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ラザロ・ペストーニャ(2)

目的地に向かう道中で襲いかかってきたヤツを叩き斬ってパクった自動二輪に乗り、街外れまで来た。


上を向けばそこには天を衝くほど巨大な雲のような繭のようなもので覆われている例の汚染地域が見えた。


大規模な事故で汚染され人が立ち入れなくなったとか何とかだったか。この街がこういう場所として選ばれたのもあの雲繭のおかげらしいとも聞いた。


携帯端末の画面に表示されている座標を確認して第9位がいるであろう見てくれからボロボロの工場を見つけた。


二輪を降りて正面の扉を開ける。サビてるのか動かすと色々削るような音が響く。


中は薄暗く何に使うかよく分からない機械が所狭しと並んでいる。これは恐らく汚染事故で人がいなくなりその時のままでずっと放ったらかしにされてたのだろう。


ここに9位様がいるらしいが何処にいるんだ?


「挑戦権をわざわざ使って私と戦おうという奇特な奴は君かね?」


上の吊り橋のようか道からコチラを見下ろす形でソイツは立っていた。


神経質そうな目に何の汚れかよく分からないレベルでカラフルな彩色を施された白衣を着た男だ。


「アンタが9位か?」


「質問に質問で返すなんて礼儀のなっていない奴だな」


「この街でそんな細かい礼儀を気にするヤツがいるかよ。で、アンタがラザニア(・・・・)だか、ペペロンチーノ(・・・・・・・)だか何だかって名前の9位様で合ってるのかよ」


「ラザロ・ペストーニャだ! この天才の名前を間違えるとは度し難い奴だな君は!」


いきなり怒声で返してくる。名前を間違えたくらいで怒るなんて短気だな、全く。


てか、天才だ?


「私は本来ここにいていい男じゃないんだよ。世界の宝たるこの頭脳をこんな掃き溜めに追いやるとは愚民共は何も分かっていない!この荒廃した世界に私のような天才が産まれたのは天上の神より遣わされたとしか考えられんだろうが。それを奴らは自らの矮小さを認めたくない、ただそれだけで私を追いやったのだ。嗚呼、全く度し難い!!」


何も言ってないのに急に捲し立ててきやがった。これは成程、確かにお喋りは期待出来きなさそうだ。


周りを見渡してヤツの立っている場所に行ける場所を探す。どうにかして上に上がらないと。


上に上がる階段は見えるが如何せん遠い。ジャンプであそこにたどり着ければいいんだが。何かないかと周りをフラフラ探索する。どうせあちらさんは喋りに夢中で気づかないだろ。


「どいつもこいつも分かっていない、世界の正しき……オイ、何勝手に動いてる!」


ちっ、ちゃんと見てたのか。


「長いんだよ天才様のお話は。ちゃんと聞いてたら昼夜逆転しちまうんじゃねえのか」


「この天才の有難い話を聞けるのだ、何時間でも我慢出来るだろうが」


「無理だね。オレは今、一分一秒でも惜しいんだよ!」


そして駆ける。時間が惜しい、さっさと斬る。


階段は遠く、上に上がるには時間がかかりすぎる。ならば飛んで(・・・)たどり着けばいい。


ジャンプで届かないのは分かっている。が、ここには放ったらかしの機械(あしば)が沢山ある。


機械に足をかけその機械の上に登る。しかしまだ高さも距離も足りない。上を見上げクレームのアームらしきものがぶら下がっているのを見つけそこに向かって飛ぶ。


届いた手をかけ一旦ぶら下がって止まる。そこから全身を使ってブランコのように振り子運動をして勢いを付けてから思いっきりまた飛ぶ。


傍から見たら曲芸のようにしか見えない動きだっただろう。見世物にしか見えず必要性はあったのか考えてしまう。しかしその結果として殺意は想像よりも早く喉元に近づいている事実には科学者はすぐに気づく。


ラザロは懐から小さな瓶を取り出すとコチラに投げつけてきた。


中身は得体の知れない、これまたカラフルな液体で満たされていた。その不自然な色から本能的に触れると不味いと感じその瓶を避けるようにラザロから距離を取る。


瓶が地面と衝突して砕け、その中身をぶちまける。するとその液体は煙を出しながら足場を溶かし始めてあっという間に大きな穴を穿った。


「私が開発した新薬はどんなものでも溶かす。鉄でも肉でも等しくな」


ヤツは懐から更に複数の瓶を指の間に挟むようにして取り出し、コチラに投げつけてくる。


刀では弾けない。下手に触れて刀が溶かされたらたまったものではない。幸い、この天才様はメジャーリーガーという訳でも無いので瓶の投擲速度は大したことない。狭い足場と言えど見て躱すのは容易だ。


しかし避けても足場が崩されて下に落とされる、すると今度は上からケミカルな雨が降ってくることになる。流石にそれは避ける必要がある。


避け続けても詰む。ならばその前に近づいて斬って捨てればいいだけだ。


飛んでくる瓶を足をあえて崩して足場を滑ったり欄干の外に飛び出したりして奇を衒って躱しながら接近する。


「クッ、凄まじい動きをするな! サーカスにでも入った方がいいのではないかね!」


もう少しで刀の間合いに入るという所でヤツは両手を交差させて懐から物を取り出す。片方は今までと中身の色の違う瓶を。もう片方は、アレは……ガスマスクだ。


そしてヤツは間髪入れずにその瓶を足元に叩きつける。


今度はさっきと比較にならない量の紫の煙を周りに放ち二人を包み込んだ。


やたらに撒かれた劇薬による損傷で自重に耐えきれなくなったのか足場が崩れ落ち大きな音を響かせる。そしてその崩落からか煙からか逃げるように誰かが煙の中から尾を引いて飛び出してくる。ラザロだ。


「とにかく殺傷能力を追求して作り、実際に凄まじい殺傷能力を持たせることに成功したのはいいが。マスクが数秒しか持たないのはやはり難点だな。自爆紛いの攻撃と爆弾代わりとしてとしか使えん」


顔の解毒薬と毒煙が反応してカラフルな液体を垂れ流しているマスクを投げ捨ててラザロは笑みを浮かべる。


あの薬は二種類の気体を出す。1つは人の目には見えず少しでも吸えば全身が固まったかのように動けなくなる気体。そしてもう一つはあの紫の煙でそのまま吸い続けて死に至る。正に必殺の兵器。


突然足場が崩れたのには驚いたが動けないこと事には変わりない。毒で即死か半端に死にかけて苦しむかのどちらかだろう。


どんだけ動けようと所詮は凡愚。天才の私にかかればこの程度のものよ。殺し合いを制して生を得たことを確信し喜悦に浸る。


「危ないな、オイ」


しかし下から聞こえてきたその声を聞き、一転して不快と不可解の感情に襲われる。何故喋れる!?


崩落した足場で舞い上がった煙の中、そこには毒煙に包まれ血まみれになっているはずの男が無傷でそこに立っていた。


「バカなどうやって!?」


あの距離で逃げ切るなぞどれだけ早く動けても不可能なはず。呼吸を止めたとしても解毒薬が無ければ身体の麻痺は避けられないはずだ。


「煙なんて刀で風を起こせば問題無い。まぁ煙の癖に何か重たかったから完全に晴らすのは無理だったけどな。足場を崩さなかったら危なかった」


刀で風を起こすだと。何を馬鹿げたことを言っているんだアイツは。刀の腹で振り回したとしても煙を退かす程の風は起こせんだろう。


「しかしさっきのがあると近づくのは難しいな、仕方無い」


そう言いギンは刀を鞘に仕舞って、柄尻に手を添え、腰を落としてラザニアを睨みつける。


それは俗に居合と呼ばれるものの構えだ。しかしラザロとギンとの距離は上階下階に離されている。刀の届く距離では断じて無いはずだ。


高所の方が有利であるとラザロも分かっている。ここから瓶をヤツに投げ続ければいずれは当たり、溶けて死ぬ。


ヤツが何をしようとしていても最後に勝つのは私だ。


懐から瓶を取り出して投げつける。放物線を描いてギンに迫る。避けなければ死が待っている。


しかしギンは動かない、彼は待っていた。瓶とラザロ。この二つが同一直線上に並ぶ(・・・・・・・・)その一瞬を。


…………並んだ!


瞬間刀を鞘から抜き放つ。その刹那をしかと目で捉えられる者はほとんどいなかっただろう。その抜き放たれた刀が奇妙なオーラ(・・・)を纏っていたことに気づいていたのもまた少ない。


ラザロは理解出来なかった。


刀は何にも触れていなかった。タイミング的にヤツが抜き放った刀は空を斬っていた。しかし投げつけた瓶は空中で真っ二つに斬られそのまま中の液体もヤツに当たらない軌道を描く。


そして私がまるで見えない刃にでも斬られたかのように斜めに身体を裂かれている事実。血を吹き出し倒れていく事実。視界が暗転し死ぬと気づいた事実。その何もかもを理解出来ないまま。ラザロ・ペストーニャはその生を終えた。

この作品はなんちゃってファンタジーSF復讐活劇です()

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