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ベルーナ・ヤクモ(2)

オーラ万能説

突如として背後に現れた手品師(マジシャン)。その不意の一撃を偶然避けた俺は振り返りざまに斬り捨てんと刀を振るう。しかしその一撃は虚しく空を切った。既にそこには誰もいない。


思考に空白が生まれる。目の前で起こったことが理解出来なかった。確かに今そこにヤツはいたのに一瞬で消えただと?


目を閉じて視覚以外の感覚器官に神経を尖らせる。明確には認識できない程の微かな呼吸音や匂い。別の言い方をすると気配を無意識のレベルで感じ取ろうとする。


……上か!


斜め上後方を仰げば、そこには天井の巨大なシャンデリアに腰掛けるベルーナがいた。


「へぇ、よくすぐに見つけられたわね」


くすくすと笑いながらこちらを見下ろしている。


光学迷彩のような視覚を誤魔化すものでも使ったか? いや、だとすればこの移動距離は説明がつかない。どうやってあそこに移動したんだ? 何にせよまずは地面に降ろさないと届かないか。


鞘に刀を納め腰を低くする。この居合の構えから刃に気を乗せてオーラを纏い放つ飛ぶ斬撃。華天流二之型“雉撃ち”。


刀の軌道、その延長線上のものを一切切り裂くソレを天井のシャンデリアへと飛ばす。しかし……まただ、一瞬で消えた。斬撃はシャンデリアの一部を斬り飛ばすのみに留まる。


周りに視線を巡らす。いた、丁度自分の反対側の壁側のルーレット台。


その手には複数のコインが握られていてそれを空中にばら撒く……そしてコインが宙に浮いた。何らかの力で、いや十中八九オーラによるものだろうが、それで空中をフワフワ浮いていた。


「欲しいでしょ? このコイン?」


胸の前で交差した腕をこちらに向けて振り抜いた。その動きに従うように空中のコイン達が一斉にこちらに放たれる。


スロットの影に隠れてやり過ごそうとした次の瞬間大きな爆発音と共に壁にしていたスロットの筐体が弾け飛んだ。破裂した筐体の部品が飛んできたがどうにか飛び退り、身体を掠めこそせよ直撃だけは回避する。


……ッ! ほぼ同時で分かりづらかったが爆発音自体は複数聴こえた。コインの射撃と爆発……理屈は分からないがコインで爆発させたと考えるのが妥当だろう。


力そのものであるオーラにそんな爆発効果を付与するようなことができるのか。そう疑問に思うが、今重要なのはコインが爆発することで理屈はどうでもいいと考えないことにした。


爆発による煙が晴れて向こう側が見えるようになったが既に先程までいた場所にベルーナはいなかった。また消えたか。


……近距離は強力なバリア。遠距離からは弾丸の如きカードと爆発するコインの射撃。そしてこのワープ染みた移動。俺が殺そうとしているのは果たして人間なのか?


……どうでもいい、化け物であれ何であれ刀を届かせることだけを考えろ! 届けば斬れるし殺せる。



迷路のようなスロットコーナーの道を駆け抜けながら頭の中で考えを纏める。まず遠距離からの攻撃。それ自体は厄介だがそれも刀が届くほど近づけばそこまで大きな障害ではない。問題はそもそも近づくことが難しいことと、出来てもバリアで対応されることだ。


バリアの攻略については考えがある。故に問題はあの瞬間移動だけだ。どうにかしてその移動先の予測をしないといけない。それには……。


「最初の勢いはどうしたのかしら新人さん(ニュービー)


……ッ!


ギリギリでカードの弾丸に気づき回避する。飛んできた方向、スロットの筐体の上にベルーナがいた。遠い……ならば消える前に詰める!


全身に気を張り巡らせ剣気で身体を覆う。剣気よりはオーラ、闘気に近い用法だがこれも華天流の技の一つ。華天流四之型“神在月”。


この技は純粋な身体能力の向上が出来る。これが無ければ鉄の塊であるジェイソンを吹っ飛ばすなんて出来やしなかった。


強化されな脚力をもって急接近する。目の前の敵の速さのギャップに感覚が追いつかなかったのかベルーナの動きが完全に止まってしまっていた。そのまま止まってくれていれば楽なんだがな。


無論そんなことはなく。再起動を果たしたベルーナは、手を前に指し出す。この動作はバリアだ。もう既に見せた手札をもう1回使えると思うなよ。


俺はその手の動きを見てから強化された膂力を持って強引にその場で急停止、そして横方向に再度急加速して駆ける。急な停止と加速を間髪入れず行うことで一瞬だが俺の姿はベルーナの視界から外れる。


そしてその一瞬で背後へと回る。ヤツのバリアは手の先に出すものと見た。故に背後からの攻撃を防ぐことは出来ないはず。


近くにいるはずの敵を見失う。自らの死角に潜む凶刃。否が応でも精神的に追い詰められる。そうなった時の人間の行動とは意図せずして限りなく制限されたものとなる。すなわち生存圏への脱出。


一瞬で目の前から消える手品師(マジシャン)。しかし今度はすぐに見つけられる。丁度真正面にある奥のステージの上、そこに彼女は倒れるようにして現れた(・・・)


「ハァハァ、何今の速さは……!?」


「俺も手品の一つぐらい持ってるさ」


間近で見てやっと理解する。これは恐らく本当にワープしていやがる。オーラでやれる範疇を余裕で超えてる。タネも仕掛けも無い本物の超能力だ。


理解して改めて卑怯だと言いたくなるが残念ながら殺し合いにそんな言葉は無い。それに何となくだが移動の条件は見えた。


神在月の状態は長くは続かない。全身に力を入れて更に神経を張り詰めながら走り続けるなんてことしてたら疲労のスピードも当然早い。早めに仕留めないとこちらがやられる。


ここで勝負を掛ける!


無造作に刀を振るい斬撃を飛ばす。神在月であれば居合でなくとも雉撃ちくらいは容易だ。そして居合の必要が無いということは雉撃ちの連射が可能だと言うことだ。


華天流二之型“雉撃ち群鳥”


ベルーナは振るわれる刀を見て反射的に手を前に差し出し連続で飛んできた斬撃をバリアで防ぐことに成功する。


しかし何発か防いだところでそれに気づく。自分がいない別の方向へ斬撃を飛んでいることに


……その方向は天井……狙いはシャンデリアと天井の接合部分。


天井との接合部分は複数の斬撃を浴びて破壊され、その絢爛さに応じた大きさの物体が重量に従い落ちてくる。


派手な破砕音と共にベルーナの目の前にシャンデリアは落ちた。辺りに明かりのガラスなどが飛散する。それをバリアで防ぎながら壊れたシャンデリアの隙間を覗くがそこには既に刀を持った敵対者の姿は消えていた。


飛ぶか……? 前はシャンデリアで塞がれて飛べないし上にも逃げられない。ステージに逃げたのは失敗だった、ここでは左右に逃げても距離を稼げない。瞬間移動は使えないか!


悪寒が走る。生まれた時から殺し合いをしていたがために培われた勘。それが次の瞬間には凶刃が我が身を切り裂くと告げた。


姿は見えないが既にヤツはもうすぐそこまで来ている!? 周りを見る時間も惜しい……ッ!


ベルーナはカードを超能力でコントロールし周囲に円形に展開しそれを射出する。360°、どの方向から来てもこれで仕留められるはずだ。


焦りで思考に穴が出来た。或いはシャンデリアを見るために一度上を見てしまったことで無意識にそこは大丈夫と判断してしまったのか。何れにせよ致命的なミスだ。


彼女が視線を下に下ろしたと同時に彼は真上に飛んだ(・・・・・・)。凄まじい速さで飛び上がり空中で半回転して脚を天井へつけ、そしてまた地面に向かって飛ぶ。今度は斜め方向、シャンデリアの向こうのベルーナへと向かって。


円形に射出されたカードは虚しく壁や筐体へと刺さっていき、斜め上から襲いかかる凶刃をベルーナが回避することは不可能だった。


左肩から入り腰の辺りまでを横断する。傷の深さは疑いようもなく致命傷のそれ。ベルーナ・ヤクモは処刑された。


勢いを殺しきれずそのままステージの上を滑り転がり舞台背後に位置するカーテンに包まれてようやく止まる。


すぐに立ち上がりベルーナの方を向く。そこには身体から鮮血を流しながらも、それでもなお立ち続ける彼女がいた。


手応えは確かにあった。間違いなく致命傷の筈……!?


「心配しないで……賭けは貴方の勝ちよ」


「……よく立ってられるな」


「だって……ギリギリまで死にたくないもの」


「死ぬと分かりきってるのに何故足掻く」


「最初に……言ったでしょ。理屈じゃ……ないのよ。手に入れ……たいから手に……入れる、死に……たくない……から生きる。ただ己の……感情……衝動に従い続けたのよ」


その瞳は死に損ないのそれとは到底思えなかった。尊敬の念を抱かせる程の立派な一人の人間がそこにいた。


「……それでも俺が生き残って、お前が死ぬんだ」


「……まったく……そのとおりね。 ……くや……しい……な……」


最後に悔悟の言葉を遺し。彼女は、ベルーナ・ヤクモはその場に崩れ落ちた。

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