熱血漢
その寮は聞こえは良いですけど
タコ部屋でした
八畳程の広い部屋に6人暮らし
風呂トイレは共同
働いた賃金から寮費食費光熱費が引かれ
私の収入では1200円しか残りませんでした
もっと資格持ってる人は
沢山貰えているみたいですけど
賃金の話しはほとんどしてません
金銭の盗難や貴重品の紛失は
全て自己責任でした
なので寝るときは枕の下に
財布を置き盗まれない様にしてました
通勤は相変わらずワゴン車
乗せられて同じ現場へ数日
その後違う現場へ
こんな繰り返しの日々が
約一年続きます
途中お風呂に入っている時
全財産盗まれてたりもしました
でも布団で眠れる幸せを感じ
そこそこ満足してましたが
ある日同室のオッさんが
お金がないと騒ぎ始めました
もちろん私は知りません
でもまだ新入りだった
最年少の私を疑ってきて
お前が来るまではこんなことなかった
そんな事を言って来ました
私は財布も見せ
パンツ一丁になり
潔白をアピールしましたが
どうやら新入りが気に入らないみたいで
私と話す人はだんだんと減っていきました
私の居場所はここじゃない
こんなオッさんに囲まれ
プライバシーなんて無い生活に
うんざりしてました
この時17歳でした
ふとコンビニに行った時
求人誌を立ち読みしました
新しい仕事を探そうかなぁ
そんな軽い感じでしたけど
それが転機でした
目に入ったのは
パチンコ屋の求人
給料は良いし寮もある
私は翌日には
公衆電話から
面接の予約をとりました
繁華街から少し離れた
寂れた街でしたけど
駅近くでそこそこ便利な店でした
パチンコ屋は風俗営業なので
18歳未満は入場も遊技も
お断りの営業スタイルです
私は履歴書に18歳と書き
面接を受けました
いつから働けるか聞かれたので
明日からでも働けます
と答えると面接していた店長に
気に入られて即採用でした
昔のパチンコ屋は
身分証も必要なく
偽名で働いたりしてる人もいるくらい
セキュリティはザルでした
まず驚いたのは
寮といっても個室で
エアコンとテレビ完備
風呂トイレは共同でしたが
とても綺麗で感激しました
布団もクリーニング済みの布団
しかも食費光熱費無料でした
寮費で月に25000円引かれましたが
工事現場の寮とは
比べられない程の快適さでした
食事は弁当じゃないし
夏はエアコン付け放題
布団も定期的なクリーニングしてくれて
私からすると天国でした
しかしその天国も
続かない可能性が出てきました
住民票の提示を求められました
18歳まであと少し
約5カ月くらいでした
なんとか引き伸ばして
住民票の提出をしなかったのですが
とうとう事務員さんに怒られ
住民票を取りに行く事になりました
住民票を取りに行って
まず驚いたのが
私の住民票がなかったんです
家出した後に住民票と戸籍を抜かれ
私は住所不定の行方不明者でした
役所の人曰く、長く行方不明だと
死亡者扱いとなり
日本国籍が消滅していたみたいです
早めに気付いて良かったね
と言われましたが
私は良くありません
でも役所で怒っても何もならないので
役所の人と相談しながら
戸籍を作り住民票も寮の住所で取れました
でも17歳なのは変わりません
ついに歳がバレる時が来ました
私は正直に事務員さんと店長に
今までの経緯を話しました
事務員さんは解雇する
つもりだったみたいですが
店長が男気溢れる熱血漢で
「残りたいのか?ウチで働きたいのか?」
と聞いてきたので
「はい働きたいです」と答えました
店長はちょっと困った顔をしましたが
なんとかすると言ってくれました
その日から5日間
私は働けなくて
部屋でテレビを見てました
6日目店長から呼ばれ
事務所に行くと
店長は満面の笑みで
「働けるぞ」と言ってくれました
なんでも警察署まで行き
18歳未満を雇うが
夕方5時までしか働かせない
(交代時間は6時です)
その約束で働ける様になりました