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リベリオン(4)

突如現れた白い集団。狼男(ヴォルヘルム)白い処刑人(ホワイトロウ)と呼んだが……。


イマイチ状況を把握しきれずに動けずにいたら狼男が連中へと突撃していった。


白い連中もそれぞれの武器を構え、その内銃を持った数人が応射した。それを奴は手を顔の前に交差した状態で差し出して急所の顔への攻撃だけを防ぐ構えを取った。


無茶な。いくら急所を守っても胴体やそもそも腕に当たってはそのまま蜂の巣にされて終わりだろうに。そう思った瞬間に奴の身体を透明色の何かが纏い始めたのが見えた。オーラだ。あれ程の使い手ならば別に使えてもおかしくないか。


そして銃撃に晒された。見るも無残な肉塊へと変えてしまう暴力の嵐だ。しかし奴はその身を肉片にするどころか少し前進の勢いが落ちただけで、そのまま進み続けた。銃撃に生身の肉体で耐えたのだ。


無茶苦茶な。多分オーラで肉体強化して耐久性を上げたのだろうが。普通の生身の人間がやっても銃の乱射には耐えられない。しかし奴は狼男。身体の構造がそもそも違う。耐久性が段違いなのだろう。更にあの硬質そうな毛が弾丸の勢いを殺しているのかもしれない。


何にせよ奴は硝煙弾雨であろうと進んでくる、まるで重戦車みたいな存在だということだ。


白い連中はそれを見て正面からの銃撃での制圧は不可能と判断したのか近接武器持ちは正面から接近していき、銃持ちは左右に展開した。動きが素早いな、ただの雑魚って感じでは無さそうだ。


狼男は防御の構えを解くと近づいてきた奴の内最も近い奴の顔面目掛けて拳を振り上げる。遠目から見ても分かるほど素早く鋭い一撃だ。あの軌道だと顔面の顎の位置を撃ち抜く、当たれば脳を揺らして一発KOになるだろう。


しかし狙われた奴も手に持っていた……あれはトンファーか、それで防御する。ただ狼男の力は圧倒的でその上からふっ飛ばしたが。


そしてふっ飛ばされた味方を無視して他の白いのが各々の武器を振りかぶる。そしてそのタイミングで銃も狙いを定め始めている。


もちろんその状況をちゃんと奴も分かっている。近くの敵の攻撃を紙一重で躱すと白い連中の丁度中央で回し蹴りを放つ。それを回避することでその足の長さが半径の円が現れる。


気づけば丁度近接武器の連中が射線を遮ってしまう位置取りとなっていた。おそらく狙ってやったのだろう、場の動かし方が上手い。その迷いの無い動きはこういった乱戦に慣れているようにも見えた。


さて硬直状態に陥ってしまったが。俺はどうしたものだろうか。そう、これからどう動こうか考えていた時だった。


狼男との戦闘を遠巻きに見ていた白い連中の残りがこちらを見てきた。その視線は見覚えのあるものだった。すなわち殺意の視線。


咄嗟に身の危険を感じた俺は近くの柱の影に飛び込むように隠れる。次の瞬間には鉛弾の雨が殺到してきた。


どういう事だ!? 連中は何で俺を狙いやがる!


狼男の発言から連中は政府の刺客であろうと考えられる。そして現状での連中の目的は明らかにこの反乱の阻止であるはず。


にも関わらず連中はわざわざ俺を狙ってきた。反乱の首謀者の一人である狼男から視線を逸らしてまで。


映画やドラマなんかでよくある目撃者は排除するとかいう話か? だったら最初は協力して終わったら後ろからズドンでいい。


狼男の仲間と勘違いしたのか? いや明らかに奴と俺が敵対関係だったのは入ってきた時の状況を見れば分かることだろう。


つまり連中は反乱を止めるのとは別に俺を殺すことも目的の一つだということだ。何故?


……辞めだ。考えても分からん。


何にせよ連中も敵だということだけ分かっていればいい。先に手を出してきたんだ殺しても正当防衛だろう。


しかしこの激しい銃撃の嵐に晒されてどうやって反撃すればいいというのか。刀はこの嵐の向こう側で転がっているし、左腕も使い物にならない。いや、左が使えたからって状況は全く変わらないが。


改めてどう動こうか考えていると不意に銃撃が止んだ。リロードか、あるいは……。


視界の端から鎖が飛び込んできた。鎖の先には刃が付いておりそれはこちらを囲むような軌道を描いて飛ぶ。考えるよりも前に足を滑らせるようにして床を背にして倒れ込む。瞬間、鼻の先を掠めて鎖が柱へと巻きついていった。


すぐさま跳ね起きるようにして立ち上がって振り向く。既に目の前まで迫って顔面を切り裂こうとしていた鋼鉄の二つの刃を上体を限界まで反らして間一髪躱す。そしてその勢いのまま上体を反らしていき、右手が地面についたら腹筋、背筋それと地面を蹴飛ばした勢いを乗せた蹴り上げで敵の顎を蹴り飛ばす。攻撃の直後ということもあり蹴りは顎に直撃しその敵は地面に倒れた後は動かなくなった。


また飛んできた刃付きの鎖を……さっきは一瞬で分からなかったがよく見ればこの鎖は鎖鎌のようだ。それを神在月での加速で回避する。


そのまま立ち止まるのとなく走る。影から出て射線が通っている以上止まったら蜂の巣だ。しかしこのまま逃げ続けても状況の改善は見込めない。だからこそ今、アレを使おうとしているのだ。


それは先の位置のすぐ側の壁に突き刺さっていた。爆発の推進力でミサイルのように飛び、俺の左肩を抉った狼男の槍だ。


見たところその爆発機構により噴射口近くの部分は見るも無残な状態になっていたが槍としての機能はまだ十全に果たせそうであった。


それを走り抜けながら拾うと、すぐさま振り返りしつこく迫っていた鎖鎌を槍で受け止め絡ませる。


そしてその状態で引っ張り使い手をこちらへと無理矢理近づかせる。神在月の状態なら片手でサイボーグくらいなら引っ張れる。


想像以上の力だったのだろう。思わず態勢を崩してしまった敵はそのまま鎖に引っ張られ、飛ぶようにこちらに向かってくる。俺はそれの頭にかかと落としを食らわせて地面にたたき落とした。


その次の瞬間には俺は走り、そして先程までいた位置に銃弾の雨あられが降り注ぐ。


駆ける駆ける駆ける。


神在月で強化した脚は敵の銃線から逃れ続けていた。しかしずっと神在月を使っている訳にもいかない。再装填の隙を突きたいところだが、敵の二人の銃手はそれぞれ交互に撃つ連携でリロードの隙を無くしているためそれは不可能だ。


となれば強引に隙を作らせるしかない。


俺は全力で駆け、まだ削られていない別の柱へとその身を滑らせた。そしてその綺麗な柱もまたすぐに鉛弾で凄まじい勢いで削られる。


その影に隠れながら俺はまだ絡みついていた鎖鎌を槍から解く。そして弾幕と弾幕の隙間、リロードのタイミングでその鎖鎌を柱の外へと投げると鎖を思いっきり引っ張りながらそれと反対の方向から少し遅れて飛び出す。


鎖鎌は引っ張るタイミングが速すぎたため奴らの所までは届かなかった。元々届かせるつもりもない。鎖鎌が撃たれる。人が銃を使うと急に動くものが見えた時反射的にそれを撃ってしまう、つまり鎖鎌は囮だ。


その隙に俺は手に持った槍を思いっきり振りかぶり、そして鎖鎌を撃った奴にむけて投げつけた。


片手で投げたとは思えない速度で飛んでいったそれは容易に人を一人串刺しにした。


そしてリロードを終えたタイミングで相方が槍にぶち抜かれるのを見て動揺してしまったもう片方の銃手に一気に近づいていく。


動揺していてもそれにすぐ気づいた敵はすぐさま銃口をこちらに向ける。距離はまだある、蜂の巣にするには充分な距離だ。


俺は早業で上着を脱ぐと振り回すことで前方に広げて無理矢理敵の視界を切る。


その意図を読み取ろうとしたのか敵はほんの刹那躊躇ったが、すぐに切り替えその邪魔な上着ごと撃ち抜こうと引き金を引いた。


黒いスーツの上着が穴だらけになる。その後ろにも全身穴だらけの敵がいると銃手はほくそ笑む。しかし上着が床に落ちた時、そこには誰もいなかった。


そして自らとスーツの間の床にうっすらと影があるのが見えた瞬間彼の上から穴だらけになっていたはずの男が降ってきた。


ほんの刹那の躊躇いの隙に彼は上に飛んでいた。スーツを隠れ蓑にした動きで敵の虚を突き視界から外れる。華天流の内の歩法や肉体操作が主となる四之型の技、“水無月”によるものだ。


敵の上体に脚を首に絡ませて着地し、そのまま全身を使って首を捻る。首の骨は容易に折れてその命をあっさりと断つ。死して力が抜け、崩れ落ちる身体から飛び退く。


見れば丁度狼男も残った最後の敵をその剛腕で貫いた所だった。傷は無いことも無いようだが目立ったものはなくさほど苦労はしなかったように思えた。


「サムライ。お前は政府側じゃないのか?」


ことが終わり、区切りがついたところで奴はそう聞いてきた。まぁ当然の疑問だ。


「反乱を止めに来た筈なんだけどな? 連中の目が揃いも揃って節穴なのかと疑いたくなる」


「……体内の爆弾を取り除けると言ったらお前はこちらにつくか?」


爆弾を取り除けるだと……?


そう言えば何故コイツらは爆弾を体内に埋め込まれてるのに反乱出来ているのだろうか。こんなことになる前にさっさと起爆してしまえばいい。そうすればさっきの白いなんちゃら何かも動かさなくて良かったはずだ。


となるとこれは嘘やハッタリではない。少なくともこの状況を作り出すのに爆弾の排除は必要不可欠だ。


……厄介な首輪を外すいい機会かもしれないな。


「断る」


だからといって仲間になんかなるのはまっぴらゴメンだ。


「連中に生殺与奪の権利を握られてていいのか?」


「それは確かな勘弁だが、それ以上に俺の目的的にはお前達に協力するのはリスクが大きすぎる」


「目的?」


「1位を殺す。それが俺の目的だ」


それを聞いた奴は一瞬沈黙してから思いっきり爆笑しやがった。


「ハーハッハ! フククッ、グレンを殺すだと? クククっ目的は復讐か何かか? ハッハッハ! 可哀想になぁ!」


「不死身だろうと殺しても見せるさ」


「しかも不死身と知った上でか! フフフ、いや……不死身のことを知っていても未だに信じられていないのか? それは仕方の無いことだが、諦めろ。奴は正真正銘本物の不死身だよ。奴は不死身だからこそこの場所にいるのだからな」


「どういう意味だ?」


「死に場所を求めたんだ。ここでならいくらでも強いヤツに会えるからな」


「何故強いヤツである必要がある? 無抵抗で殺されればいいだけだろうが」


「化け物を殺すのはいつだって化け物だ。これは比喩でも何でもない。この世界に確かに存在している、物理法則と同じくらい変わりようのない一つの法則だ」


奴のその言葉の意味を汲み取ることが出来ない。


法則? 化け物? 変わらない?


それらが何故奴が強い人間を求めている理由になるのかが分からない。


その言葉で思考の波に飲まれてしまった俺を一瞥した奴は白いヤツの死体の一つの頭に刺さっていた俺の刀を抜きこちらに近づいてきた。


思考が止まっていても身体は反射的に危険を察知し、同じように側に転がっている死体を貫いている槍を抜き取る。


そして奴はその刀で斬りかかって来るのかと思えばそのままこちらに投げ渡してきた。左手が使えないので慌てて槍を地面に突き立て空けた右手で受け取る。


その行動には流石に唖然としてしまう。


「ランドルフが死んだ今、俺を満足させられそうなバカはお前だけなんだ。簡単には終わりたくない」


つまり全力でやり合いたいと。まるでサムライの果し合いか何かのようなことがしたいとそう言っているのかコイツは。


ただその考えは個人的にとても好ましく感じる。どんな行いにせよ後腐れなく終わらせたいものだ。


俺は足で槍を持ち上げると奴に投げ渡してやった。


それを受け取った奴はニヤリと獰猛な笑みを浮かべると大きく息を吸い……。


「ヴァイオレット! 絶対に手を出すなよ! これは俺の戦場だ!」


そう見えない誰かに警告した。


そしてその後は何を言うでもなく二人は同時に構えをとる。


いらぬ邪魔が入ったが、仕切り直してまた存分に殺しあおう。そう行動で伝えんが如く。


後は剣で槍で武で語ろう。


この心地よい瞬間を存分に味わい尽くさんと二人はまた同時に地を蹴り駆けた。

9人の噛ませ集団ホワイトロウ!

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