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ランドルフ・ストーカー(2)

 金属同士のぶつかり合う音が協会の金が鳴り響く中で聞こえる。そして一際大きな音が鳴りそれと同時に二人は距離を取った。


「二刀流か。それにそのサーベル……いや護拳が無いから違うな。見たことの無いやつだ」


 ローブの男。ランドルフ・ストーカーの両手それぞれに鍔のない片刃の曲刀が握られていた。


「シャスクというロシアの武器だ。柄が短くて片手でしか握れないが私にはそれは欠点にならん。故にこれは良い武器だ」


「偉い自信たっぷりだな。さっきまでの臆病さはどこに行きやがったよ」


 そう口では毒づきながらもギンは内心で舌打ちをする。手に鈍い痺れが走っていた。今の挨拶がわりの打ち合いによるものだ。片手と両手だというのに圧し負けた。膂力の差がこれ程とは流石に想定外だった。


(下手に奴の一撃を受け止めると刀が折られかねない。守勢に回るのは不利か)


 刀を顔まで上げて地面に水平にして霞の構えを取り、相手に向かって駆ける。


 二刀流相手に正面から手数で迫るのは難しい。本来なら片手による腕力の低下が弱点となるが、このバケモノ相手ではそれも通用しない。どうにかして不意を突かなければいけない。。


 間合いに入ると同時に突きをその狙いを変えながら瞬きする間に三度放つ華天流でも特に速さに秀でた技。華天流壱之型“三散華”。


 初撃を左の武器で弾かれ、続く二撃目を逆手に持ち替えた右で軌道を逸らされ、三撃目を身体を回転されて避けられ、更に両手の刃を用いた回転斬りが放たれる。


 首に迫る一撃目を引き戻した刀の柄頭で押し上げ同時に自らの姿勢を下げることで続く二撃目をギリギリすれ違う形で回避することに成功する。そしてその低くなった姿勢をばねのように跳ね上げてその勢いを乗せた切り上げを放つ。しかし咄嗟に後ろに退かれ紙一重で届かなかった。それに対し逃すまいと距離を詰めて追いすがる。


 こちらの追撃を冷静に見極め、迎撃しつつも隙あらば反撃を差し込んでくる。重ねた年月を感じさせる重さと速さが備わっている。吸血鬼(ヴァンパイア)の膂力だけでなく技も十二分以上のもの。これでは単純な近距離戦闘(インファイト)では対応されてしまう。


 闘いの流れはどちらにも傾かず拮抗している。この流れを掴まねば勝機はない。悔しいが近距離は不利……ならばまず斬撃を飛ばして遠距離から攻める。


 一瞬の隙を突き横一文字の強撃で強引に相手を吹き飛ばす。そして自らも距離とるため後ろに退きつつ刀を腰だめに構える。相手はこちらのその動きを見やると右手の曲刀をこちらに投げつけてきた。  

 

 違和感を覚える。何だ? 


 飛ぶ斬撃は既に何度も人前で見せてしまっている。故に目の前の奴が知っていても不思議ではないが、それを止めるために手の武器を投げ飛ばしてくるのは不可解だ。闘いの中で自ら武器を手放すのは下策中の下策。そんなことをこれほどの技を、武を持っている男がやる理由とは……。


回転しながら飛んでくる曲刀避けようとして奴がローブの下から何かを取り出したのが見えた。


……不味いッ!?


強烈な死の気配を感じ、ほぼ反射的に神在月を使い飛んできた曲刀の下を潜り抜けて避けた方向と反対の方向へと飛ぶ。


瞬間、火薬の炸裂する重低音と共に先程まで避けようとしていた方向の位置を幾つもの鉛玉が通り過ぎていく。


銃……ッ!? しかも散弾銃(ショットガン)かッ……!


「急に速く!? 」


「面倒なモノを!」


ランドルフは銃身をくるりと回転させる。その特徴的な動きどっかで……いやそれはどうでもいい。問題は散弾銃だということだ。広範囲にばら撒く散弾から脚で逃げ続けるのは現実的じゃない。盾が、遮蔽物が必要だ。


視界に見える遮蔽物は一つ。弾丸を再装填する隙を突きそこへと一直線に向かう。走り出した俺とその方向に気づいた奴は逃がさんとばかりに銃口を向けてくるが、引き金が引かれるより前に雉撃ちを放ち牽制する。


その斬撃を左手の曲刀で防ぎ、すぐさま右手の銃でこちらを撃つが弾丸がこちらに届くより前に俺は教会(・・)の中へと滑り込み、その銃撃を回避する。


物陰に隠れてから刀を鞘に納め、大きく息を吐いて神在月を解除する。……少し目眩がする。負担の大きい神在月を使わされたのは間違いなくマイナス要素だ。しかし使わなければ今頃は蜂の巣にされていたことを考えると仕方の無いことでもある。教会前の広場は広すぎる上に遮蔽物が少ない。刀で銃とやり合うには不利だ。


前、同じような状況で闘った10位の多腕男を思い出すが、アレはただ銃を撃ってくるだけだった上に単純に動きが遅かった。流石に6つの銃口に同時に狙われた時はヒヤリとしたが近づけば後はどうにでもなった。


散弾銃を刀で防ぐことも難しい。あの時は一つ銃口から連続で放たれるが故に届く弾丸も一つずつだったそのため火線を読んで華天流参之型“旋風陣”で防げた。


駄目だ、今の状況であの時の経験が活かせそうな部分はないかと思ったが無さそうだ。格の違いがあり過ぎだ。


教会の中に奴が入ってきた。辺りを見回しこちらを探している。ここでなら遮蔽物はいくらでもある。守勢には入るな。攻めて攻めて、攻め続けなければこちらが死ぬ。


奴が教会の中央辺りに来た所で、俺は柱の影から飛び出し、椅子と椅子の間を走り抜けた。出来るだけ姿勢を低くして、身体を椅子の影から出さないようにしながら全力疾走。すぐに奴もこちらに気づき躊躇いなく発砲してきた。


派手に椅子を破壊し破片を撒き散らすが俺には届かない。そのまま反対側まで突っ切り壁に近づいたら今度はその壁に沿うように走る。排莢し、更に銃撃が飛んでくるが、奴と俺の間に立っていた柱に当たり、またも届かない。


「クソッ! ちょこまかと逃げ回りやがって!」


「どうした、口が悪くなってるぞ自称負け犬!」


ここでまた神在月を発動し、続く銃撃を速さに任せて柱を垂直に走るという重量に全力で逆らった動きで回避する。そして柱の上端に近づいたら足場である柱を蹴り、空中でバク転しながら大きく跳ぶ。そしてそれはランドルフの頭上を超える形で奴の背後の位置で着地する。


背後を取られてすぐに後ろ回し蹴りで迎撃しようとしてきた。速く鋭いいい反応だが、背後の敵に当てるには狙いが甘すぎた。神在月で加速している状態なら避けるのは容易だ。そして鞘から刃を抜き放つ。


居合一閃。完全な隙をついての一撃だった。防御も回避も出来ない。振るわれた刃は深く肉を断ち派手に血を撒き散らす。奴の体勢が少し崩れた。続け様に二度三度と斬りつける。だが崩れただけで倒れない。ならばこれで終わりだ。


首を横一文字の一閃で斬り飛ばす。


飛んでいく頭と崩れ落ちる身体を見て、これで決着だ、そう確信した。


吸血鬼(ヴァンパイア)と言えど首を斬られては流石に死ぬだろう。そう安心し血なまぐさい臭いが立ち込め始めた教会から出ようとする。







……物音がして背後を振り向くと曲刀が迫ってきていた。突然のことに反応しきれず咄嗟に刀の腹でガードするがその重さに耐えきれず、身体が持ち上がったかと思うとそのまま両開きの扉をぶち抜いて外に吹き飛ばされた。


広場の地面を転がされ、中央辺りで止まる。


何が起きた。確かに殺したはずだろう?


刀を杖替わりにして立ち上がり、目の前の斬り殺したはずの相手を見る。そこには首が無くなった状態の身体が左手の曲刀を振り抜いて静止していた。


嘘だろう。その状態でまだ生きているはずが……!?


「グゥッ……!」


奴はその両手の武器を床に落とすと膝から崩れ落ちた。そして首の断面からまるで意志を持ったかのように血が湧き上がりそれが背後へと伸びて言った。


そしてその血は頭部を掴み元あった位置、首のところにくっつけた。


目の前の事象が理解出来ないでいると首の切り跡が瞬く間に塞がり、閉じていた目が見開いた。


「……クソッ、血を流し……すぎたかッ……!」


やつの周りを黒いモヤのようなものが覆い始める。

見覚えがある……まさか、アレはオーラか!?


「血を……ッ、血を寄越せッ!!」


奴の目が明らかに先程と違う。激情に支配されている者の目だ。だがそれは復讐に起因するもののように思えない。もっとシンプルな感情、そう例えば飢えの苦しみのような……。


ローブが弾け飛び上半身の引き締まった筋肉が晒される。背中から何かが生えている……。


羽だ。それが広げられて今ローブを飛ばしたのか。


「アァ……血を寄越せェ!」


「バケモノが……いいぜ、死ぬまで切り刻んでやるよ!」


人と人の闘いは終わった。ここからは獣同士の血なまぐさい闘いだ。

ターミネーター2は実際名作

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