【第二話:光が降り注いだ――Geben Weisheit――】
ヴィントスが去ってから数日が経ちました。
噂好きな風の精は、未だ戻ってきません。
「もしかして、忘れられてないよね?」
不安になった雑草のベドは、独り言……いえ、一束言を話しました。
と、そんな時でした。
空から一条の光が降り注ぎました。
「お前がヴィントスの言ってた新種の草か?」
ベドは突如として空から降ってきた声に驚き、天を見上げ……られないので、意識をその言葉に傾けました。
「はい。ボクは雑草のベドです。
貴女は誰ですか?」
「私は光の精だ。
名前はデーノブリッス。長いから、リッちゃんって呼んでくれ」
デーノブリッスは腰に手をあてて仁王立ちをすると、ベドにそう自己紹介をします。
「それにしてもお前。
ヴィントスの言ってたとおり変なやつだな」
デーノブリッスは顎先に人差し指を立てながら、可愛らしく首を傾げました。
ちなみに彼女の容姿は、金髪の幼い女の子のような姿をしていました。
ヴィントスも同じような容姿だったけれど、髪の毛の色と瞳の色だけは碧緑色でしたが。
「え、ええっと、えっと……。
そ、それでリッちゃんは、どうしてボクのところなんかに来たんですか?」
「来ちゃ悪いかよ?」
「い、いえ!
滅相もありません!」
光の精は頬をふくらませると、足下の石を蹴り転がしました。
どうやら機嫌が悪そうです。
そんな時、ふとあることを思い出しました。
そういえば先日、風の精のヴィントスが不穏なことを言っていました。たしか、カミサマに話をつけてくるだとか。
光の精は精霊の中で、カミサマに一番近いと、少し昔に近くを通った土の精が話していたのを思い出します。
「……ちょっとカミサマ経由でヴィントスに頼まれてさ。
お前を自由に歩けるようにしてやりに来たんだ」
「ヴィントスがそんなことを?」
「あー、なんでも?
お前のことを気に入ったから、一緒に旅がしたいんだとよ。
カミサマもお前のそのチョウショク?それに興味を持ったらしくてさ……。
ったく!
私はパシリじゃねえっつぅの!」
幼女特有の、まだ声変わりをしていない甘い声で悪態をつく光の精のデーノブリッス。
そのさまはなかなかシュール極まりない光景だなあ、とベドは思うのでした。
それからしばらく、リッちゃんによる歩行訓練が続きました。
自分の根っこを手足の代わりにして、自由自在に動かせるようになるのには、かなりの根気を強いられましたが、もっと住みやすい場所を探すため、もっと外の世界を知りたいという知識欲のため。
ベドは試行錯誤の上、やがて自分で歩くことができるようになりました。
根っこをまとめて二本の腕と二本の脚を形成し、力強く地面を踏ん張ります。
途中で水の精のアクアに助けてもらいながらも、その成長は日々更新されていきました。
「これで私から教えられることはもう何も無い!
晴れて卒業だ、ベド!」
「ありがとうございます、リッちゃん!アクアさん!」
こうして、最初はただの雑草だったベドは、精霊たちの加護を受けて、特殊な植物へと進化するのでした。