エメルナちゃんの成長記録5
前回のつづき。
こんなに貰っちゃうとお返しで困りそう
誕生日からはや数日。
結局キーホルダーとヘアピンとネックレスは棚に仕舞われ、指輪とミサンガが左の親指と手首に落ち着いた。
宝石を着けるのは気が引けるけど、折角のベビーリングを封印するのも勿体ない。
そこに失礼という言葉が出てこないのが友人クオリティー。
私専用の紙を買ってもらい、お父さんとクレヨンで絵を描き始めた。
まずお父さんがお手本に、緑と黄色と赤で簡単な花を描く。 それを真似して、私も同じ花を下手に描いてみた。
茶色い茎、青い中央、黒い花弁で。
禍々しいな。 ……見たことのあるハナガサイタヨ。
お父さんがお母さんに相談しました。
ごめん! 違うの! ふざけただけなの!!
やっばい! 弁解できない!!
((んっくっくっくっくっ!♪))
笑いなんて堪えてなくていいから一緒に考えて!!
あぁやめて! 心配そうな目で見ないでぇ!!
いろんな色の花も描いて誤魔化しました。
パズルもやってみた。
選んだのは、白い外観の美しい洋風なお城。 フローラちゃんが先に海を取っちゃったからもあるけど、海に近い県で育った私としては、見慣れた風景より異世界の建造物に興味が引かれたので不満はない。
ただ……今は凄くイライラしている。
((待った……これとさっきのを繋げようと苦戦してみて))
(分かった)
柄的に明らかに違うピース群同士を繋げようと必死に手探っていると、お父さんからの助言が入る。
分かってるんだよぉ……
ピースが合わないんじゃない。 合わせないように頑張っているのだ。
こんなに簡単なパズルをさぞ難問のように考え込むのはストレスが溜まる。 ここまで簡単なパズルだとタイムアタックしたくなる私にとって、わざと手間取っているのを暖かく見守られ、優しく教えられているのは……もうホントに辛い。
でも簡単に解いちゃうと気持ち悪いじゃん? 私まだパズル初心者の幼児なんだよ?
もうさ、今までしてきたどんなゲームよりウズウズしたわ。
試行錯誤を繰り返し、お父さんと共同で漸く完成させたのは、夕飯を挟んで日が沈んだ頃。
疲れた。 お父さん、お母さん、おやすみなさい。
その場でガクッと寝落ちする。
フローラちゃんと遊べるのはまだまだ先かな。
*
そんな風に過ごしていたある日の午後。
お母さんとお昼寝していると玄関がノックされ、あのシスターさんが訪ねてきた。
「お久しぶりです、シエルナさん、エメルナちゃん」
綺麗にお辞儀するシスターさんの後ろに、同じくお辞儀する子供シスターちゃん。
まだ雪の残る寒い中でも、防寒着は真っ白だった。 保護色みたいだな。
取り敢えず寒いので入ってもらおう。
「お久しぶり、レムリアさん、エレスチャルちゃん」
何しに来やがったお姉ちゃんの敵。
「まずは後れ馳せながら、エメルナちゃんのお誕生日、おめでとうございます。 こちら私からのお誕生日プレゼントです」
渡されたのは、5cm程の厚みのバームクーヘンだった。
雪道でお疲れでしょう? 一緒に暖炉で暖まりましょうよ♪
緑茶しかないけど良い?
2人を招き入れ、暖かい居間に通す。
防寒着はお母さんが受けとると、暖炉の近くに乾くように広げていた。 にしても防寒着の下はやっぱりシスター服だったのね。
白ばっかだな。
私は今、シスターさんに微笑まれながら、フローリングの床で紙に絵を描いている。
題材はシスター。 驚きの白さを自覚するがいい。
お母さんがお茶を入れて戻ってくる。
「すみません、今日だったとは……すっかり忘れて、娘と寝入ってしまっていました」
「いえ、私達も突然押し掛けてしまいましたので。 ご迷惑ではなかったでしょうか」
「いえいえ、外に遊びに行くわけにもいかなくて、暇していた所ですから」
「そうですか。 では、あまり長居する訳にもいきませんし、先に用事を済ませてしまいましょう」
「ですね。 エメルナァ~」
ん? 描いてる途中で両脇から持ち上げられ、シスターさんの前まで運ばれる。
徐に胸元から銀の十字架を取り出すシスターさん。
え? なにこのデジャビュ。
つい1年前にも似たような……
額に十字架を当てられました。
瞼を下ろして詠唱に集中されているけど、やっぱり痛みも浄化される感じもしない。 冷たいと思っていた十字架は人肌に近く、私の額と同じくらいの温度だ。
硬い物を当てられてる……くらいの印象でしかない。
(で、やっぱりお姉ちゃんも大丈夫そうね)
((だねぇ。 所謂、神聖術に分類されるお呪い系は詳しくなくてね。 この詠唱がどんな効果をもたらすか分からないのよ))
(そっかぁ……)
多分だけれど、私達は今、人とサキュバスの良いとこ取り状態なんだと思う。 夢の中で何でも好きに出来るし、悪魔祓いだって効果が無い。 1度の偶然ならまだしも、これはもう確定なのではなかろうか。
十字架が心臓の辺りに当てられる。
(……本当にこれ意味あるの?)
((多分だけど、下級の悪霊や悪魔の憑依から守るための、予防なんじゃないかな?))
(あぁ……)
予防注射?
((うん。 でも、だとしたら残念、私達には意味無いね))
(最初っから居るもんね)
((それもだけれど、それだけじゃなくてね。 予防って意味でも、私達には必要無いと思うの))
…………どゆこと?
((私がもう居るじゃない? 本来なら既に定員オーバーだもん。
普通、1つの体に1つ以上の魂は存在できないの。 無理すると体が壊れたり、どちらかの魂が追い出されちゃうからね。 だから……何故か大丈夫なのは今は置いておくとして……もう悪魔族である私が居るこの体が狙われる事は、よっぽどじゃない限りそうそう無いって訳))
へぇ~……
((ちなみに、赤ちゃんは魂と体がまだ融和しきれていないから、付け入る隙があるの。 だから狙われやすいんだね。 成長して融和しきった体に入る時はこう、ベリベリッ! と引き剥がすんだって))
お姉ちゃんからの、瘡蓋を爪で毟るイメージが伝わる。
うわ痛そう……。 それが憑依されたら体に異常をきたす原因か。
ん? なら成長したって、結局定員オーバーで拒絶反応起こして苦しむんじゃ……
1年前と変わらずピンピンしとりますけど?
((それは、隙があると言っても、席は1つだけだからだね。 でも何故かエメルナちゃんは2席もある))
人差し指を立てていたお姉ちゃんのイメージが、ピースした。
そしてそのどちらも埋まってる、と。 もしかして、手を繋いで共に転生したのが影響してたりするん?
まぁ、とにかく。 お姉ちゃんが居てくれているおかげで、霊や悪魔はこの体に憑依したがらないってことなのね。
またお姉ちゃんチート説が濃厚になったな。
((これはむしろ、2席もあるエメルナちゃんがチートなんだけどなぁ……))
予防注射が終わり、紙の前に戻される。
と、今まで無口だったシスターちゃんが隣に座った。
「何描いてるの?」
できれば1人にしていただけませんかね。
見て分からない? って言っても下手に描いてるから、細長い雪の塔にしか見えないんだけど。
最大のヒントをくれてやろう。 この、紫の髪で仕上げだ!
「しろ!」
「えっと……うん、白いね」
シスターって意味で言ったんだけどなぁ。
分かんないのかよ。
ちゃんと鏡見てる?
白い紙に白で描いたシスター2人。 1人は紫髪だけど、もう片方は完全に白だ。
仕方ない、金糸の装飾を黄色で表現してやるからちょっと待ってろ。
「……………あっ、私?」
正解。
「でもこっちは…………何の魔蟲よ」
サナダムシじゃねぇんだから!
あんたのよく知る人物だわ。
「レムリアさん、もう宿とっちゃいました?」
シスターちゃんとお絵描きクイズをして盛り上がっていると、お母さん達の会話が耳に入った。
「いえ、先程到着したばかりですので。 このあとフローラちゃんを伺ってから、クレアさんの宿に行ってみる予定です」
「じゃぁさ、もう遅いし、ここに泊まっていかない?」
何言ってんの? ねぇお母さん何言ってんの!?
「しかし、ご迷惑じゃありませんか?」
「全然! 良ければ久しぶりに、聖職者とか関係無しで、友達のレムリアと話したいからさ♪」
「うっ……そう言われると弱いんですよねぇ」
困っているようだけど、声は嬉しそう。
やっぱり2人は旧友だったのか。
少し悩んだレムリアさんは、シスターちゃんを見詰めて…………溜め息を吐いた。
「そうですね。 お言葉に甘えて、息抜きさせていただきます」
マジか……
((今日は魔法の練習はしない方がいいね))
(うん。 隙を見て早よ寝よう)
その後レムリアさんは村長さん宅に向かい、お父さんが帰ってきてから戻ってきた。
エレオノールさんを連れて。
桃ロングさんも友達だったのか。
・・・
「だぁぁもう! あんバカ貴族なんにゃんでしゅかぁ~~~! あんらに可愛い子達がペットらら、あんバカ息子なんて害獣以下れしょ!? 人げぇ至上主義とかじラい遅れらんれすよぉ~!」
酒臭せぇ!!
エレオノールさんが持参した赤ワインで完全に出来上がってしまったレムリアさんは、シャワー後のパジャマ姿で日頃の不満をぶちまけていた。 真珠色の美しいロングウェーブが乱れ、青緑のパジャマから豊満な谷間がチラチラ見える。
この場で素面なのは寝るタイミングを逸した私と、目を点にしたシスターちゃんだけである。
ちなみに、シスターちゃんはピンクパジャマだ。 可愛い。
お父さんがレムリアさんに大きく頷く。
「分かる! 学生時代いたなぁそんな奴。 差別しまくって退学させられたバカ貴族。 見ててもう哀れだったぞ」
「あぁ~あの七光りでしょぉ! シェルに告白してあっさり断られた自信家の!」
「そう、それそれ」
「そういえばあの人、部室に職人さん呼んでシェルさんへのプレゼント作らせてて、皆に引かれてましたねぇ……」
「ちょっろぉ! わぁしの知らない学生時代れ盛り上ぁらいれくぅさいよぉ! そんにそれ、夏休みに聞ぃきまぁしらぁ!」
蚊帳の外にされ、涙目で訴えるレムリアさん。
ちょっと、このシスターさんのこと好きになってきたかも。
「あのレムリアさんが……」
信じられない光景を目の当たりにして、誰にも聞こえない小声で呟くシスターちゃん。
ショックだろうなぁ、清純そうな頼もしいシスターさんがこんなに荒れてて。
結局ジュース組は寝落ちするまで、4人の飲み会に付き合った。
次回は一気に数話投稿しようかなと




