表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

リベリオン(7)

 流石は兄弟と言うべきか。どちらも同じく自動人形(オートマタ)を用いた戦い方をする。ただ互いの共通点は扱う道具のみでその道具の扱い方は全く違うものだ。


 ジェイソンの場合は自らの手で遠隔操作をしていた。自動人形というよりはラジコンのようなものに近い。


 その為身体は全身鋼鉄で出来ているにも関わらずその動きや思考には何処か有機的なものが介在していた。


 本体を殺した時に見た部屋からしてジェイソンマシンには恐らくセンサー類も搭載されていた。ただし基本的にはカメラからの視界を基に行動し、更にそのカメラをマスクで隠していた。


 お陰で奴の行動は人でも機械でもないちぐはぐなものとなっており、行動の先読みが非常に辛かった。


 そして今度はイカレ女曰く彼氏らしい元人間の自動人形。


 目の前の元3位と先の元職員達では動きが余りに違うことから。恐らくこっちは特別製なのだろう。


 そしてこちらもジェイソンと同じようにその思考ルーチンは無機的と有機的とが混ざった厄介なものとなっていた。


 ただでさえ消耗した状態での元3位との戦闘。更に先読みもままならない厄介な敵。


 ……駄目だ。


 仕方ない一か八かでやるしかない。


 ボロボロの身体に鞭打って無理矢理神在月を使う。骨が軋み喉を何か粘着質なのがこみ上げてくるが全て無視する。


 そして俺は踵を返して相手に背を向けて後方へと全力疾走した。その方向にはこの行政ビルの出入り口。さっきあのイカレ女に対してあんな啖呵を切っておいて逃げるとは情けないと思わないでもないが元3位が増えたとあっては流石に話も変わる。


 少なくともあの女相手に死に戦なんか真っ平だ。


 後ろから凄まじいプレッシャーを感じる。次の瞬間には心臓を貫かれている未来を幻視しかねないほどだ。


 ……やはり間に合わないか!?


 本能が警報を鳴らした。このままだと幻の通りになると。


 攻撃を避けなければならない。ただし早すぎて軌道修正されても、遅すぎて間に合わなくても駄目だ。そのどちらでもないジャストタイミングで回避行動をとらなければならない。


 後方の死角にいる相手のタイミングに合わせる必要があるという状況は単純に考えて詰みだ。


 しかし神在月状態で鋭敏になった生来からすべての人に備わっている器官、五感のどれでもない第六感あるいは勘とでも呼ぶべきものが死角の敵の膨大な殺気から大雑把な位置と動きを割り出す。


 ……来る!


 そう感じた瞬間に横へ思いっきり飛ぶ。


 そして先ほどまで自分のいた場所をまるでミサイルのような凄まじい勢いで元三位が通り抜けていく。


 そのあまりの勢いの大きさに衝撃波(ソニックブーム)が発生し回避で宙に飛んでいた俺の身体を打ち付ける。予想外の衝撃に体勢を崩され吹き飛ばされた結果床を転がる羽目になる。


 元の鍛え上げた踏み込みの重さと機械の身体による膂力による常識外れの突き。ある種の武術の到達点と言ってもいいだろう絶技だ。


 仮に万全の状態でやりあったとしても果たして今のを初見で捌けただろうか。分からない。ただ今のこの状況は間違いなく幸運だったといえる。


 歯止め代わりに刀を床に突き立てて転がる勢いを殺す。そして奴を見れば床の通った跡に摩擦熱で火の道を作りながら目的の出入り口前で強引に静止しているのが見えた。


 不味い、外に出れなくなった。逃げの一手を封じられた。


 何が何でも俺を逃がしたくないイカレ女の命令か、或いは人形の脳みそが導き出した最善手の結果かは分からないが非常に厄介なことになった。


 これで俺が取れる選択肢は一つになった。即ち目の前の敵を斬れということだ。


 それが厳しいから逃げ出したというのに。ふざけんなよ。


 だがどう悪態をついたところで事態は好転しない。やつは決して届かないはずの遠間から弓を引き絞るような構えをとる。まず間違いなくさっきのミサイル突きが来る。


 正面からじゃどうあがいてもこの強敵には勝てそうに無い。とれる選択肢はそう多くない。


 まずはこの闘技場(コロッセオ)のようにシンプルな戦場からどうにかしよう。


 俺は奴が飛んでくるより前に上の廊下を支える近くの柱へ向かって走り、その走る勢いのままに柱を駆け上る。

 

 そして目の前に迫った欄干に手を掛けて登り廊下へと降り立つ。


 周りを見渡せば外の様子を一望できるガラス張りと休憩するためにあるのだろう幾つかのテーブルと椅子。動かしやすくするためかそれらは固定されたものでは無さそうだ。そこは簡素なテラスのような場所だった。


 この場所でどうにかなるか?


 ジャンプで人形も上に登ってくる。一応3、4メートルは高さがあったはずだがまぁ余裕だろうな。さっきの突きが出来るならそれくらい跳べるだろう。階段から来てくれるなんて楽観視は流石にしていない。


 近くの椅子の背もたれにあいた模様を象った穴に刀を引っ掛けて持ち上げ、そして目の前の敵へと向かってそれを投げつける。


 そして投げつけた椅子の影に隠れる形で唯一居合ではなく突きから飛ぶ斬撃。華天流弐之型"啄木鳥穿ち"を心臓を狙って放つ。


 言っちゃなんだがヴォルヘルムは使ってきた槍での飛撃と同じだ。近接武器で行う銃撃に他ならない。


 この啄木鳥穿ちの利点は技を放った状態のまま突撃すればそれで追撃の突きを放てる所にある。奴が椅子を回避してそのまま剣気の一撃が外れても追撃が放てて、回避せず椅子を弾き飛ばせばそのまま連撃に襲われる隙の無い技だ。


 答えが隠された瞬間的な択の発生だ、否が応にも混乱する。そして闘いの場での混乱は致命傷に他ならない。


 奴は飛んできた椅子を細剣の一閃で半分して回避する。だがその動作の分だけ隙が出来た。そしてその間に啄木鳥穿ちは奴の心臓をその名の通り穿たんとする直前まで来ている。回避不能の距離だ。


 当たった。追撃の為に更に一歩前へと踏み出そうとしながら俺はそう確信した。


 だが次の瞬間信じられないことが起こった。


 敵の身体から何か大きな駆動音がしたかと思うと椅子を断ち切るために頭上に振りぬかれた細剣がぶれた。そして気づけばその切っ先がこちらに既に向いていた。更にそれに遅れて鼓膜に甲高い音が届いた。それは奴の細剣がこちらの剣気を防いだ音だ。

 

 これらのことが踏み出した足が地につくより前にすべて起こった。剣の動きと音の関係が平等ではなかった。それは今の動きが音越えを果たしていたことを意味している。早業や神業どころ話ではない。人間の範疇を超えてる。


 迎撃態勢を刹那で整えた敵はその速度のまま眉間めがけて正面から突きを放ってくる。何の小細工もないシンプルな突き。ただしそれが音速を超えた速度を持つのならば必殺、絶殺の秘技となる。


 反応することなぞ不可能。何かをしようとする、そう考えた一瞬で全てが終わる。


 ゆえにこれは防いだのでは無くまたもや偶然逸れたのだ。


 既に放っていた追撃の突きと敵の必殺の突きの軌道が重なり衝突した。互いにその技と膂力を全身全霊で込めた一撃、その衝突で発生したエネルギーは凄まじいものとなった。


 手から硬い感触と突き刺したような手ごたえを感じると同時に左肩がまるで後ろに落ちていくかのような強引な力で引っ張られる。


 ちぎれかけの左肩にそのような力が加わればどうなるか。当然千切れる。


 わずかに残って腕を縫い留めていた肉と骨が全て吹き飛び左腕が宙を舞った。


 そして右側は前方、左側は後方への力が働いたことで俺はそのどちらへも進むことが出来ず上半身に強い回転力がかかる。無論それに下半身の足が追いつくわけなく、俺はまるで酔っ払いのようにその場で3回転してから地面へと勢いよく倒れこむ。

  

 倒れこみ視界の半分に地面を映しながら、もう半分には残った右手が見えていた。


 その手に握る刀の刃は半ばから折れていた。

  

 散々酷使して尚折れていなかった辺り、実はそれなりの業物だったのかもしれないが今の強大な衝突エネルギーには流石に耐えられなかったようだ。

 

 唯一にして最大の武器を失った。ついでに止めどなく血が左肩の切断面からあふれ出して頬を赤く染めていく。最早痛みすら感じない。


 心はこの血だまりの中の身体と同じように深く深く沈んでいた。かといって絶望や怒りはさらさら湧かない。そのラインすら超えてしまったのだろう。


 死にかけているのだと漠然としながらも理解した。


 であればそろそろ走馬燈なりなんなりが見え始めてくるのかもしれない。脳が死に歯向かう為の燃料を無理やり過去から引っ張ろうとするのだ。


 さて俺の人生に果たしてここの死に抗えるほどの強い感情が残っていただろうか。ことこれまでの人生で特に印象が残っているのは反抗心のみなのだが。


 









 ……炎、父、死、炎、絶望、赤、黒、月、鳥。


 やはり最後に想うのはあの瞬間か。


 あの瞬間こそ俺の全てなのだから。


 健やかに育っていた花菱銀(ハナビシギン)という一人の少年の死。


 そしてその後の復讐の炎を植え付けられ変わった篠花銀(シノハナギン)の空虚な人生。


 そこに先に語った魂は存在していなかった。


 俺はこの壊れた元3位と一緒だ。魂は既にこの身には宿っていない死に体だ。


 実に惨めで哀れで情けない。


 ……嗚呼そうか……それもそうだな。


 魂を持たぬまま死ぬのも嫌だな。








 



 気づけば俺は立ち上がっていた。最早気力、体力共に底を尽いているというのに立ち上がれていた。


 目の前には変わらず虚ろな表情をした元3位と、こちらを見て目を見開いてる女がいた。


「その傷でどうやって……? 貴方もしかして人間じゃないの?」


 言葉で答えるのが面倒だった。ただ剣を構えて満月を使い膨大な剣気でもって応える。


「……っ!? クラウン様!」  

 

 元3位に命令しているということはこいつがイカレ女か。どうでもいいな。


 人形は主人の言葉を聴くよりも先に自らの身体に染みこんだ闘争本能による判断で既に構えていた。


 神速の突きが来る。これまでの死闘の経験からか満月状態であってもアレは防御も回避も無理だろうと分かる。


 ならば死ぬか? 無意味に自由無き木偶人形のまま死ぬか?


 ああ……勿論死ぬほど嫌だ。

 

 俺は自然と折れた刀を左腰に据えるようにして居合の構えをとっていた。そしてこの場においてはこれしかないと何故かそう思えた。


 敵の動きが奇妙に遅く見えた。突きを放つための体移動がコマ撮りのように連続した動きの軌跡として目に見えて分かる。


 それに合わせるように俺自身も刀を動かす。


 防御も回避も無理ならば進むべき道は一つだけ。


 正面から打ち破る。


 敵のミサイル突きとこちらの技が放たれたのは同時だった。


 脳のリミッターを外し極限まで加速した知覚をもってしてもその突きを目で捉えることは叶わなかった。


 しかし関係ない。既に剣気は放たれた。


 其れは鳥、其れは火、其れは無限。


 秘技でありながらそれは決まった形を持たない。そもそも二之型とは歴代の継承者がそれぞれ編み出し継承していった技のこと。各々がその人生を賭けて生み出した必殺の一撃。


 そして今放たれたこの一撃は、たった今眼前の敵を滅殺するために編み出された技だ。


 華天流二之型"鳳凰転生改八咫喰ほうおうてんせいあらためやたぐらい"。


 振り抜かれた斬撃は三条の光の線となって放たれた後、互いに絡み合い一条の光となる。


 三つの斬撃を重ねた渾身の一撃は神速の突きとぶつかる。


 果たして激しい衝撃音と共にガラス張りは全て砕け散り、そして一条の光が走っていった。


 俺のすぐ傍を掠めるように何かが通り過ぎていった。目の前にはその胸元に大きな穴を開けられたイカレ女が一人。


 振り向くまでもない。あの神速の突きを打ち破ったのだ。


 口から血を吹き出しながら女が倒れるのと俺が力尽きて倒れるのはまたもやほぼ同時だった。


エルシュネル・クラウン

登場時には既にゾンビ化してしまっていた哀れな男。

外の世界の政争に負けてここに流れついた元貴族。プライドがエベレスト並みに高く。口が利けたならひたすら上から目線の言動をしてくるものと思われる。

ただそのプライドの高さ故に努力も惜しまない。彼のフェンシングを基にした細剣の戦闘技術はまぎれもなく本人の努力の賜物である。

弄られる前から機械化しており。ミサイル突きこと超加速突きは元の高性能な義体と磨き上げた技術、そして彼女に色々弄繰り回された結果出来た絶技だったりする。



ヴァイオレット・ネバーマインド

人形彼氏量産型猟奇殺人鬼。

ジェイソン・ネバーエンドのお姉さん。弟と一緒に生きるために機械について学んでいたら理想の彼氏を作る方向に進んでしまった残念美人。

基本的にはイケメンなら何でもOKだが強いて好みを言うなら金持ちでプライドの高い人が好き。

実は今回の反乱に協力したのは弟が死んだことも理由の一つだが、ぞっこんのクラウン様をおびき寄せるためという目的もあったりする。


哀れクラウン。正にクラウン。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ