先生が私に視線を向ける。
「誰かの影響で、魔力操作が出来るようになっちゃってるとしか思えないんだよ」
(っ!?)((っ!?))
「え~……いやいや、それは無いでしょ~」
「師匠ぉ、いくらなんでも飛躍し過ぎなのですよ」
否定的なお母さんとナースちゃん。
そんな2人に紛れるよう、私は表情を殺して空気に徹し、内心お姉ちゃんとビクビクしていた。
やっべぇ、この人危険だ!
どういったルートでそんな結論に辿り着いたのかなんぞ想像もつかないけれど、危うくリアクションしかけた。
油断してるとお姉ちゃんの存在や、私が元男だって事まで見破られてしまいそうでゾッとする。
末恐ろしい。
レムリアさんとは違う方向性の要注意人物じゃん。
私達が内心蒼白となっている中でも、話しは続く。
「私も最初はあり得ないよなぁとは思ってたんだけどさ、口にしたって花やタリマリ、蝶の種類、家の中も調べてみたんだけど問題無かったし。 生活習慣や食事内容も至って普通。 残された可能性は、皆が話してた奇行かなぁって。 もうそっちの方が納得出来ちゃうんだよねぇ」
散々歩き回ってお疲れらしく、腕と背中をグググっと伸ばすシア先生。
まぁ、後半投げやり気味とはいえ、私も同意見なので疑問は無い。
てか原因不明として匙を投げられるくらいなら、そっちの方が遥かにマシだ。
それでも、お母さんとナースちゃんは半信半疑らしいのが、不服そうな表情から伝わってくる。
「多分、誰かの魔法を見て真似たんだと思う。 それが上手くいっちゃって、遊び感覚で続けていたから、魔力量が平均の数倍なんてことになったんだよ。 じゃなきゃ逆に不自然だもん」
「でも、そんな事ってあり得るなのですか?」
「ん~まぁ、魔力の流れに敏感な子ってのはたまにいるし、可能性としてはあり得なくは「」……あるかも」
遮るお母さんの呟きに、ナースちゃんが「ヤッ!?」と目を丸くしてこっちに向いた。
「凄く大人しくて分かりづらいかもだけど、エメルナって何にでも興味津々なくせに、いつも手を出す前にジ~ッと観察したがるんだよ」
(そうだっけ?)
そうかも。
意識したこと無かった。
「そのおかげなのか、口数は少ないんだけど理解力は良いっぽくて。 ……親の贔屓目かも知れないけど、エメルナなら出来ちゃいそうな気がするんだよねぇ」
シア先生とナースちゃんが、へぇ~って表情で、いまだ一言も発さずに大人しく座っている私を見る。
集まる視線に、人見知りたる私の鼓動は急速に高鳴ってきた。
これは、何か幼児っぽい行動をした方が良いのかな。
微笑む? 手を伸ばす? いや、あざと過ぎてわざとらしいか。
そうだ!
ナースちゃんの大きなチワワ耳が激しくピクつき、遂にはペタンとへたりこむ。
「ンンッ……凄い見られてるなのです」
恥ずかしそうな声色に誘惑されるが、視線は死に物狂いで耳だけを凝視しているので、目が離せない。
現在私は、ナースちゃんのチワワ耳を網膜に焼き付ける勢いでガン見している。
これなら、無言で座っているだけの1歳児でも不自然ではない筈だ。
もちろん無理などしていない、心の底から眼福
である。
視線はロックオンしつつ、そのまま会話を聞き漏らさぬよう耳に全集中する。
「いつもこんなに必死なの? と言うか、信じられない光景を目の当たりにしたみたいな目してるけど」
若干引き気味なシア先生に、お母さんが「ん~……」と言葉を詰まらせた。
「まぁ、こっちじゃ獣耳族って珍しいから……あっ!」
と、いきなり声が張り上がり、私はビクッ!と視線が外れてお母さんを見上げた。
「そういえば、ゴブリンの時アイリス達が来てまして、エレスチャルちゃん……って知らないか、レムリアさん所の見習いの子なんですけど。 その子とエメルナとアイリス達で、レムリアさんを迎えに行ってたんですよ。 その時に魔法を間近で見てたのかのかも!」
「えっと……ごめん詳しく」
「何がどうなってレムリアさんをエメルナちゃん達が迎えに行ったのかが意味不明なのですよ……」
全てが繋がった!みたいなテンションだったのに、肝心の2人には何も伝わっていなかった。
温度差が凄い。
・
大まかなあらましを受け、シア先生が深い溜め息と共に頭を抱える。
「だからって何で連れてくかなぁ~……」
(ですよねぇ~)
1歳児を抱えた少女が護衛付きとはいえ死地に飛び出すとか、どう取り繕ったってお荷物×お荷物の自殺行為でしかなかった。
お母さんの説明を聞いてて、改めて反省した。
その場のノリって言うか、好奇心って言うか。 シスターちゃんの心細さなんかを言い訳にして便乗した私にも非はあるんだよね。 客観的にはシスターちゃんが100%悪くなっちゃうんだけど。
心理状態としては、洪水警報中に「川見てくる」って外出するアレに近い。
実際、冒険者さん達が間に合わなかったら、モチ肌の私なんてペロリと頂かれていた事だろう。
これにはナースちゃんもドン引きだった。
「よく生きてたなのですよ。 神様から加護でも授かってるなのですか?」
「レムリアさんからの魔除けしか貰ってないよ」
あんな予防注射的魔除けにどれ程の効果があるのかなんて知りようも無いが、どうやら目に見えて分かる幸運補正までは付かないらしい。
気を取り直して、シア先生が下唇に親指を押し付け思考する。
「当事者が揃って不在なのが痛いけど、一瞬の発火よりは有力そうだね。 となると、たった2~3ヶ月間で出来そうな事といったら、吸収くらいかな。 遊びで魔力を吸収し続けた結果、慢性的な魔力過多が続き、徒でさえ幼く不安定な魔力回路に負荷が掛かった。 そこにダメ押しのテング熱まで乗っかって、本格的にバランスを崩した、って所かな」
メモを取り出し、考えを纏めていく。
「吸収ばかり上達して排出が身に付いてなかったせいで、調節が間に合わないんだよ。 本来なら一緒に教え育てていく中で体を慣らしていくものだもん。 今朝の魔力量にしたって、就寝中ずっと体だけは熱で休まらなかったのが原因だろうね」
自律神経説が有力になってきた。
ナースちゃんのメモする手が止まる。
「ふぅ……」
「安心した?」
「ワヤッ!?」
無意識に口元が緩んだのを、シア先生は見逃さなかった。
上半身を反らせる逃げ腰で、ナースちゃんが気不味そうに口を開く。
「……気付いてたなのです?」
「セラっちは初対面なんだから仕方ないって。 これでやっと診断書に進めるよ~♪」
肩の荷が降りたようなシア先生と、ホッとした表情のナースちゃん。
状況が理解できずお母さんを見上げると、お母さんもどこか一段落したような微笑みを浮かべていた。
(どゆこと?)
((さぁ?))
どうやらお姉ちゃんもピンと来ていないらしい。
と不意に死角から、シア先生に頭をワシャワシャされた。
「危うくママもパパも逮捕されるかもだったんだからなぁ~、このお転婆娘♪」
(逮捕!?)
((えぇ!?))
理解不能な発言に、つい素の表情を向けてしまった私を誰が責められようか。
シア先生が私のリアクションに、笑いを堪えきれず吹き出す。
「今すっごいビックリした?♪」
(したよ! 逮捕ってどうゆう事?!)
なんて口に出して聞ける筈もなく。
仕方なく過去の会話を掘り起こし、推察する。
(そういえば、6歳まで保有魔力量は希薄とか言ってなかったっけ?)
今朝だったか、そんな話をチラッと聞いた気が。
(まさかだけど、6歳未満児への魔法教育って禁止されてる?)
((えぇっ!?))
お姉ちゃんが、これまでの常識を覆されたように困惑する。
((そんな……だって私の村じゃ普通に教えてたよ? 規制なんて無かったし))
(ん~……ん~? ちょっちょっと待って、それってお姉ちゃんの故郷での話しだよね?)
((え? うん。 ……あ))
どうやらお姉ちゃんも、この重大なズレに気がついたらしい。
つまり私は、これまでお姉ちゃんから無意識にサキュバスとしての常識で育てられてきた訳だ。
人と魔物、全く同じ体質な筈がない。 魔力への耐性が低い方が、先に異常をきたすのは当たり前だ。
人と魔物なら、人の方が魔力に弱い筈だ。
知らんけど。
(うっわ……)
何だこの落とし穴。 自業自得過ぎて辛い。
前世の記憶から、私達はズルを行い、初歩的なミスにすら気が付かなかった。
私はこの世界の常識を、お姉ちゃんは人族の常識を、両親は私達が何をしているのかを、お互いに知らず知る術もなかった。
それがこの結果だ。
生じていた認識のズレは徐々に広がり、修正されることなくこんな事態に。
危うく両親を犯罪者にしてしまう所だった。
((……ごめん))
お姉ちゃんがこれまでにないくらい凹んでいる。
(いや、私も……多分まだレベル上げ感覚が抜けきれて無かったんだと思う)
ゲームやアニメ知識で知った気になっていたばかりか、お姉ちゃんと夢世界のチート感で自分までチートだと錯覚していたのかも知れない。
そうなんだよ、ここは異世界なんだよ。
ステータスの設定されたゲームじゃなけりゃ、アニメやラノベで親しんだ中世風の世界観ですらない。
未知の世界なんだ。
所々ゲームや前世と似てるからって同列視していた。 異世界ガチ勢ですらない、ちょっとエルフやら貴族制度やらを検索した程度のニワカなくせに、同じような物だと楽観していた。
あ~はいはいゴブリンねとか何様のつもりだ。
更に言うなら、周囲の会話から情報を得ようとしていたのも失敗だった。
常識なんて、日常会話で誰もいちいち口にはしない。
口にするのは、それを知らない子供に教える時だけだ。
誰が好き好んで魔法すら教わっていない1歳児相手に法律の話をする? 物を買う時にはお金を払うなんて、家族や友人と解説しながら談笑するか?
常識とは皆知っているからこそ常識なのだ。 皆知っている事をわざわざ口に出す必要なんて無い。
だから、ズレた。
そんな初歩すら気が付かなかったなんて……。
馬鹿は死んでも治っていなかった。
((言うほど初歩、かな?))
自己反省したお姉ちゃんが復活した。
((反省はしてるけど、半分事故みたいなものでしょ? そんな思い違いにまで後悔してたら、何でもかんでも自分の責任になっちゃうよ?))
(いや、確かに今回のは盲点だったけど、幼児への魔法教育禁止って法律くらいは想定出来たよ)
漫画で見たもん。
とあるなろう系にて、初級魔法+強すぎる魔力量から書斎を半壊させたギャグ(?)シーンを。
(さすがにそこまでの想定じゃなくとも、遊びたい盛りな子供が発火魔法なんて覚えちゃったら、大変でしょ?)
火事とか。
イタズラだろうと、そのつもりが無かろうと、一家諸共焼死したなんて事態になれば、どれだけ悔やんでも悔やみきれない。
それを欠片でも考慮してれば、そこから法律を想定することだって可能な筈だった。
((あ~……そっか。 だから私の村じゃ教えれたんだ))
(ん?)
((ほら、私達サキュバスって攻撃魔法が使えないでしょ? もっと言うと、精霊魔法そのものを一切使えないのよ))
また精霊魔法だよ。
何だよ精霊魔法って。 さっきスルーしたのにまた出てきたよ。
お姉ちゃんが((あぁぁごめんね))と説明不足を補填する。
((『精霊魔法』ってのは、各精霊王から授かった火・水・風・木・地・光・闇属性の魔法の事。 そっちじゃ元素魔法とも呼ばれているみたいだけど、こっちじゃ精霊王から教わったから精霊魔法なの))
(へ~)
そんな精霊魔法を、サキュバスは使えないらしい。
悪魔なのに。
((攻撃魔法はもちろん、種火・水滴・そよ風程度すら何故か、ね。 だから私の村では、魔法教育に制限が無かったのかも))
あ~、そう繋がるのか。
使えないから、魔法+子供の怖さに馴染みが無かった。
て事はつまりこれって……結局私の責任じゃん。
(お姉ちゃん……交代して。 一生)
((諦めないで!?))
気が付くと話し合いはとっくに終わり、お母さんに抱えられて病室へと帰る所だった。
また聞き逃した。
△▼△
娘がまた反応しなくなった。
顔の前で手を振っても、意識でも失ったかのように瞳すら動かない。
おーい、セラちゃんが心配してるぞ~。
「だ、大丈夫なのですか……?」
「うん。 いつもの事だから」
エメルナは驚くと、脳が理解しようと頑張るのか、こうして固まる癖がある。
倒れはしないので、突然失神する病気とは違うだろうと、助産師さんからのお墨付きだ。
触ったりすると動いてはくれるし、歩いてる最中でもそのまま歩き続けてはくれるから、下手に揺すったりせず見守る事にしている。
なのでシア先生も、額に手を当てて魔力回路を調べなくて大丈夫ですから。
続けてください。
「とにかく、症状さえ分かればこっちのもんだ」
エメルナの状態と、私達の無罪を明らかにしてくれたシア先生が、次は完治への道筋をつけていく。
「テング熱の薬は渡した分だけでいいから続けてて。 後は低魔素室で寝かせながら、数日かけてゆっくり体調を整えていこう。 薬に頼り過ぎるのは良くないからね」
「はい」
効き難い体になったり、薬によっては中毒を引き起こすなんて、昔から良く言われていることだ。
先天性の魔力回路不全とそんなに変わらない対処法で、案外簡単だったなと安心する。
と、セラちゃんが「あの~……」と困り顔でシア先生に挙手した。
「師匠、ここに変魔素室なんて設備は無いなのですよ……」
「あ~……なら丁度貸し切り状態だし、病室に空石置きまくろう。 即席でもそのままよりは使えるし」
「師匠、そんなに大量の空石無いなのですが……」
また「あ~……」と躓いた。
王都暮らしが続いて、うっかりしていたらしい。
こんなんでも、シア先生は仕事に関してだけは信頼出来るので、娘の命を預けるのに不安は無い。
それくらい、学園でも一部の生徒には名指しで頼られる凄腕だった。 手術の様子を間近で見た事もある。
「じゃぁ…………ご近所さんから買ってきて」
「はいなのです。 何個ほど?」
「とりあえずー……」
周囲を探し、見付けた空の木箱を指差す。
「大小問わず、あれ一杯分かな」
「多っ! そんなになのですか……?」
セラちゃんは多っ!と驚いたが、見た感じ肩幅くらいでしかない。 例え山盛りにしても一人で運べる容量だろう。
獣耳人なら、なおさら問題無いんじゃないかな?
まぁ、それだけの数を集めるのが手間だろうけど。
「多くて困る事はないからね。 終わったら売れば良いんだし。 あっでも、万が一の為に保管しとくか。 またエメルナちゃんで必要になったら要るからな」
「いや、そっちの心配ではなく、僕一人ではちょっと……」
「大丈夫だって、引っ越しの挨拶のついでだとでも思いな」
引っ越しの挨拶で受け取る側って、どんな感情で訪ねれば良いんだろう。 何より見た目少女な看護師が「隣(病院)に引っ越してきました、空石売ってください」って、第一声に迷うんだけど。
ま、いっか。
深く考えても意味は無い、どうせシア先生ですらなんとなくで言ってるだけなんだから。
苦労してるなぁ、セラちゃんも。 一人前になるための試練と思って、是非とも頑張ってほしい。
娘のためにも。
「そうだ、シエっち。 大切な話しなんだけど」
「はい?」
シア先生の一転した真面目な雰囲気に、緩んでいた聞く姿勢を正す。
「んっ」と頷き、シア先生は続けた。
「こうなってくるともう、先天性とか子供のお遊びとか関係無い。 6歳までは魔力回路障害と同じ扱いになるから、そのつもりで」
「っ……はい」
障害、かぁ。
過去の気疲れが、記憶と共にドッと甦る。
産まれてから幾度、娘に障害が無いか定期的に検診を受けてきた。
その度に大丈夫だとは思いつつも、万が一を考え、結果を伝えられる度にハラハラしてきた。
これまでなら、その都度気が軽くなれたのに……今回はズシリと、胸の辺りにまでのしかかってくる。
責任とか、不安とかが。
「いつ中毒を起こしてもおかしくないし、まだ幼いから、石化症に発展する可能性だって覚悟しておくように。 でだ、詳しくはルースくんが来てから改めて話すとして、今の内に魔力を制限する補助装具の注文書に記入お願い」
「はい」
補助装具か……。 娘にこれを持たせる日が来るとは。
セラちゃんが診察室から持ってきてくれた注文書を受け取り、その場で指差された枠に記入していく。
保護者の欄に名前を書き終えた瞬間、半ば夢心地だったこの状況が、現実の出来事なのだと実感できた。
のしかかっていた胸の重みが全身にまで伸び広がり、おかげで局所的な苦しさは薄まったものの、代わりに目頭が熱くなってくるのに気が付く。
小さい頃の私なら、つい泣いていたかも知れないな。
とは言え、6歳になれば魔法を教えられるのだ。 魔素の薄い村の中に居る限り、何の問題も無い。
なんならエメルナの事だから、独学で魔力の放出まで身に付けてしまうかも。
だったら、良いのにな。
「じゃ、戻って良いよ。 また空石の色が変わるようなら連れてきてね」
「はい」
病室へ戻るため、未だ放心状態のエメルナを抱え上げる。
この小さな体に、大人よりも数度高い熱と、合わない魔力が渦巻いているのを肌で感じながら。
いつまでも不安がってなんていられない。
いつまでも心配そうな顔なんて見せたくない。
この子には、笑顔の可愛い子に育ってほしいんだから。
読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマ・評価・感想、よろしくお願いします。(露骨な話題稼ぎ)
実はこれ、前回と同じタイミングで投稿しているのですが、少しずらしてみようと考えまして、こんな形で投稿しました。 前回の実は一週間で仕上がったんですよ。 ほぼ検索した情報とかの羅列だったし。
だってまた一か月遅れるとか嫌だったので。
前回の内容があんなだったから、今回こそ……と思ってたのに、またこの体たらくですよ。
次こそ歌でいうサビに入れると思います。
ガンバます。
でわノシ




