フェスティバル(1)
「第6位おめでとウ。実に素晴らしい処刑だったヨ」
吸血鬼との殺し合いの後。ボロボロの身体をどこかで休ませようとしたが、当てが全く無かったのでこの街に来て最初の夜に泊まったモーテルの一室に戻ることにした。案の定荒らされまくっており、ベッドも人が寝れる状態ではなかったが雨風をしのげれば何でも良かったので床に寝そべって寝た。
そして顔に朝日が窓から差し込んで来て起きたタイミングで都合よく、というかどこかにあるカメラで見てたんだろうが、端末に着信があった。着信拒否するより先に勝手に奴は喋り始めた。……この端末、着信拒否の機能がなかったのか。
「そうか、ありがとう。じゃあな」
「だから切ろうとするの早いっテ。もう少しくらい君の声を聞かせてヨ」
「キモイ、斬りたい」
「今のどっチ? 通信ヲ? 私ヲ?」
「どっちもだ。で? 本当にもう用事がないならさっさと休みたいんだけど?」
「おや、休むとは贅沢ナ。そんなに吸血鬼狩りは大変だったのかい?」
「頭が只管痛い」
今頭には応急処置で雑に包帯が巻いてある。この姿を見られたらミイラと勘違いされそうだ。
蹴りが一発、地面が割れるほどの叩き付けが一発。それと満月の反動。これらの痛みが一緒になって襲ってきていて最早痛いのが頭部の外側なのか内側なのかさっぱりな状態だ。
四之型秘技“満月”。あれは無理やり脳のリミッターを外す奥の手だ。使えば剣気の量と身体能力が神在月の比じゃないくらい強化されるが反動も同様に比ではない。一度解除してしまえば筋肉痛やら頭痛やら様々な痛みがその無理の反動として返ってくる。その状態ではまともに戦うことは困難だ。つまり満月の状態で倒しきれなかったらそれで負けとなる諸刃の剣である。
だからこその秘技。真髄だとか強力だからとかそういうのではなく、ただ危険だからこそ秘される。……正直死にそうになってもコレだけは使いたくなかった。余りに危険すぎるしまともな技では無かったから。まぁ、相手もまともじゃなかったしおあいこか。
「ふーん、まぁ残念だけド、キミの事情なんて関係なく休む時間はないんだよネ」
「あ? なんでだ?」
「フェスティバルが始まるからサ」
「フェスティバル?」
「別名ミュータント防衛戦線。キミも一回見てるだロ、あの巨大なコクーンドームをサ」
「ああ……、あの工場地帯にあった」
確か9位の自称天才だかなんだかを殺しに行った時に見たな。雲のような質感のものでできた巨大な繭を。
「そうそうそれだヨ。街のシンボルであり、この街が肥溜めになった原因でもある場所サ」
「で、それが何でその祭りか何かと関係あるんだ?」
「繭ができてからあの場所には誰も入れなくなったんだけどネ、逆に出てくる奴はいるんだヨ」
「それがミュータントだとでも?」
「察しがいいネ、その通りだヨ。爆心地にいた研究者達の成れの果てって言われてるけど、連中強い上に理性の欠片も無くてネ。生かすより殺してしまう方向で決まってるのサ」
「本音は証拠隠滅なんじゃないだろうな」
「お偉いさんの考えてる事は下っ端にはわからないヨ。ハハハ」
「碌でもねぇ」
「とにかくミュータントの駆除は処刑ショーより重要視されてル。なんで、ミュータント駆除はサボることは許されないんダ。したら爆発するからネ」
「どれくらい斬ればいいんだ?」
「んー、見つけたら殺すくらいで大体オッケーだヨ」
「アバウトな……」
「ミュータントをわざと逃がすとかずっと隠れ続けてるとかしなければ爆破はしないヨ。因みに他の処刑人にぶつかるよう誘導する目的で見逃すのは勿論セーフだヨ」
「フェスティバル中も殺し合いそのものは禁止されてないのか」
「むしろ殺すチャンスサ。何せ高ランクのランカーも出張なきゃ行けないからネ。彼らがミュータントと闘っている不意を突かれて殺されるのがフェスティバルの風物詩サ」
「碌でもない風物詩だな」
「……キミはどうするんだイ? ここで決着を着けるのもアリだとおもうけド?」
「……出来れば会いたくないな。今の状態で勝てるとも思えない」
「……冷静だネ。復讐者とは思えない」
「言うな。そもそも俺が復讐者なんて柄じゃないのは分かってることだ。その点ランドルフは理性を消し飛ばす本能を持ってて羨ましかったな」
「アレはダメだヨ。アレはただの獣。復讐者はどこまで行っても人間でなくてはいけないの」
「知るかよ。お前の復讐を押し付けるな。俺は俺のやり方で復讐する。……切るぞ」
「……そうかイ。フェスティバル開始の合図は音ですぐ分かると思うヨ」
「分かった。じゃあな」
端末の通信を切り懐に仕舞う。しかしジェーンは随分と興奮してたな。大丈夫か?
まぁ、何かあったとしても俺から出来ることは何も無いからただ無事を祈っておこう。
そして部屋でその時が来るまでずっと休んでいたら。昼頃になってようやくその時が訪れた。
初めに聞こえたのは轟音。方向はあの工場地帯の方角からだった。すぐに玄関から外に出る。外には何人かいたが部屋から出てきたオレには目もくれず音のした方角にある遠くの巨大なコクーンドームを見上げていた。そしてオレも倣うように見上げていると前と比べて明らかな変化があった。
稲妻が走っており、更に雲のようなものが回転するように動いてるのがこの距離からでも分かった。まるで眠りから目覚めたかのような様子だ。するとさっきの轟音は寝起きのいびきだったりするのだろうか?
そして今まで聞いたことのない生物の咆哮が聞こえてきた。多分例のミュータントの声だろう。
周りの処刑人達もそれぞれの武器を構え臨戦態勢を取り始めていた。
この街のクズ共と化け物のミュータントとの総力戦か……なるほどフェスティバルだ。
ミュータントとかジェーンとかの話をなんでキャラ解説でしなかったのか私は理解に苦しむね