エメルナちゃんの成長記録14
前回のあらすじ。
ふみふみマッサージ(靴)
「やぁ~!」
全身を使ってイヤイヤすると、お母さんが一層難しい顔をした。
「エメルナ、外で歩きたくないの?」
無言で首を横に振る。
せっかく買ってもらったんだから、外でも歩きたいに決まっている。
まだまだ長距離は疲れるけど、常にお母さんがいてくれるから、いくらでも休み休み挑戦できるのだ。
じゃぁ何をそんなに拒んでるかって?
「なら、自分で歩いて行く?」
首を横に振る。
まだ嫌だ。 もう一つの目的を達成していない。
しかしそれを知らないお母さんは、より一層に頭を抱えた。
「ん~……フローラちゃんに見せてあげたいんだよね?」
首を縦に頷く。
好奇心が強く、真似っこしたがりのフローラちゃんにこの可愛い靴を見せつければ、興味を持って二足歩行の練習にも前向きになってくれるかも。 というのが、お母さんの思い付きである。
なるほど、と思った。
さすがお母さんだ。
ならば、喜んで協力しようじゃないか!
てな訳で、私は今日もまた、外で歩く事を全身で拒絶していたのである。
それを言葉にして伝えられないのがもどかしく、また、お母さんを困らせているこの状況が心苦しい。
しかし、だからと言ってフローラちゃんを地べたに座らせる訳にもいかない。
見せ付けるなら、やっぱり居間でしょ。
私がここで諦める訳にはいかないのだ。
とは知るよしもないお母さんが、今日も玄関で悩みこむ。
ホント、手を焼く娘でごめんなさい。
「ん~……玩具とは、思ってなさそうだし。 なら……ん? もしかして、フローラちゃん家でも履きたいから、外を歩いて汚したくないって事?」
お!
まさかの正解に笑顔で頷く。
「なら何でもう履いてるの!?」
ガチでつっこまれた!
どうやら外出前に履いたのが紛らわしかったよう。
だって荷物が一つ減るかなって思ったんだもん。
私なりの気遣いがこんな形で足を引っ張っていたとはね……、上手く甘えるのって難しい。
・・・
「――なぁんて事があったのよ」
「お疲れ様です」
困り眉をしつつも、楽しそうに口元は緩むお母さん。 エレオノールさんも本気で嫌がっている訳ではない事くらいは重々承知済みのようで、微笑ましそうに相槌を打ちながら暖かいお茶を啜っていた。
喉元過ぎればなんとやら、今や良い話の種となっている。
一方その頃。 二人が寛ぐちゃぶ台の隣では。
「くつ!」
「くぅつ?」
発音は怪しいが、間違ってない。 笑顔で「くつ!」と頷いておく。
現在私は、フローラちゃんに靴を自慢しつつ、靴がどういう物かを教えていた。
前世の有名なクマのぬいぐるみみたいに、両足を前に出した蟹股の形で座りながらね。
好奇心の強いフローラちゃんは、私の期待通り、じぃ~…と足元を注視して目も会わさない程に見入っている。
いつもとの違いに興味を示しているようだ。
ファッションに目が行くとは、こんなに幼くてもやはり女の子なんだなと感心させられる。
「それじゃぁ、お昼は外にします?」
フローラちゃんと手を繋ぎ、リハビリのように支え合いながら歩いていると、そんなお母さん達の会話が耳に入った。
丁度良い。 私も靴を見せれて大満足だし、フローラちゃんが室内で履く物だと誤解する前に、そろそろ外へと繰り出すのもありかな。
ちゃんと分かってるんだよって、両親を安心させたいしね。
しかし、聞かれたお母さんの表情はどうにも冴えなかった。
「そうねぇ……良いんだけど、フローラちゃんってまだお乳飲んでる?」
エレオノールさんが首を傾げる。
もちろん、フローラちゃんも私と同時期に離乳食を済ませているのだが……。
「飲んでますよ? ……ぁあ、外では場所を選びますもんねぇ」
「ね。 今でもよくオヤツ感覚で欲しがるから、油断できないのよ」
え? そんな風に思われてたの?
何かごめん。
確かに、普段家にお菓子やジュースなんて無いから、ふと口が寂しくなると無性におねだりしてたような……。
しかも、くれなくて泣いた記憶まで……。
今振り返れば、ハルネで最近全然飲んでないって思っていたのが何だったのか、ってくらいに、日頃から求めていた気がする。
意識してなかったからかな。 もしくはオヤツ感覚になってしまったから?
何げに『美女の母乳』から『オヤツ』にまで価値観が下落していて驚きだ。
無意識に母乳を欲しがってるとか、特殊性癖に目覚めるか、またデブりそうで将来が恐ろしい。
こんなんじゃ、外で泣かれるのを警戒して出づらくなってても仕方がないね。 言われずとも外で欲しがったりはしないけどさ、フローラちゃんも一緒にとなると、そうはいかないもんなぁ。
言っとくが、草原では遊びに夢中で帰りは眠たくなるから、野外ポロリイベントなんて一度も無かったぞ。
母親のポロリで誰かが喜ぶよりは遥かにマシだけど。
喫煙所みたいに、授乳所みたいなのがあったら助かるのに。 前世ならあったのかな?
「あっ、そうだ!」
エレオノールさんがいきなり大声でちゃぶ台を叩き、立ち上がる。
驚いてフローラちゃんまでもがビクッ!と視線を向けた。
「どうしたの?」
「あっ、すいません」
目を丸くするお母さんに、ほんのり赤面しながら慌てて座り直す。
エレオノールさんにしては珍しい昂り方だな。
何を思い付いたのだろう。
気になって誰もが静観する中、なんとか気を持ち直したエレオノールさんが話を続ける。
「えっと……ゴブリン対策で村中に作った潜伏小屋でなら、内側から鍵も掛けられますし、知ってるのも関係者だけなので使えるんじゃないかなぁと、ふと思って……つい……」
「あぁ~……」
恥ずかしそうに縮こまるエレオノールさんがドジ可愛い。
そういえば、そんな話しもあったなぁ。
我が家でも、お父さんが貰ってきた地図を二人で見ながら、遅くまであれやこれやと話し合っていた夜があった。
あれは確か、ゴブリンの件が一段落した翌日だったかな。
テーブルの上で話し合うもんだから参加出来ず、大きくなってから加わろうとふて寝したまま、完全に忘れていた。
話しでは喫煙所ほどのサイズらしいし、なるほど、そこなら使えそうだね。
ちなみに、立ち上がったのは印の書かれた地図を持ってこようと思って体が勝手に、って事だったらしい。
あのドジっ子っぷり、フローラちゃんの将来が楽しみだ。
お母さんが口に手を当てて呟く。
「試験的に使ってみて、有りなら行動範囲を広げられそうね……悪くないかも」
「ですね♪」
二人とも真面目だなぁ。
何の話しかと言うと。
ここ数日、村役場では潜伏小屋の非常時以外の使い道を模索中らしく、両親共に頭を悩ませていたのだ。
急ぎではないらしいが、いざと言うときに扉が錆びてるとか埃まみれで汚いなんて、あってはならないからね。
こういうのの管理・整備も、村役場や自警団で行うらしい。
「おっとごめん、また余計な事まで考えてた」
「いえいえ」
お互い様と言う風にエレオノールさんが地図を折り畳む。
こんな時でも職業病みたいに思案してしまう所が、お母さんの癖なのだと最近知った。
仕事、行きたいんだろうなぁ……。
「じゃぁ、お昼は外にしよっか」
「はい」
加えて潜伏小屋にも寄り、実際にその用途で使えるかを検討することにもなった。
何はともあれ、漸く外を歩けるぞ!
「けほっ」
「ん? エメルナ?」
うん、と頷く。
「ちょっとお水貰うね」って立ち上がるお母さんに、エレオノールさんが尋ねた。
「風邪ですか?」
「うんん、飲み物が欲しくなった時によくするの。 うちお菓子ないから、いつも飲ませるの忘れちゃってさぁ。 喉が渇いたら咳するの覚えちゃた♪」
テヘッ♪ で誤魔化さずに改めてほしいんですが。
間食欲なら夢で好きなだけ食えるから問題無いとしても、喉の渇きはどうにもならないからね。
今では合図程度だけど、最初の頃は風邪の前兆かってほどにイガイガして、本当に咳き込んでいた。
今もそんなイガイガ感が喉にまとわりついている。 潤したい。
「お菓子……ですか」
冷たい水を一杯頂き、スッキリした私は、そのまま草原まで抱っこしてもらえることになった。
辿り着くだけで力尽きてちゃ意味無いもんね。
・・・
「あ、クーテルさん」
夏に向けて暖かくなってきた日射しの下、一面の緑に小さな花がチラホラ混じるいつもの草原には、既に一組の先客が戯れていた。
仔猫のようにじゃれ合う姉妹と、それを見守る見知らぬ母親の三人である。
エレオノールさんの知り合いらしい。
声を掛けられた双子のお母さんが振り向く。
「あっ、えっと……村長さんとこの娘さん? こんにちは」
ぉおっ……!?
黒髪に白という、ハスキー犬みたいな配色のショートヘアーにちょっとだけビビる。
ロックなガールズバンドかと。
しかし初見では気が強そうな印象を受けたものの、挨拶での仕草は至って温厚そうだった。
染めた訳では……なさそうだね。
「こんにちは♪ えっと、こちらクーテルさん。 ガルガッドさん所の彫金師さんで、双子のお母さんです」
エレオノールさんの紹介に、お母さんが「あ~……」と頷く。
話には聞いていたけど、会うのはこれが初めてだ。
なんという偶然。 いや、私達くらいの児童の遊び場なんて、この村じゃ限られてるから珍しくもないんだけどね。
基本、『我が家』か『友達の家』か『買い物に付き添う』か『草原』かの4択だもんな。
私の場合はだけど。
お母さんが軽く身なりを整える。
「どうも初めまして、シエルナです。 こっちはエメルナ、娘です」
と私の腕を持ち、手を上げさせる。 一応「あい!」と挨拶すると、「こんにちわぁ♪」と笑顔で返された。
「可愛い子ですねぇ。 初めまして、私はクーテルです。 こっちは……ちょっ、何して……下が姉のミテルで、上が妹のキーテルです」
ややこしいな。
まぁ、さっきから組んず解れず、激しい応酬でお互いの耳をしゃぶり合っているから、そうもなるわな。
今は妹が上に乗って、背後から姉の耳上部を執拗なまでに貪っている。
舌触りが良いのか、歯応えか……クチュクチュと音を発てて離さない妹に、目を瞑ってこちょがしそうに「ふやぁぁぁ……」と喘ぐ姉。
てかあれ? 楽しんでない?
なんか嫌がるというより、めっさ気持ち良さそうなんですが。
見かねたクーテルさんが妹ちゃんを抱え剥がす。 お互い楽しそうなのは良いことなんだけどね、こんな幼い内からそういった扉を開いてしまっては後が困りものだ。
ほら姉ちゃんの耳ペタペタだよ。 歯形付いてなかっただけセーフだと気付いてね。
癖になっていつも噛まれて、変形して育つなんてことになったら可哀想だぞ。
だから妹ちゃんよ、せっかくマウントとったのに……みたいな残念顔をすな。
姉ちゃん、息荒くなってるから。
・・・
(にしても、似てるねぇ)
ねぇ~。
髪型もだけど、色違いなだけで配色すらクーテルさんと瓜二つとは。 歳の離れた妹とか言われたって信じちゃいそう。
姉妹に関してはコピペかな? 二人とも髪型まで一緒で、黒が灰に、白が金髪になっている。 まだ見ぬ父親の遺伝だろうか。
よく見分けがつくものだ。 まぁ、服の色が違うんですけど。
姉ちゃんが赤で、妹ちゃんが黄色のブラウスなのだ。 その幼可愛さはまさに一輪の花。
チューリップの妖精みたい。
軽い自己紹介を終え、私とフローラちゃんはミテル・キーテル姉妹に加わった。
とはいえ、あのようなプレイは御免蒙りたい。 なので歳上相手ではあるが、主導権は私が握らせてもらうとしよう。
なぁに、心配などいらない。 先輩とは言え相手はたかが二歳児二人。
日頃フローラちゃんで鍛えられし対人スキル(幼児特化)をもってすれば、この程度、児戯にも等しい筈だ。
するのはその児戯(子供の遊び)なんだけどね。
せっかくだから当初の目的に添った遊びに方しよう。
そうお姉ちゃんと相談した結果、私達は4人揃ってお花摘みをすることにした。
どう説明したかって? 簡単だ。
ただ足元の花をいくつか摘んで、鼻の近くに持っていけばそれで良い。
言葉は通じなくとも、旬の香りは共有できる。
今の季節、ここに咲く小さな花からは、ほんのり蜂蜜に似た甘い香りがするのだ。
それが、それぞれの花の爽やかな香りと相まって、さながら天然のアロマオイルの様相を呈している。
種類も豊富だから、花束の組み合わせ次第でいくらでも違う香りが楽しめるのもまた嬉しい。
どうだ、来たばかりの君達はそんなことまだ知らないだろぉ?
女子は幼くても匂いに敏感と聞く。 ならばこの香りに釣られて、(私も……)と参加してくれれば……
「ックシュンッ!!」
妹ちゃんが盛大にクシャミした。
反射的に顔をブルブル振ったことで、私の顔に冷たい滴が飛び散る。
あ、ごめん。
近付け過ぎた。
更新を週1にするかで悩んでます。
あとストーリーの細部にも。
ちょっと村長さん宅での会話シーン、リズム悪いかなって……




