ジェイソン・ネバーエンド(3)
派手な火花を散らしてチェーンソーと刀の刃がぶつかり合う。
刀を上手くずらして力の流れを逸らし、チェーンソーを壁へと叩きつける。派手に音を響かせながら壁が削り取られる。その隙に削られたのとは反対の壁を使い三角飛びの要領で上に飛ぶ。
そして落ちる勢いを利用して全体重を乗せた渾身の一撃を頭に突き立てる。生け花の如く刀が頭に垂直に突き刺さり、そしてヤツの身体から力が抜けて倒れ込む。刀を抜きヤツの上から飛び退く。
外れたパーツを見るに、頭の部分の装甲はそこまで厚く無かったからいけると思ったが案の定だった。上からの攻撃が有効か。
さて、これで5体目だがまだまだ来るか?
周りにはその動作を停止させられたジェイソン達が転がっていた。
2体目は自らのチェーンソーで自滅させて。3体目は目にあたる位置に刀を突き刺して。4体目は機械化の部分を把握したから達磨にして。そして5体目には脳天一突きで倒した。武器が斧とチェーンソーの2つしかなさそうなのが有難い。
回数を重ねて倒し方が分かってきたのはいいがそろそろ体力が持たない。1体目で剣気を全開にして強引にぶっ飛ばしたのは失敗だったな。室内だと狭くてヤツの頭上が取りづらかったからどうにかして外に出たかったのだが、まさかヤツが自動人形でしかも何体もいるなんて予想出来るかよ。
路地の曲がり角の向こうからまた機械の駆動音が聞こえてくる。6体目のお出ましか。
ジリ貧だな。このままだと確実に負ける。何か手を考えないといけないが……逃げても延々に追いかけられるのがオチだ。どうにかして恐らくだが離れたところでジェイソンを操縦している本体を見つけないとどうしようもないな。
曲がり角から今度は最初と同じ、斧を持った機械のジェイソンが現れた。度重なる戦闘で息が荒くなってきていた。刀を振るだけならまだ問題無いが、さっきみたいな押し合いはそろそろキツいかもな。
そして両手でしっかりと柄を握りしめて正眼の構えを取り正面の敵を見据えようとしたところで後ろから声をかけられる。
「オイ、サムライ。手伝ってやるよ」
後ろをチラッと覗けば一緒にジェイソンに襲撃された不運な片腕君がいた。
「手伝うだと? どうやって?」
「ヤツの本体の居場所を探してやる」
「出来るのか!? ……いや、そもそも何故俺を助ける」
ジェイソンが迫り、振り回してくる斧を刀で捌きながら問う。自分の片腕斬った男を助ける道理なんて無いだろ。
「どうせアンタが死んだら今度は俺が殺されるんだよ。だったらアンタに生き残って貰ったほうが生きる目があるってもんだ」
中々合理的に判断する奴だと振り下ろされた斧をカウンターの要領で斧の柄を斬り飛ばしながら少し感心する。
この街の唯一のルールは他の死刑囚を殺して生きながらえること。故に自らより弱い奴をわざわざ生かす意味なんてこれっぽっちも無い。オレは邪魔さえしなければ見逃すが、目の前の殺人鬼マシーンが同じとは到底思えない。
命を取らずに見逃した男とやたらめったらに暴れまくる機械のどちらを信用するかと考えれば分からないでもないが、それでも自らの腕を斬った男に助力するとはこの街にあって珍しい強い理性を持った男であると言える。
勿論裏切る可能性も充分あるが今はそこは憂慮しなくてもいいだろう。あの真っ直ぐな目なら信用出来る。
武器を失いその丸太のような、実際は鉄の塊の、巨腕を振るってくる。それを紙一重で躱し、すかさず腕の接合部である腋を狙った切り上げで腕を斬り飛ばす。そして態勢を崩したところで降りてきた首を横一文字でたたっ切る。これで6体目。
そして刀を肩に担いで振り向きながら問う。
「で、どうやって探すんだ?」
「アンタが壊したヤツの残骸を調べたらアンテナのような機能を持った部品を見つけた。これをいじって逆探知すれば見つかるはずだ」
「仕組みはよく分からないけどどれだけ時間がかかりそうなんだ?」
「あー、簡単な設定を端末にしてからだから多分5分も掛からないで終わるはずだ」
「そいつは僥倖。ジェイソンの本体斬り殺したらお前のポイント稼ぎも手伝ってやるよ。どうせこれから生きてく宛もないだろう?」
「はっきり言ってくれるなアンタ。事実だけどさ。良し、すぐ探し出してやる。探してる間に死んでくれるなよサムライ!」
「ギン。ギン・シノハナだ俺の名前」
「ジョニー・ヘンダーソンだ。覚えてくれよ!」
分からないものだ。この街ではただ一人で目の前の敵を斬っていくだけだと思っていたが、何の縁かこうやって助けてくれる者が現れるとは。……人生ってのはやっぱり予測不可能だな。
さっきのジョニーとの会話をジェイソンが聞いていたら今度はジョニーが狙われるだろう。そうしたら俺が本体に辿り着く手段が無くなってしまう。先程とは反対の方向からまた斧を持ったジェイソンが現れた。
来いよ、あと5分くらい遊んでやるよ。
どこかの部屋。様々な配線が地面を這い、幾つもの四角い画面だけが部屋を照らしていた。しかし部屋に新しい光が差し込む。部屋のドアが開けられ、そこには刀を持った人影が立っていた。
「……見つかっちゃったか」
「お前がジェイソン・ネバーエンド本人だな?」
「そうだよ赤目のサムライさん。しかし失敗したよ。まさか近くにいた隻腕のヤツにいっぱい食わされるなんてね」
「アイツの腕、俺が斬ったんだぜ? なのに助けてくれた。ケダモノだらけのこの街の中じゃ珍しい、素晴らしくマトモなヤツだよ」
「変わり者なのは確かだね。彼も……そして君も。画面越しだったからこそ分かったよ。君は僕達とは違うってね」
「違う? 何がだ」
「この街に来るヤツは皆、殺しを楽しめる連中だ。僕も憧れの殺人鬼になりきって殺しまくってたらここにたどり着いたんだしね。無論、今の法だともう少し軽い罪でも死刑囚にさせられてしまうだろうからその限りでは無いのも確かだ。けど君は……相手が機械だと気づく前は、苦しそうにしながら殺そうとしてた。画面越しとはいえ表情を間近で見てて痛々しかったよ」
「苦しそう……ね……」
「ああ、本当に苦しそうだった。水に顔を突っ込まされて窒息死しそうな時のあの顔にそっくりだったよ。……どうしてお前はこの街に来たんだ?」
「……畜生だからだよ」
「随分と芯の通った畜生だ。上に姉さんがいるんだ。会えたら先に行ってると伝えといてくれ」
「それは難しいな。……畜生ならば口より先に刀だろうからな」
「畜生は悩まないよ……サムライさん」
横一文字。その首は先の殺人鬼よりも軽い手応えで斬れ、身体から落ちていった。