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リベリオン(3)

長大な獲物をまるでバトンか何かのように腕や体に巻き付けるようにして回転させながら変幻自在の突きや薙ぎ払いをしてくる。


遠巻きに見ていればそれは惚れ惚れしてしまいそうな演舞のようにも映ることだろう。しかし目の前で相対している自分には、それは我が身を切り裂かんとする竜巻にしか見えない。


とにかく退きつつ何とかその猛襲を捌く。そして奴の強撃に合わせて後ろに飛ぶことで一気に距離を離し間合いを切る。そして改めて敵を確認する。


まず奴の武器は妙にゴテゴテとしており、用途のよく分からないチューブや機械が引っ付いており一目見ただけじゃイマイチ判別しづらい。ただその長い柄や俯瞰してみると三角を形作っていると思われるその形状。これらから奴の武器は恐らく槍に類するものなのだろう。


そしてその長い牙と前に突き出た顎、そして全身に生えた硬そうな毛。脚もよく見れば関節が一つ多い。腿から先が犬や猫の後ろ足と同じような形状をしていた。


狼と人との間の子のその姿は正真正銘狼男(ウェアウルフ)のそれだ。体格も恐らく2メートルを超えているであろう巨躯。今まで会った奴だとジェイソンとが大きさではいい勝負だ。


そしてその巨躯から編み出されるパワーを用いた巨大槍のぶん回し。……正直相性が悪過ぎる。


単純な力比べで負けることは、まぁ仕方ないにしても問題はその間合いだ。刀の間合いに近づこうとしたらまず敵の槍の間合いに入ることになる。要するに奴の間合いが届く方が先であるということ、先手の権利があるということだ。


先制攻撃や先手必勝の言葉があるように戦いにおいて先手を取れることはとても有利なことだ。その戦いを支配するも同然なのだから。


どうにかして先を取らなければ押し切られる。だが奴の間合いに踏み込むのは先の槍さばきから見て困難極まっている。奴の間合いは結界のようなものだ、入ることすら許されない。それ程までに練り上げられた武だ。


単純な技比べだと今まで戦ったどの敵よりも強いと言ってもいい。武を使った敵としてはランドルフも強かったがコイツには及ばない。復讐者としては悲しい話だな?


「喪服のサムライ……ランドルフを殺したのはお前か」


吸血鬼(ヴァンパイア)のやつか、強かったよ。ただ悲しいかな、お前と戦ってるとアイツがお前に勝てるとは思えないね。血が足りなくなったら理性無くしてたし」


「……結局アイツは吸血鬼の本能に勝てなかったか」


その目はどこか遠くを見ていた。その瞳に湛えられた色は言葉で言い表せるものでは無かったが、かつてこれと同じ目を俺はどこかで見た気がする……。しかも二回も。


「どいつもこいつも死にたがりかよ」


そう吐き捨てて居合からの鷹落としを放つ。膂力は先程ので分かった。雉撃ちでは軽い、重さが必要だ。


槍を盾代わりにして受け止められる。が、いかな狼男とてその勢いを簡単には殺せない。その螺旋状に進んでいく斬撃に押されて靴底で火花を散らせながら後ろに退いていく。


明確な隙だ。逃す手は無い。


神在月を使い一気に詰め寄る。奴は自身の背後にあった壁の柱近くまで動いたものの弾き返してのけた。しかしアレを正面から受けて耐えられる時点で化け物の類なのだが、まぁ今更だ。


そして弾いた瞬間を狙って走りながら再度斬撃を飛ばす。無論軽い斬撃なのであっさりと弾かれるが、いい目くらましになった。


奴が斬撃に気を取られた一瞬で上に飛ぶ。神在月で強化された足腰でのジャンプは優に4メートルの高さを超える。


案の定こちらの姿を見失う辺りを見回している。上から見ればとても隙だらけで間抜けな姿だ。


そのまま奴の頭上に落ちその頭に刀を突き立てようとする。しかし直前で奴がこちらに気づきその場から飛び退る。構わず重量に従って全体重を乗せた一撃を放つ。その攻撃は奴の鼻先を掠める程度に留まりそのまま地面に叩き込まれ派手に罅をいれる。


狼男は後ろに退いて脚が地面に着いた瞬間すぐさまこちらに飛びかかってくる。体重移動を予めして置かなければ出来ない動き、今のギリギリの状況で刀が地面に突き刺さるのを予期した上での行動。なんて冷静に対処しやがる。


だが残念、刀を地面から抜く必要は無い。


剣気を刀から放つ。背風陣でのカウンターが入り飛び込んで来た奴の身体を切り裂く。


しかし、今のタイミングにしては浅かった。ギリギリで反応してまた後ろに退いたんだ。驚異的な反応速度と言わざるえない。


立ち上がりながら刀を地面から抜き取り距離を詰める。奴も近づかせまいと槍の柄尻の先を持ち出来るだけ伸ばしながら薙いでくるが先程よりは攻め気に欠ける攻撃だ。


構わず前へと走る、当然横から刃は迫ってくるがそれを強化した脚を使って横回転しながら飛び越える。


着地した瞬間には槍はその勢いに従い自分から離れていく軌道を描く。それでも奴の技なら一秒も経たずにまた襲いかかってくるだろうが、逆に言えば一秒近い空白が生まれている。


この間合いならその一瞬で斬り殺せる。


一気に詰め寄り刀で腹部を裂こうとする。


奴は柄尻近くを持っていた両手を離し、自らの近づけた首を起点に薙ぎの勢いを利用して上下180度回転させて反対側に持ち替えつつ穂を地面に突き立てる。それは槍が丁度奴と俺の間に差し込まれた形となり、腹部を切り裂こうとした一撃が寸でで防がれる。


弾かれた刃の勢いを殺さずに回転して今度は反対側からの斬撃を放つも、それは地面から抜かれた槍の穂の突きで迎撃される。


何度も何度も別の角度からの斬撃を連ねる。敵に攻撃を迎撃された際の勢いを利用してさらに次の攻撃へと繋げる技。華天流壱之型“転蓮珠”。神在月併用でのこの猛攻ならば何れ押し切れる。膂力の差なんて関係ない、一度間合いに入ればこちらの勝ちだ。


自らの状況を狼男はすぐに察したようだ。迎撃に焦りが見えてきた。このままでは押し切られると。何度も何度も繰り返される連撃に対処しきれなくなると。


このまま斬り殺せる。そう確信したその時だった。


奴がこちらの斬撃を無視して穂先を此方に向けてきた。何故だ、穂で突くより先に俺の刀が斬るのが先なのは分かってるはず。


瞬間、強烈な死の感覚を感じる。


そして見えた。


奴の手元、穂の部分周りのチューブで入り組んで箇所。何かトリガーのようなものが付いているのが。そしてそれを引こうとする指が。


炸裂する爆発音。俺は槍と共に吹き飛ばされる。


吹き飛ばされた刀が床を滑っていき。俺もそのまま背後にあった壁、円形のホールの対角線上まで飛び跳ねるようにして吹き飛んだ


全身から感じる凄まじい痛みで意識が飛かけるも、単純に死ねないという想いで何とか繋ぎとめる。


立ち上がろうとしてこみあがってくる異物感。口から粘性を伴った液体を吐き出す。


「ギリギリで逸らしたか。流石だな」


本当にギリギリだった。奴の首狙いだった一撃の軌道を無理やり逸らして槍にぶつけなければ心臓をぶち抜かれていた。代わりに刀を弾き飛ばされ、左肩も殆ど胴体と離れているような状態にされたが。


「まさかあんなロケットギミックを搭載してたとはな。ふざけんなよ」


「手が燃やされるのが難点だが、火薬で飛ばした方が速くて便利なのでね」


クソっ! とにかく不味い。


互いに武器を手放した状況。左肩使えない状態で素手じゃ勝負にならない。奴の片手も黒煙を上げて焦げてるがそれでも膂力差は歴然だろう。


とにかく刀を取り戻さないと行けないが刀は俺より奴の近くに落ちている。神在月で加速しているにしても限度ってものがある。


どうする……どうすれば……!?


必死に打開策を考えていたその時。建物正面のガラス張りをぶち破って何者かが入ってくる。


白いヘルメットと白いコートで服装を統率された集団だ。何だ?


白い処刑人(ホワイトロウ)……愚鈍な政府の連中でも流石に事態の重さに気づいていたか」


政府……よく分からないが碌でもない事態だってことは確かみたいだな。

やってることは実質ロケットパンチ

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