ベルーナ・ヤクモ(1)
「ベルーナ・ヤクモ。彼女は超能力者なんダ」
ここギルティシティの中心を真っ直ぐ貫くようにあるメインストリート。夜闇を照らすネオンの光と聳え立つ摩天楼はここが非現実なのではないかと錯覚してしまいかねない程の存在感を放っている。
本来ならこの極彩色に誘われる人間でごった返していなければならないはずの場所が今は人っ子一人もいなかった。
「エスパー。それって確か一種の病気のなんだっけか」
「そうだヨ。ウイルスによる突然変異での異能の覚醒。暗黒時代の置き土産ってヤツだネ」
「昔の偉人エスパー達が散々やらかしたせいで今じゃ即処分とか聞いたことあるけど、まだ生き残りとかいたんだな」
「ふふふっ、彼らはね生まれながらの死刑囚なんだヨ。だから生まれてすぐにこの街に投げ捨てられた。生き残ってるのはつまりそういう事サ。殺処分なんて死刑と変わらないデショ?」
人でないものを人が殺すことは間違いである。
つまり生まれ持った才能だけで人間なのに人でない何かのラベルを貼られたのか。碌でもない。
「しかし彼女はそんな境遇の中でも抗えた強者ダ。今の地位は実力で勝ち取った本物だってことは忘れない方がいいヨ?」
「そうかい」
摩天楼に挟まれた形のメインストリートの行き止まりにはこの派手な場所にふさわしいもっと派手な建物が建っていた。全部黄金で出来ているんじゃないかと疑いたくなるくらいに眩く煌めく金色の建物、その入り口の上には“カジノ・ベルーナ”の文字が並んでいる。ヤツの、ベルーナ・ヤクモの居城だ。
「着いたかナ?それじゃあ殺しあってくるといい、それが私達の望みであり君の望むべきことサ。立ち止まってる暇なんか与えないヨ?」
「立ち止まる気は元からねぇよ」
入り口の両開きの大扉を押し開けて黄金の城の中へと入っていく。
広大な部屋にはカジノやルーレット、スロットなどが見てわかるように区分けされて部屋の大きさ相応の数が置かれている。
無論ここにも客はいない。いるのは奥のステージに立つ一人の処刑人だけだ。
羽のついたシルクハットを被りタイツに包まれた脚を見せるような造りのスカートを穿いた、マジシャンのような風貌の女性がそこにいた。
「ベルーナ・ヤクモか?」
「ええそうよ。ようこそ私の富と権力の象徴たる城へ」
「一ついいか? この街で権力何か手に入れてどうするんだよお前」
「富や権力を手に入れるのに理由がいるの? 欲しいから手に入れた。それだけよ」
「分からんね。俺には無駄としか思えない」
「理屈が必要なの? それこそ無駄よ。必要なのは感情だけ。善悪をも超えて正しきものである感情で動けばいいのよ 」
「人というより獣だな」
「私からすればアナタは人というより機械のように見えるわ」
刀を抜き、駆ける。目の前のポーカーテーブルを踏み台にしてベルーナとの距離を詰める。
動きは無い。何を隠しているのか分からないが下手なことをしたらそのまま斬り捨てるだけだ。
テーブルから跳躍し一気に近づく。そして跳躍の勢いと全体重を乗せてそこから更にオーラを用いて重くした一撃を持って斬り捨てる。
「正直に正面から来るなんて考えが甘いのではなくて?」
彼女はこちらに向かって手を翳す。刀はその手を切り裂きそしてそのまま身体も斬り捨てる、そうなるはずだった。
渾身の一撃は彼女の手から少し離れた位置で何かに阻まれてその勢いを失う。磁石の反発のようにそれ以上は刀を彼女に近づけられなかった。寧ろ力の反動か逆にこちらが吹き飛ばされてしまう。
飛ばされた勢いで一回転をして態勢を立て直して真後ろのテーブルに着地する。前を向けばそこには赤紫色の淡い煙のようなものを纏ったベルーナが見えた。アレは剣気か!?
「念動力を味わうのは初めて?」
「ああ、そこまでそれを使いこなすやつを初めて見たよ」
まさかさっきのはその剣気、いやオーラを盾みたいに使って刀を受け止めたのか? だとするとコイツは、超能力とは……。
ベルーナの手にはいつの間にか数枚のトランプのカードが扇状にして握られていた。直感で不味いと感じテーブルから飛び降りる形でその場から離れる。すると、先程までいた所にそのカード達が深く突き刺さっていく。
紙のカードがテーブルに突き刺さるってどういうことだ。
目の前の理屈の通らない現象に驚き作ってしまった空白に次々とカードが飛んできた。
回避行動が間に合わないか、仕方ない刀で弾いて、カードがオーラを纏ってるだと……クソっ!? グッ!
銃弾並みの重さが手に伝わり、いくつかの軌道を逸らすのに失敗した。顔に飛んできたのは首を傾けギリギリ回避したが。右肩に飛んできたカードを躱すことが出来ず肩の肉に深く突き刺さる。
痛みで怯みかけるが、一箇所に留まると的うちにされてしまう。脚に意識を集中してとにかく動きを止めないように全力を注ぐ。
次々と飛んでくるカードの弾丸を避けながらどうにかスロットのコーナーまで入り込みその筐体の影に隠れる。
肩からカードを抜く。トランプを模した鉄の手裏剣かと淡い希望を抱いていたが違った。正真正銘ただの紙のカードだ。オーラで紙を鉄のようにしたと考える他ないか。
そもそもオーラとは人が力を入れると感じる圧、あるいはエネルギー、それが武芸を極め力を極限まて練り上げた結果外に漏れ出て視覚化されたもののことだ。
故に漏れ出たものをコントロールすることで飛ぶ斬撃を放つことも出来るし瞬間的に凄まじい力を発することも出来る。そしてカードをオーラを使って鉄のようにすることも恐らく可能だ。
しかし目の前の超能力者の動きは見たところでは素人のそれ。武術の欠片も感じられない。つまり彼女は武による方法でオーラを纏っている訳では無いのだろうか。カードを用いた武術があるとも考えづらい。
何にせよ今回の敵は今までと連中とは違い同じ土俵で戦わざる得ない強敵ということだ。勝ちも負けも有りうる平等な戦いをせざる負えないのは辛いものがある。
さて、しかしあの遠距離からのカードを掻い潜ってどうやって接近するか。そしてあのオーラの盾をどうやって破ったものか。
勝ち方を考えようと影からベルーナの様子を覗く。すると先程までいたステージの上にヤツの姿が無かった。
いない? ここに逃げ込んでからの時間的に物陰に隠れる余裕なんて無いはず……。
どこに隠れたのか探そうとした瞬間だった。その動きをしたのは偶然かあるいは無意識の直感によるものだったのかは分からないがその場に屈んだことで背後の死角からの攻撃を避けれてギリギリで生き延びることに成功した。
頭上を通り抜けた死の気配、背後を振り向けばそこにはベルーナがいた。馬鹿な、いつ、どうやってコイツは俺の背後を取ったんだ!?
「私のイカサマをアナタは見抜けるかしら?」
命をチップにしたイカサマ有りのギャンブル。イカサマを見抜けなければ勿論死ぬだけだ。
この作品はなんちゃってファンタジーSF復讐活劇です(2回目)