リベリオン(6)
一応グロ注意
ヴォルヘルムの亡骸をホールの真ん中で置いたまんまと言うのも何か苦味を感じたため、死角になりやすい位置の壁にそっと寄りかからせた。
今はまともな状況ではない。政府が攻撃を受けている以上死体なんて放置されるだろう。流石それで堂々と放っておくことは俺には出来なかった。
まぁ気休みにもなりはしないが堂々とど真ん中に放置するよりはマシだ。
さて……これからどうするか。
首謀者の一人はなんとか倒した。次はもう一人の、確か5位の奴だ。ヴォルヘルムよりランクは下で気は楽だが負けず劣らずの難敵であるのは間違いない。
それにヴォルヘルムとの戦いで消耗し過ぎた。左腕のことは言わずもがな、神在月の乱用での体力の消耗が著しい。ぶっちゃけ今にも倒れてしまいそうな程だ。
かと言って休んでいる暇もない。
……勝てるかどうかは五分以下。分の悪い賭けだ。
そういうのは嫌いじゃない……訳もなく大嫌いだが、殺るしかないか。
まずはそのやる相手を探し出さないとだけど。
上を仰げば何階建てかさっぱり分からないくらいの高層建築の天井まで貫く吹き抜け。
それぞれの階にどれだけの部屋があるんだろうな。探している間に充分休めそうだ。悪くない。
最も見つける前に逃げるなり準備するなりやりたい放題なことに目を瞑ればだが。
当てがあるとすれば監視カメラを見れるモニタールームに人がいるだろうと考えられることだ。待ち伏せされるにせよ人は必ずいるはずだ。
まずはモニタールームを探そうとそう思った時だった。
どこから女の声がしてきた。
「オオカミさんを倒したみたいねお侍さん」
「第5位か……」
多分アナウンス用のスピーカーを使っているのだろう。建物そのものが喋りかけて来てるかのように感じる。
「ヴァイオレット・ネバーマインドよ。そんな飾り気の無い呼び名は辞めてくれる?」
「知るかよ」
こちらからの声が聞こえていたのか。そう言えばヴォルヘルムも途中で手出しするなと叫んでいたっけ。
「クールでいいわね。後はグイグイ主張してくる傲慢さがあれば完璧ね」
「何の話がしたいんだ?要件をさっさと言えよ」
「要件なんて無いわよ? ただヴォルヘルムを倒したイイ男と一度くらい会話しておきたくてね」
「なんだ、勝利宣言のつもりか?」
「あら正解。目的はもう果たしたの。反乱は成功、世界は変わったわ」
はぁ? どういう意味だ?
「今さっきハッキングに成功してね、外の警備関係を全てズタズタにしてきたの。今ごろ外はレジスタンス達が一斉奮起して大惨事でしょうね。全く、ショーの為にこの街のネットワークをスタンドアローンにしなかったのが原因とか笑い話よね。ああ、疑うなら端末を見てみるといいわよ」
言われた通り端末を取り出すと、そこには黒い画面だけがあり一切操作を受け付けなかった。通信が切れてるだけなら操作不可はありえない。そもそものシステムが落ちてしまっているのだろう。
「本当みたいだな」
「私ね、無学ではあるけど機械なんかには滅法強いの。弟と二人でそれこそ必死に腕を磨いたからね。まさかこういう風に活躍するとは思って無かったけどさ」
「そうかよ」
しかし反乱が成功してしまったか……。やり合う理由が消えたな。
ヴォルヘルムと戦えたことを考えると決してここに来たのは無駄では無いし、余裕もある訳では無かったから嬉しいが。……なんか不完全燃焼だな。
「まぁ何にせよ、これで君はお疲れ様ってことで帰ることが出来るわけなんだけども……退屈じゃない?」
「……何が言いたい」
「一緒に遊びましょう?」
彼女がそう告げたと同時に、ホールに幾つもの影が俺を囲むように落ちてくる。
それは人……の形を辛うじてした何かだった。二足歩行で頭部が上に付いているのまでは人のそれだが、人工皮膚で覆うのが無駄だと言わんばかりに剥き出しで取り付けられている機械の部品が明らかに歪なシルエットを作り出している。
隙間から見えているのもまた機械であることはこれらが自動人形であることを証明している。
が、……何かおかしい。
具体的に何がとは説明できないが何処か生々しさがある。本能的に何故か不気味に思えるのだ。
「何だこいつら……」
「簡単には死なないでね?」
人形達が一斉に動き出した。
四方八方から襲いかかってくる人形の攻撃。鋼鉄の爪の斬撃は機械の力をもって人間には出せない速度をたたき出す。戦術も戦力も申し分ない機械ならではの一糸乱れぬ連携攻撃。
ただしそれは普通の奴相手ならばの話だ。この街にいる連中は大体これくらいの速さだし、ましてや先に桁違いの化け物とやり合った後。強者の動きに慣れてしまった俺の目にはその動きはあまりに鈍い。
前方からの攻撃は余裕を持って躱し、後ろから不意打ち狙いの攻撃も刀を抜くことなく鞘で突くように殴打して顔面を破壊する。
最初鉄の感触がしたかと思うとぬちゃりと馴染み深い感触が手に伝わる……何だ?
それを確認する暇もなく次々と鋼鉄の爪が襲いかかってくる。仕方なく腕と腰の回転を全力で利用した回転斬り、華天流参之型“風輪回し”でまとわりついてくるのを吹っ飛ばし間合いを強引に取る。
鞘の先を見れば血らしき赤黒い液体がついており、また反撃で壊した奴を見れば破損して散らばった機械の部品を染めるように血溜まりが出来ていた。
……リアリティ追求の一環か?
いや、それにしては壊した時のは人間の感触に近かったような気がする。……どういうことだ。
吹っ飛ばされた人形達は立ち上がるとそれ以外が出来ないかのようにまた一糸乱れぬ動きでこちらへと突っ込んできた。それは実に機械人形らしい動きだ。
だがそうなるとこの血は何なんだ。
迫ってくる得体の知れない人形達に構えた所でそれに気づいた。
スーツ、作業服、防弾スーツ。それぞれが着てる服は凡そこの三つに分けられた。それらは俺みたいな奴もいるとは言えこの街の住人としてはいささかカジュアルに過ぎる。言い換えれば死刑囚らしくない。
頭の中で急速に組み上がっていく理論。それらの符号が指し示す異常な事実に生理的な憎悪が湧いてくる。
「まさかテメェ……!」
「あら、人を一人殺したくらいで随分動揺するのね」
人、一人……それはつまりこいつらは人形ではなく人間であるということだ。
いやこの意思無き瞳と機械の部分を見れば事実は……。
「人間を自動人形に改造しやがったな!」
サイボーグ化とは訳が違う。人の機能を補うのではなく、奪って従順にさせる外道の所業。
服装から察するにコイツらはこの行政ビルの職員達。敵対関係のコイツらが5位の味方をしているのは恐らく弄られたのだろう。そうとしか考えられない
「人の意思を、魂を何だと思ってやがる!」
「ハハッ!? この世界にまだ貴方のような全滅危惧種がいるなんてね! 意思? 魂? そんなものはもう既に散々陵辱されきったものでしょうに!」
襲いかかってくる人形……いや犠牲者達のその首を斬り飛ばしていく。機械か人か分からない彼らを斬るのは酷く不愉快な気持ちにさせられた。
凌辱され尽くされてるから何だ。この刀から伝わる不快感は確かに存在するぞ。
当たり前のことだ、超えてはならない一線は超えても消えたりはしない。
「だからこそ許されていいものじゃないんだろうが!」
「クククッ……! 1位を殺すなんてのたまったと思ったら、今度は私の彼氏たちに怒るとはね。とんだ傲慢でロマンチストね貴方! ……いいわ……むしろ好きよ、大好き! 貴方のような男は……私色に染めあげたくなる!」
「イカレ野郎がッ……!」
最後の犠牲者を斬り殺す。倒れる時、その虚ろな瞳に一瞬色が見えた気がした。妄想か幻覚か何れにしろそれはより大きな怒りを滾らせた。
「フフフ……アッハハハハ! 退屈しのぎ所か、とんだ掘り出し物だわ! 絶対に貴方を逃がすものですか!」
そしてまた上から誰かが降ってきた。
そいつは今までとは明らかに違った。先程の彼らと同じように身体と頭、所構わずに機械がはみ出ている。が、彼らと比べると見た目はまだ人の形を保っている。それにボロボロの高そうな服や目を奪われるような綺麗な金髪、手に持った細剣は今までとは違う出で立ちだ。
そして何よりも違うのはその気迫。イカレ野郎に改造されているのであろうにも関わらず、放たれる圧倒的なプレッシャーは確かに俺の全身を突き刺してきた。
この感覚はそう、今まで散々感じてきた強者特有のそれだ。
「嗚呼……私の最愛の人! 第3位エルシュネル・クラウン様! 彼が直々に貴方を殺すわ!」
ヴァイオレットの人間人形
死に人形と生き人形の二つの種類があり。死に人形の場合は死体を外付けの機械で無理矢理動かしており、生き人形は脳そのものを弄って洗脳した後に機械を取り付けている。
生き人形の方が圧倒的に強く、ヴァイオレットは気に入った男は必ず生け捕りにして生き人形にしてから側に侍らせている。クラウンは勿論生き人形。