表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/30

リベリオン(2)

 現場に着けばまたしても戦場の真っただ中だった。


 もはや聞きなれた怒号と悲鳴の協奏曲は耳をつんざかんばかりだ。


さてそんな音をBGMにデュリアと俺は路地裏で潜んでいた。理由は今二人で見ているこの携帯端末。


「ハハハ! 愉快なことになってるみたいだネ」


「大丈夫かよそんなこと言って」


「問題無いヨ。何せこっちもてんやわんやだからネ。私一人気にしてる余裕なんてないサ」


「政府のエージェントとは思えない発言をする子ね」


中央に向かっている途中でジェーンから突如連絡が入ったからだ。ぶっちゃけ呑気に連絡を取ってる場合でも無いのだが、あんまりにしつこいのとこのタイミングでかけてくるのは何かしらの理由があると考えて連絡を取ることにした。それに仮にも政府側の人間。さっきの雑な通達では言わなかった情報を教えてくれるかもしれない。


「第二位のアリス・デュリアだネ。聖女様も協力してくれるとは驚きだヨ」


「放っておいたら更に被害が大きくなるのは目に見えてるもの。一市民としてそんな悲劇を見過ごせないわ」


「一市民とは面白い冗談だダ。私は嫌いじゃないヨ」


「お喋りするのが目的で掛けてきたんならもう切るぞ」


「隙あらば電話を切ろうとしないでヨ。……今回の反乱は二人のトップランカーが共謀して起こしたものダ」


「誰だ」


「第5位と第4位の二人サ」


第5位と4位、二人とも俺より上のランカーか。これから順番に倒す相手がいきなりこんな騒動起こすとは変な偶然もあるものだ。


「偏執狂と軍人崩れの二人とはまたよく分からない組み合わせですね。彼らは特別に仲が良かった訳でも無かったと思いますが」


「そうだネ、だからこそ彼らの行動の目的に気づけなかったのサ。反乱が起こる直前まで彼らは互いに殺しあってたんダ。それはいい、ただ問題だったのは他のミュータントと戦っていた処刑人達をやたらと巻き添えで殺してたことだ。今にして思えばその戦いは彼らにしては大雑把だったヨ」


「その言い方だとミュータントは殺してなかったのか」


「正解だヨ。彼らはわざと処刑人だけを殺してミュータントを好き勝手にさせてたのサ。そしてミュータント達を止める者がいなくなった結果、中央にまで侵攻することを許してしまっタ。もう大混乱サ」


「中央まで入られたことは今まで無かった。あそこを守っている連中じゃ対応出来るわけないか」


「そういうことサ。後はその混乱に乗じて動けば拠点の一つや二つ占拠することは容易って話だネ」


「情けねぇ」


「全くもってその通りだヨ。今の状況は油断と怠慢の総合芸術みたいなものだからネ」


総合芸術って……。まぁ自分達に関する諸々を省みてなかったと考えればとても芸術家らしいと言えなくもないか。


「さてそんな訳で君達にはこっちから情報流してあげるからさっさと彼らを処刑してきて欲しいのサ」


「情報?」


「首謀者は今ビルの中に立て篭もっていることが分かっている。ただ現在、行政ビルの正面でハ、まぁ見たら分かると思うけど反乱者とノット反乱者とミュータントの三つ巴の合戦場になっているんダ。そんな場所に正面から突っ込みたくないでしょ?」


「めんどくさいのは確かだ」


「そこで抜け道サ。ビルから少し離れた所に緊急避難用の出口があル。それはビルの真下にある地下駐車場に繋がってるから、そこからビルの中に侵入できるんだヨ」


つまり正面の祭りを囮にして頭だけ獲ってこいという話か。一番手っ取り早いだろうから悪い話ではないな。


「ちなみに他の上位ランカーにも声を掛けたんだけどモ。1位は断ってきて、3位は何故か連絡つかない関係で私達にとっては君達が最大戦力になってるから是非とも頑張ってネ」


「もしかしなくともかなり追い詰められてるだろお前ら?」


「下手したらD&Eショーの崩壊も有りうるぐらいには追い詰められてるネ。全く1位にも爆弾の脅迫が通用して欲しいものだヨ」


爆弾の脅迫が通用しない……。不老不死なことは当然コイツらも知ってるか。


「そういう意味ではそこに聖女様がいてくれて助かったヨ」


「私は戦わないわよ」


戦わない? 何を言ってるんだ?


「私は人を殺さない。そう決めてるの。怪我人の治療といった後方支援くらいはするけども戦闘はしないわ」


コイツ、俺を引っ張って来ておいて自分は戦わないとか都合のいいこと言い始めたぞ。おい。


「ああ、だから彼を引っ張ってきたのネ。自分の代わりに戦って貰うためにサ」


「……道具扱いかよ」


「そんなつもりじゃ無かったのよ。どちらにせよキミは反乱止めないと死んでしまう、だけど私が戦おうにも反乱者が上位ランカーなのは目に見えてたから不殺で戦うのは不可能。そう考えたら……」


人を殺さなかったら聖女と呼ばれるなら。人を道具扱いしない奴はなんて呼ばれるんだ? 神様か?


そんな皮肉をぶつけてやろうかと思ったが、何か言っても特に効かなさそうだから心の中に留めておく。


「まぁ聖女様が戦わなくてもそこに便利な処刑人がいるから問題ないカ」


「オイてめぇ!」


「いつもの感じで入口の座標を端末に送っとくから頑張って倒してきてネ、ギン」


それだけ言うと一方的に通信を切られた。どいつもこいつも……。


「ギン・シノハナ……私は……」


「はぁ……終わったらまたさっきみたいに傷を治してくれ。やらなきゃいけない奴がいるから怪我を引きずるわけにはいかないんだ」


それだけ告げるとデュリアを置いて端末に送られてきた座標へと移動を開始する。角を曲がる時にチラッと覗いた時とまだ彼女はこちらを見つめていた。










そして座標の位置に辿り着く。袋小路の行き止まりで一目見た時感じ入口が見当たらなかった。どうしたものかと最初は困惑したがどうにか探し出すことはできた。なんでダストボックスの中に階段があるんだよ。


そして薄暗いが無駄に小綺麗な道を道なりにまっすぐ進んでいく。途中誰かと遭遇するということも無かった。避難路なことを考えると生き残りのことは考えなくて良さそうだ。


そして上り階段を見つけて上がり突き当たりの壁の隙間から長方形に光が漏れているのが見えたのでその壁を押すとクルっと回転した。昔のニンジャが住んでた家にあるとか言われてた隠し扉みたいだ。


向こう側は便所だった。しかも個室しかないんだけどこれはもしかしなくても女性の……? 出ていく時に周りを執拗に警戒したのは敵地だからだ。決して女性用から出てくる男性という絵面を見られたくなかったとかそんなことは無い。


外でのどんちゃん騒ぎは遠くに聞こえてくるがそれ以外の音は特にしていなかった。襲われてる割には建物内は静かだった。


不穏な雰囲気を感じて周りを警戒しつつ進んでいく。曲がり角でばったり会ったら即斬り捨てるくらいの構えだ。


そしてやけに開けた場所が目の前に現れた。建物に入ってすぐのエントランスホールだ。上を見れば吹き抜けになっており天井から殺伐とした状況に似合わない日光が差し込んでおりどこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。


ここも無駄に綺麗だった、血痕一つ見当たらない。まさか職員達は殺してないのか? だとするとどこかにまとめて閉じ込められてるのだろうか。人質何か取ってどうする気だ。


何にしてもそこに首謀者はいるはずだからその場所を探す必要がある。監視室のようなものが……待てよ監視カメラ?


瞬間、頭上から強烈な殺気を感じその場から飛び退る。見れば先程までいた場所に大きな槍のようなものが突き立てられていた。


「今の一撃を避けるとはな。ランドルフを殺ったのは伊達では無いか」


突き立てられた槍の上、柄の先に居たのは人では無かった。フサフサとした毛が顔中に生えており頭頂部の左右に耳らしきものが見える。口も前に出っ張っておりその中には大きく鋭い犬歯が覗いていた。


「吸血鬼の次は狼男かよ」


「第4位、ヴォルヘルム・ヘルシング。邪魔者は排除させてもらう!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ