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アリス・デュリア(2)

男と女で闘った場合、男の方が基本的には勝つくらいの優劣の差は確かに存在する。


別に女性を軽視しているとかそういう話ではなく、身体的特徴での向き不向きの話だ。


筋肉のつきやすさや体格の大きさといったものが戦いの場に及ぼす影響力は大きい。単純な筋力や体格はそれだけで武器になるほどに。


そういった性差でどうしても女性と男性では優劣が出来てしまうのだ。


もちほん不断の努力でそれらの差を覆すことも当然可能だ。しかしその域に達するための道程は男性の方が容易なのも事実だ。


単純に人間としての造りの問題だ。価値観や認識でとうこうするものではない歴とした事実。


俺は女性と戦うのは好きではない。紳士的な理由ではなく、そういう差で勝敗が決まるのが納得いかないからだ。


戦いの場は常に平等でなくてはいけない、なんて世迷言は流石に言わないが。戦いの場に満足感を求めることは間違っていないはずだ。


彼女。今戦っている2位のアリス・デュリアの戦闘スタイルは徒手空拳だ。


自身の肉体のみを扱うそれは、男女での性差による優劣が最も出やすい戦法と言ってもいい。


そもそも素手と刃物という時点で有利不利が出来ているのだ。そこにこちらが有利に思える戦法で戦いを挑んできた。


強者揃いのランカーのトップツーという相手に対して慢心、とまではいかないが勝利の確信を深めてしまうのは仕方の無いことだろう。


……言い訳のようなことを言っているのはつまりそういうことだ。


今、俺は素手の女相手に一方的に追い込まれている。


刀を振るう間もない近距離からの乱打。ギリギリで見切り、防ぎ無理矢理刀を振るって距離をとろうとしてもすぐさま詰められる。


見切りがギリギリにならざる負えないほどの拳速に並外れた身体能力は神在月を使っている俺に追いすがるどころか追い越すほどだ。


まるで男女の性差による優劣なんて端から存在しないかのような圧倒的な実力。


何故これ程までの膂力を誇るのか。


理由は一見して分かる。


彼女の全身を覆うように発せられる透明色の闘気(オーラ)。それが原因であることは明白。


彼女はこちらの神在月と同じようなことをしているということだ。


自分に出来ることを他者が出来ない道理は無いとはいえ、過酷な鍛錬の果てに得た技術を相手も行使してくるのは流石に予想外だ。


しかも互いの見かけの肉体から見ても、その強度はこちらを上回っていると言ってもいい。溢れ出る闘気の量も含め技の練度はあちらが上だ。


認めざる負えない。彼女は格上だ。


だからどうした今まで通りだ。何一つやることは変わらない。刀を振るい斬るだけだ。


鉄と鉄がぶつかり合ったような音と共にこちらの斬撃が生身の拳に弾かれる。そして考えるよりも先に感じた悪寒に従い身体を思いっきり横に倒し、弾かれた勢いを利用してワルツを踊るように放たれたハイキックを髪の毛が掠るギリギリで回避する。


地面を掴むようにして脚を踏ん張り回避で上体の姿勢が崩れた状態から無理矢理刀を振るう。


しかし凄まじい速度で態勢を立て直していた相手は悠々とその反撃を捌く。


無理な態勢からの奇襲が防がれたことで流石にその場に留まることが出来ず、仕方無く弾かれた勢いに従うことで身体を回転させて独楽のように回りながら後方へと退く。


無論それは追撃する恰好の隙だ。


敵がとんでもない速さで接近してくるのを回転する視界の端に捉えたと同時に刀を地面に突き立て強引な急制動をする。


そして砲弾のような勢いと共に放たれる絶殺の拳を、地面に直立する刀の柄だけを足場にして倒立の要領で上へと跳ねて避ける。


なにかの破砕音と破裂音が死角からする。今のに当たっていたらと考えると冷や汗が流れる。


地面に着地するのと同時に地面から刀を抜きつつ背後を振り向きつつ間合いを取る。


丁度あちらも振り向いた所だった。足場の地面が思いっきりひび割れて抉れている。踏み込みの重さの凄まじさを雄弁にそれは語っていた。


彼女はまるでそれしか知らないように愚直にまた正面から凄まじさ勢いで接近してきた。


ギリギリだ。余りに余裕が無い。


相手の攻勢を捌くので精一杯だ。どうにかしてこの状況を打開しなくてはいけない。


しかしこの息もつかせぬ連続攻撃はこちらの余裕を作り出す隙を与えてくれない。思考する一瞬すら隙となる。打開策を考えることすら出来ない。


これ程の強さ、こちらの体力が勝っているとも思えない。このままではジリ貧だ。


打開策を、とにかく、考えないと……っ!


ジャブ、フック、ハイキック、ストレート。一切の反撃を差し込む余地のない流れるような技のコンビネーション。


ハイキックを無理矢理避けたことで続く右ストレートが脇に刺さることを回避出来ず。そのまま直撃する。


その一撃の重さは俺の身体を吹き飛ばし地面を転らせた。


こみ上げてくる異物感に従い喀血する。想像以上の量の赤い液体が口から吐き出される。


ただただ痛い。意識が飛びかける程にひたすら痛い。


どうにか意識して頭からこの痛みを追い払おうとしても許されない。


それでも歯を食いしばって立ち上がろうとしたら影が顔を覆った。


反射的に刀を地面に水平に頭上に掲げると同時に、かかと落としが振り下ろされ凄まじい重さが上から降ってきた。


強制的に方膝立ちにされる。筋肉が張り裂けそうになり、食いしばった歯が割れ、俺の身体を中心としたクレーターが穿たれた。


「どうした? グレンを倒そうというのにこの程度なのか?」


片足で俺の身体を地面に縛り付けながら彼女は言う。


「勝てねぇ……てか……っ!?」


「不可能だ」


言い切るか。いいぜ、その評価を覆したくなった。


水中に顔を突っ込む直前のように思いっきり息を吸いこむ。


そして膨大な量の剣気を全身から溢れ出させながら頭上の脚を弾き飛ばす。


神在月で届かないなら満月で届かせるのみ。


急速にスローになっていく世界。脚を弾き飛ばされて崩した体制を立て直すために空中でバク転しながら後方に着地しようとしている相手に一気に接近する。


接近する勢いを乗せた横薙を着地と同時に側頭部を守るように腕を顔の横に上げることで直撃を避ける。


しかしその衝撃までは堪えきれ無かったようで、そのまま身体ごと持っていって吹き飛ばす。


手応えありだ。あの闘気の鎧を貫いた。


デュリアは吹き飛ばされた勢いをどうにか制してから、膝立ちになってこちらを見上げる。それと同時にこちらはその顔面に刀を振り下ろす。それを奴は両手を交差させて縦のように構えて受け止める。


「さっきと逆だな!」


「負けず嫌いだからって無茶し過ぎじゃないかしらッ?」


コイツはなんで満月の仕組みを理解してるみたいな言い方をするんだ?


まぁ何にせよ無茶は今更だ。


だが今ので異常強化されたこの状態なら奴の速さを上回れると分かる。これなら小手先の技ではなく力押しで攻め切れる。


「これでもまだグレンには勝てないって言うのか」


「残念ね、悪くはないけどまだ足りないわ」


「そうかよ、じゃあアンタが実力測るには役者不足ってことか」


刀を更に押し込むように力を入れる。地面にひび割れて彼女の足元が陥没していく。何れは体制を崩して斬れる。


勝ちを確信したその時、押し込んでいるはずの刀が止まった。


どれだけ力を込めてもピクリともその場所から先に進まなくなった。


考えられる理由は一つ。先程までこちらに劣っていた膂力が急に上回ったとしか考えられない。


まるで相手も満月を使ったかのような……。


次の瞬間視界が真っ白に染まったかと思えば、激しい衝撃に襲われて浮遊感が身体を包み込む。


そして背中にまた衝撃が走りそのまま引きずられるように後方へと進んでいった。


吹き飛ばされたと認識したのと静止したのは同時だった。何が起こったのか把握する為に白く塗りつぶされた視界に色を取り戻そうと何度も瞬きをする。


そして再び色が戻った時、目の前の世界はまた一変していた。


そこは周りを急な坂に囲まれている窪地だった。ただその坂までの距離は見た感じでは相当離れているように思える。それくらいには広い場所だった。


多分上空の晴天からここを見下ろせば巨大なクレーターに見えるのでは無いだろうか。


周りを見渡せばそこはただ、ただ何も無い荒地が広がっている。しかしたったひとつだけ異様なものがそこにはあった。


黒い柱……だろうか。奥行きが見て判別出来ず、そこだけ視界が切り取られているのではないかと錯覚してしまう程の漆黒に包まれた物体がそこにはあった。アレは何だ?


「また、場所が変わったのか。だけどどういう……」


人の認識によって切り替わるこの空間。最初の花畑、次の滅びた世界はそれぞれ彼女と俺の認識から出来た空間だ。彼女の口ぶりからしても人1人が認識する空間はそれぞれ1つなのだと考えていたのだが違ったのだろうか。


ここには俺と彼女の2人しか居ないはず。出なければ世界は切り替わらない。


「また……懐かしい場所ね……」


郷愁を感じているその声の主を見れば、異様な闘気を纏っていた。


純粋なその量も吹き飛ばされて離れているはずの俺の視界に収まりきらない程の量だが、何よりも異質なのはその輝き。


闘気が光っている。そうとしか言えない。


闘気、俺にとっての剣気は所詮は力が視覚化されたものだ。それ以上でも以下でもなく故に性質そのものが変化するなんてことはありえない……はずだ、


「闘気、剣気、拳気。呼び方は多々あれどその深奥にまで辿りつく者は殆どいない。不死者を殺す矛盾を成そうと言うのであればこの領域に辿り着いて見せなさい」


闘気がまるで翼のように背中から横へと伸びる。彼女自身の整った見目も合わさりそれはまるで天使のように見える。


……見える?


違う……何だ、彼女が人には見えない。


何も変わっていないはずなのに目の前の敵を人と認識出来ない。


「お前は……何なんだ……?」


「私の名はアリス・デュリア。かつて人であり今は人でない者。貴方達の詞を借りるなら天使と呼ばれる存在よ」



コクーンドーム

ハイパースペース、事象の地平線、アカシックゾーンなどの様々な名を持つ異常空間。その正体はアリスが語ったように全ての平行世界が重なった空間である。

中は最初にその空間を認識した者に近しい空間として固定化させるが、一瞬でも視覚的な認識が途切れるとリセットされて次に最初に認識した空間へと固定される。

外からすれば認識のしようがないので、全ての平行世界が同時に存在している状態である。そのため出てくるミュータントが尽きることは無い。むしろ何でミュータントしか出てこないかと言うとコクーンドームのある座標でミュータントが産まれる確率がやたら高いから。

ちなみに似たような空間は世界に何箇所もある。

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