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フェスティバル(3)

「お前をッ! お前だけを殺すためにオレは!!」

 

 怨敵を前に荒れ狂う感情に任せてひたすらに刀を振るう。

 

 袈裟斬り、刃を返して逆袈裟斬り、刀を引いて突き、そのまま横薙ぎ、回転してもう一度、更に回転しつつ姿勢を落とし足狙いでもう一度、折りたたんだ足を伸ばして垂直に飛ぶように切り上げ。


 神在月により強化された膂力をもって繰り出された嵐の如き連撃は一呼吸の内に行われた。


 一刀ごとに溢れんばかりの殺意が込められ、それが目にも止まらぬ速さで繰り出された。いかな達人であろうともそれを捌き切ることは不可能であろう。


 しかし、その男はそれを覆してくる。


 その猛襲を男は時に両手の銃剣で巧みに流し、時に冷静に見切って回避し、時には尋常ではない身のこなしで回避してから銃撃で反撃すらしてきた。


 ギンの胸中に去来した困惑は憎悪の炎すら鎮めた。今の連撃は仮に自分がされた場合には対処出来ないであろうと思ってしまうほどに我ながら凄まじいものだった。


 にも関わらず奴はそれを全て捌ききったのみならず反撃すらしてきた。もはや強い弱いのレベルではない。コイツは一体何なんだ……?


「……軽い」


 斬撃から斬撃への繋ぎに挿し込むようにいきなり目の前に現れた銃口。考えるよりも先に思いっきり首を傾かせる。頬を浅く切り動きに置いてかれた髪に穴を穿っていく弾丸。そして回避に意識を割いた隙に放たれた蹴りに気づくのが遅れる。


 肺の空気がすべて吐き出されるような感覚とメキメキと何かが折れるような音が聞こえた気がした。吹き飛ばされ、今は人がいない掘っ建て小屋に全身で突っ込んだ。


「終わりか?」


 その問いには雉撃ちを放つことで返答する。


 片手の銃剣を無造作に振るう、それだけで雉撃ちはあっさりと弾かれる。知っていた。重さだけなら最初の一撃の方が重いから当然だ。


 煙から砲弾のように飛び出し、その勢いを乗せた突きを放つ。奴はそれを闘牛士のように横にヒラリと避けてしまう。


 急制動をかけて横に飛ぶ。ほぼ同時に響き渡る銃声。痛みは無い、当たっていない。


 立とうとしたところで地面を蹴り砕いたような音が背中越しに聞こえる。立つよりも、見て確認するよりも先に刀を盾のようにそちらに掲げる。


 衝撃。奴の銃剣での一撃。……重すぎるッ!


 屈んだ姿勢だからこそ耐えられた、立っていたら吹き飛ばされていたことだろう。それが幸か不幸かと言われれば追撃で頭部に飛んでくる蹴撃へ対処出来なかったことが証明している。


 またも吹き飛ばされるがギリギリで頭部を腕で庇うことは出来、意識までは飛ばされずに済んだ。


 受け身をとりすぐさま態勢を立て直す。顔を上げれば既に銃口がこちらを向いていた。反射的に腕が動き弾丸を弾く。銃撃で動きを止めた隙に驚異的な速度でこちらに接近してきた奴はラッシュを仕掛けてくる。


 ガンスピンの要領で銃剣を回転させての変幻自在の斬撃を刀で受けるのは容易なことでは無かった。軌道の読みにくさとその速度から牽制か本命かを見切るのに集中しなければすぐに首を切られる。そして更にそこに差し込むように銃撃が混じり、更に一見曲芸にも見えなくもない凄まじい体術による足技のコンビネーションが襲いかかる。


 堪らず強引に刀を振って距離を取ろうとするも、ぬるりとまるで液体か何かなのではないかと錯覚してしまいそうな程に自然な動きでそれを回避して逆に距離を詰められる。


 ……強い。


 復讐相手であることを抜きにすれば惚れ惚れしてしまう強さだ。だがオレと奴の関係性が変わることは無い。その強さはただただ邪魔だ。


 傷が段々増えていき追い詰められていく。このままだと間違いなく殺される。


 その事実に気づいた時に湧き上がってきた感情に嬉しさすら覚えた。……そうかオレはちゃんと芯から染まりきっているのか。


 ヤツを見た時我を忘れられたのも嬉しかったが、それが何度でも湧き上がってくるのは嬉しくて仕方ない。この尽きぬ炎がある限りオレは躊躇いなく前へと進める。


 迫り来る嵐のような猛襲の中で一歩前へと踏み込む。身体の何箇所も切り裂かれるが無視し、ただ一点を見つめる。


 後方に流れ始める景色、スロモーションになる何もかも。そんな中でただ前へと進む、ただ前へと進んで口より雄弁にものを語る刀を振るう。


 復讐の炎もオレ自身の甘さも何もかもを刀に乗せてぶつける。


 ふと、極限たるその状況下には似つかわしくないことを考えてしまう。まるで愛の告白か何かのようだ、と。


 交差してすれ違う二人の処刑人。そして吹き出す血と、両者の間に落ちる腕。……その手には銃剣が握られていた。


「腕一本だッ……!」


「悪くない……だがそれでも足りないな」


 奴は何無造作にこちらに近づいてきた。この状況でそんなに無警戒で近寄られれば逆に疑いたくなるのが人間だ。オレは刀を構えるのみで動くことが出来なかった。


 そして奴は丁度オレたちの間に落ちていた自身の腕を拾うとそのまま断面を合わせるようにして元あった場所に戻そうとした。


 その奇行にますます警戒を強めるていると信じられないことが起こった。


 腕と体の断面の肉がそれぞれを求めるかのように伸びていき、そしてそのまま腕をくっつけてしまった。そう、それは先の吸血鬼(ヴァンパイア)が離れた頭部を元に戻したのと同じことが目の前で行われたのだ。


「何……! まさか……お前も吸血鬼(ヴァンパイア)だったのか!?」


「いいや違う。私に血を吸う本能は無い」


「だからって……ただの人間が斬られた腕をそんなあっさりくっつけられるかよッ……!?」


「かの500年前の暗黒時代に生まれた多種多様の異形達。吸血鬼や狼男、トカゲ人間にエスパー。私も彼らと同じ存在だ。命あるもの全てが一度は夢見る存在、500年前から私は不老不死だ」


 不老不死。無数の先人達が追い求めそして砕け散っていた究極の夢。人の基本を成しているとも言える生と死。この二つを同時に冒涜しうる理、即ち極上の理不尽。


「有り得ねぇ……」


 それをいきなり言われてすぐに納得できることなぞ出来るはずかない。目の前の男、不倶戴天の仇が死なないなどと言われて信じられるはずが無い。


「そんな存在がいるはずが無い!」


「信じられないのは当然だが事実は事実だ。私は死なない」


「だったら何でこんな街にいる! 不死身野郎なら身体の爆弾なんか無視して逃げ出せるだろうが!」


「それは簡単だ、私は望んでここにいる。故に逃げる必要が無い」


 不可抗力で、理不尽で、ここに来させられたわけでは無く。己の意志でここに来たってのか……?


「イカレてるんじゃないのか……」


「キミもそうではなかったか?まぁだが、私がイカレているのは認めよう。500年の歳月を経れば仕方の無いことだ」


 何だってこんな……。今まで追い求めてきた仇が、全てを奪い去った憎き怨敵が。何だってオレの場合に限って理不尽そのものなんだよ!


「……納得いかないと見えるな。ふむ……お前のその炎は惜しいな。ならばここは一時休戦をしないか?」


「何急に寝ぼけたことを……ッ」


「不老不死の存在そのものに納得がいかないのだろう。ならば納得してから私を殺しにくればいい」


「何言ってるかさっぱりなんだが」


「第2位。奴も私と似たような存在だ。奴と会ってからでも遅くはあるまい。それにここまで順番通りに上がってきたんだ、どうせなら最後までそうしてみろ」


 奴は言いたいことを言うと踵を返して立ち去ろうとした。


「待てよ……こんな……こんな話があってたまるかよ! 闘えよ、グレン・ヘルウォーカー!!」


「……私は私の望むままに死ぬ。お前の都合なぞどうでもいい」


「だったら……! ここで死ね!」


 背を向けた相手を斬る。かつて存在した武士道とやらに則ればなんて外道な行いだろうか。オレ自身こんな終わり方を望んでいた訳では無かった。それでもこの時オレは突然晒された理不尽に抗いたくて仕方が無かった。


 振りかぶられる刃と振り向く不死身の男。


 男の身体がブレて見えた気がしたと思った瞬間。オレの意識は暗闇へと沈んでいった。

超展開。

メタルマン作ってそうな人「本当に申し訳ない」

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