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ダークヒーロー系魔王男子とチートなお節介系幼馴染は果たして世界を守れるか!?  作者: アシタカ
第一章 竜人族領・プライディア編
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第08話 竜王の抗い

「『傲慢の書』など、見ても見なくても未来は変わることがないということだ。未来の中には、私が『傲慢の書』を覗くこともまた織り込まれているのだから」


 未来を先に知ることで、未来を変えることができる訳ではない…

 そうなのだろうか?ちょっとしたことだったら違う行動を取ってみたって良いんじゃないのか?そんな私の疑問を感じ取ったのか、竜王は首を横に振る。


「一度、この書物に逆らい未来を変えてみようかと考えたこともある。しかし私には変えられなかった。そこには私の考えを読んでいるかのように未来が記されているのだ。未来を変えようとすると恐ろしい結果になることを知った竜王は未来の通りに行動した、とな」

「そんなことってあるの?なんか、その書物に意思があるみたいね」

「そうだな。この『傲慢の書』を見ていると、いつしか私は自分の意思で動いているのかこの書物の意思に動かされているのか、分からなくなってくる…」


 竜王はちょっとしたズレも、未来では大きく変わってくるのだという。それこそ食べるはずだった朝食を抜くだけでも、躓くはずだった少年を助けるだけでもだ、と。


「なぁ人族娘よ。それでも例えばお前さんが未来を変えるなら、そこらにいる一般の竜人族とこれからの未来に多大に影響するだろうお前さんと、どちらの方がこの世界での影響が少ないと思う?」

「え?未来を変えるつもりなの?」


 そりゃもちろん、私はイレギュラーな存在だし、そんな特異な存在の未来を変えるって相当のことが起きそうじゃない?私はそう思ったのだが、竜王は違ったようだ。


「私が思うに、この地で生まれこの地の作物を食べこの地で生きてきた世界に縁の深い竜人よりも、他の世界から突然飛び込んできたこの世界に縁の浅いお前さんの方が、よっぽど影響がないのではないかと思っている」

「それはつまり…?」

「『傲慢の書』にはこう記されていた。『異世界の少女を竜王は殺すことができず、逃してしまう』と。この未来を変えたらどうなるか、私は見てみようと思ったのだよ」

「なんで今まで未来を変えようとしなかった癖に、急に変えようなんて考えるのよ!」


 しかも、よりによって私の邪魔をするような未来選択をするなんて!私が文句をつけると竜王は「お前さんが異世界人だから、かな」と笑った。


「こういった切っ掛けでもなければ私は行動できなかった。しかし、こここそ唯一私が『傲慢の書』に反抗する一つの切っ掛けなのだと思う。私はもう、この『傲慢の書』に動かされ無意味無感動に日々を過ごすことに疲れてしまったのだ」


 竜王は『傲慢の書』を閉じぞんざいに投げ置くと椅子から立ち上がった。私もそれを見て慌てて立ち上がり距離を取る。嘘でしょ、どれに逆らうつもり?逃がすこと?それとも殺すこと?


「さて、さて。お前さん、名前はマーガレットで間違いないな?」


 これって…私はスロテナントでのイーラのことを即座に思い出した。確か、竜人族が得意とする魔法のはずだ。


「お前の真名まなはマーガレットだな」

真名まなの支配ね…」


 真名まなの支配。長生きな竜人族の中にはこれで相手を支配することができるとか。私は返事をしなかったが、それは竜王には関係ないようだった。


「さぁ、『マーガレット』よ。その命を私に差し出せ」


 呼ばれてしまった…!

 私は有無を言わさず呼ばれた名前に身構えたが、私に何の変化も訪れなかった。


「…あれ…?」

「…お前さんまさか、真名まなではないのだな」


 竜王は深く椅子に倒れこんだ。

 そして、顔を両手で覆うと、暫くして豪快に笑いだした。


「降参だ。もう無理だ、これ以上の緊張は私には耐えられん」


 大粒の汗が流れ落ちるほど、竜王は緊張していた。

 未来を変えることに、相当の抵抗を感じていたようだ。その緊張感から解き放たれて、竜王はぐったりとしていた。


真名まなの支配をしなくても、貴方なら私を殺す方法なんていくらでもありそうなのに」

「無様だろう。これが竜王とはな。直接殺す度胸などありはしないのさ。未来を変える勇気など。結局、『異世界の少女を竜王は殺すことができず、逃がしてしまう』のだ」


 竜王は一頻り笑うと、先ほど放った『傲慢の書』を再度手に取り私へと差し出してきた。


「これはもうお前さんにやろう。未来にはそのように記されていた。好きにしたら良い」

「竜王、あなた初めっからこうなるだろうって思ってたんじゃないの?」


 結局未来を変えられないって思っていたんじゃ…?

 しかし竜王は「本気だったよ」と静かに笑うだけだった。


「さぁ、もう間もなく向こうも決着がついている」

「向こう?」

「お前さんの師匠さ。迎えにでもいくか、私もアレに会うのは久しい」


 竜王はイザークの元へと私を連れて行ってくれるようだった。



 ***



 プライディアは半壊していた。建物は欠け、舗装された道も吹き飛び、街路樹など根こそぎ倒されている。そんな中、その最も荒れた中心にいるのはイザークだった。


「イザーク!」

「マーガレット…」


 決着はついているようだった。私が駆け寄るとイザークは私の顔体を見ながら、怪我がないか確認してきた。その心配はむしろ私の方がしたいのだが、彼は私の心配ばかりだ。


「お前さんも随分と変わったな。ラースラッドの悪魔と呼ばれていた頃ならローレン・ハリントン一人簡単に殺していただろうに」


 竜王は道端に倒れているローレンを戦士たちに運ぶよう指示していた。ローレンはボロボロで気を失っているようだが、命に別状はなさそうだ。


「生かそうとする分、時間はかかったようだがな」

「竜王…」


 イザークは怒りに満ちた表情で竜王を睨んだ。周りの戦士たちが竜王を守るように取り囲むが、これ以上の争いは嫌なので私もイザークを止めにかかる。


「イザーク、もう大丈夫だから。私、解放されたのよ。『傲慢の書』も手に入れたし、あとはここから出るだけよ」

「しかし…」

「竜王とはさっき、話が着いたのよ。彼はもうこちらに何かしようって気はないから」


 多分。

 私の言葉に納得したかはわからないが、イザークは一息つくと普段の彼に戻ってくれた。


「これからお前さんたちはラースラッドを目指そうと思っているのだろう」

「ああ。その前に、エルフの元へ寄ろうとは思っているが」


 そうか、ルークスリアも心配してくれてるだろう。無事を知らせなくては。


「ラスタリナに行くつもりであるなら、特に心配はないだろうが…私から、私の最後の予言を与えよう。今ラスタリナには知識を欲する魔族が来ている。彼と話をしてみると良い」

「知識?ハイノのこと?グラトナレドから移動してるんだ」

「その者がお前さんたちに活路を見出してくれるだろう」


 活路?一体何のことなのかさっぱり分からない。竜王は私に目線を合わせると諭すように告げた。


「お前さんはまだ幼馴染が魔王となったことを信じていなかろうが、これは紛れもない事実だ。奴は魔女から秘め事を受け取り魔王となったのだ」

「魔女から?まさか、イーラが捨てた『憤怒の義眼』を?」

「いや違う。お前さんの幼馴染が受け取ったのは『強欲の指輪』さ」


 ナイトが秘め事を手に入れた?そんなまさか。しかも、新たな秘め事のようだ。


「これは本来、人王の手にするはずだった人族の秘め事だ。それが彼の手元に今はあるのだ」

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