【第一話:風が運んでくる―Was kommt der Wind trägt―】
むかーしむかし、あるところに、一本の雑草が生えていました。
雑草が生えていたのは、とても過酷な地域でした。
雑草はある日、ふと考えました。
(なぜ、ボクはこんな所で生まれたのだろう?)
何日も考えましたが、なかなか答えが出てきません。
周りに意思を通わせられる友もいなければ、物知りなミミズクもいない。
いるのはたまに目にする人間か、その奴隷のラクダか、はたまた臆病なトカゲか、ボクらを食べる虫程度です。
だけど、それも皆、遠いところにポツリと見えるだけで、自分のところへはよって来ませんでした。
――雑草には友達がいない。
ああ、もしボクに、動物のように歩ける足があったら。
もしボクに、話しかけてくれる友達がいたら。
雑草はある時から、そんな風なことを考えるようになっていきました。
それから、幾許かの年月が経ちました。
ある日、ふと噂好きな風の精が、ボクのことをじっと見つめていました。
精霊と視線がぶつかります。
「……っ」
雑草は意を決して、彼女に話しかけようとしましたが、如何せん。話す機会など全く無かったものですから、何から話していいのか、雑草にはわかりませんでした。
そんな意図を酌んだのか。はたまた、好奇心に負けたのか。風の精は、雑草に話しかけてきました。
「……やあ!あたし風の精!
名前はヴィントス!
君は?」
「あ、えっと、雑草……です。
名前は、まだありません……」
雑草はゴニョゴニョと尻すぼみな受け答えで、ヴィントスに自己紹介をしました。
ヴィントスはそんな雑草を見て、顔を輝かせると、掌に拳をポンと打ち付けました。
どうやら、何かを思いついたようです。
「そっか!じゃああたしが名前つけてあげるよ!
……そうだねぇ〜。雑草、雑草……。
雑草は英語でウィード(weed)だから……ちょっと文字って、ベドなんてどうかな!?
男らしくて、ステキな名前でしょう!?」
ヴィントスは人差し指をくるくると上に向けながら回して、自慢げにそう宣います。
「は、はい!とっても、ステキな名前だと思います!」
「そうでしょう、そうでしょう!
……ところでさ、今更なんだけど君。珍しいよね?」
腕を組んで、ウンウンと頷きながら、そして、表情をコロコロと変えながら、ヴィントスは尋ねます。
「そうですか?」
「そうだよ!あたし、考えたり話したりする草なんて、初めて見たもの!
きっと、何かの恩恵ね!
人間だと、たまにちょーのーりょく?っていう、変なの使う人いるけどさ。
ベドの場合は植物だからね!
植物だから……超能力植物……チョウショク?」
なにそれ、ダサい。
ベドは一瞬そんな事を思いましたが、ヴィントスには秘密です。
ベドと名付けられた雑草は、ヴィントスに乾いた笑いを返しました。
そうこうしていると、急に彼女はう〜んと唸りだしました。
「どうしたんですか?」
「いやね?
君と一緒に旅ができたら、楽しいかな〜って思ったんだけど、その体じゃ離れられないしなぁっと思って。
ちょっとカミサマのところに行って、話しつけてくるよ!」
彼女はそう言うと、バチコーンとウィンクをして、颯爽とその場を後にするのでした。
(まるで、嵐のような精だったなぁ……。
風の精なのに)
本当は嵐の精なんじゃないのかな?
ベドはそんなヴィントスの事を思いながら、そういえばカミサマに話をつけてくると言っていたことを思い出しました。
なんだか、不穏な雰囲気を帯びたそのセリフに、なにかゾクリとしたものが背筋を伝いま……せんでした。
だって植物ですから。