第10話 プライディア脱出
貝合わせの音声はその後すぐ切られてしまい、それ以降は繋がることは無かった。
私は信じられなくって、何度も何度も貝合わせを叩くが、ナイトが応答することはない。
「私の言うことを少しは信じてくれたかな」
竜王は分かっていたかのように穏やかに笑っていた。私はその余裕が腹立たしくて、思わず睨んでしまう。
「マーガレット、落ち着いて」
イザークがカリカリする私を気遣うように声を掛けてくる。イザークの呼びかけに私も一度落ち着こうと大きく息を吸い、吐き出した。何にせよラースラッドに行ってナイトと直接会えば分かるのだからここでイライラしていたって仕方ない。
「とりあえず、何か伝えたいことがあって呼びつけたんでしょ。何よ」
「呼びつけたとは人聞きの悪い。これからのお前さんたちの行動についてを教えておこうと思っていたのさ」
うーん、どうしても竜王に対してはつっけんどんになってしまう。軟禁されてたせいかしら。
「さて、お前さんたちは彼の者が魔王となったことは確認が取れた。魔王が今持つ『強欲の指輪』から与えられたのは『誰にも負けぬ力』だと。そのまま行ってはお前さんたちに待つのは死のみだ」
死って…ナイトに殺されるってこと?
「さっきも言ったけど、ナイトが人を傷つけるなんて有り得ないよ!」
「奴は魔王となったのだ。もうお前さんの知る幼馴染ではないということだ」
本当に腹立つ奴だな!
私が再びカッカしだしたことをいち早く感知し、イザークが間に入ってくれた。
「先にラスタリナへ行きハイノに会えば、活路が見いだせると言っていたが…それに関係するのか」
そうか、そんな話も出ていたな。すっかり忘れていたけれど一度ラスタリナに行くのだとイザークは言っていたのだ。
「今回、このプライディアに来るためにウォーレン老の知恵ももらった。まずは報告してエルフの女王も安心させてやれ」
イザークは優しく私に諭してきたが、そうだルークスリアとはダーリエで別れてしまったままだった。彼女はきっと心配してくれていることだろう。
ダーリエにてみんなバラバラに逃げた後、イザークと獣3娘、ルークスリアは合流したようだ。魔女と竜王が現れたどさくさに紛れてルークスリアも人王の元から逃げてきたようだ。しかし私とカルヴィンを見つけられず一行が困惑していると、竜王が人族の竜人族への嫁入りを発表したと。
「嫁入りの宣言はマーガレットの永住権のためではない。俺たちにマーガレットがプライディアにいることを知らせるためにやったのだろうとウォーレン老は推測していた」
「多弁になったな、ラースラッドの悪魔よ。お前さんが戦場にいた時には声など一言も聞いたことがなかったというのに」
イザークたちに知らせるため?
ということは、竜王はイザークに私を助けに来させようと動いていたっていうことだ。話がややこしくてこんがらがってしまうが、やはり竜王は私を殺すつもりはなかったんだろうか。しかし私が探るように竜王を見つめても、彼は穏やかに笑むだけだ。
「だから、私は未来の通りに動いているに過ぎないよ」
「全部そうやって『傲慢の書』には書いてあったの?」
「まぁ、そういうことさ。だからこれからのことについても、私はお前さんたちにここで助言を与えることになっている。大人しく聞いておきなさい」
「どこまで先まで読んでるのよ…?」
竜王はこの一連の流れまでしか読んでないと言うが、本当なんだろうか。
しかし疑ったところで本当のところなんて分からないので、この話はここで区切りにしておく。
「さて、エルフに会いに行くならばそれで良い。まっすぐにラースラッドを目指すのは得策ではない。エルフの地・ラスタリナへ行き知識を欲する魔族に聞いてみよ。『強欲の指輪』で力を得た者に対処するにはどうすれば良いのか、とな」
「ハイノに…?」
「ちょっと、待ってよ。何?今、ラスタリナには魔族がいるの?」
それまで大人しかったニーニャが割り込んできた。険しい表情をしてイザークを睨む。
「何よそれ、今ラスタリナにはミラもいるのよ!何で魔族がラスタリナにいるのよ!」
「げ、そうなの?」
ダーリエでのミラの暴れっぷりを見たが、尋常ではなかった。魔族に対して過剰に反応してしまうミラがハイノと出会ったら一体どうなってしまうやら。
「もうこんな話してる場合じゃないわよ!竜王も話はラースラッドの前にラスタリナに行けってことなんでしょ?ならマーガレット、早く行くわよ!」
ミラが心配になってしまったニーニャは私の袖をグイグイと引っ張ってくる。もうこれは抑えられないなと判断して、私たちはプライディアを出ることにした。それを聞き、竜王は一つ頷くとカルヴィンへと声を掛ける。
「さあ、カルヴィン。お前さんも一緒に行くんだ」
ついに恐れていた宣告に、カルヴィンが真っ青になって震えだす。そうだよね、カルヴィンはプライディアに戻りたかったんだ。しかし震えるカルヴィンを見て竜王は笑った。
「すまん、すまん。そう怯えるな、カルヴィン。お前さんはその人族娘の旅に付き合い、全てが終わればこの地に帰ってくればいいのだ。別にまた追い出すわけではないよ」
分かっていてこんな言い方をしたんだろう。意地悪な奴だな。しかしカルヴィンはパァッと表情が明るくなり喜んでいるようだった。
「それでは幸あれ、異界の娘よ。お前さんがこの先の運命に大きく関わっているのは間違いない。お前さんは魔王と、そして自分自身と向き合うのだ。そうすれば、未来はきっと…」
意味深な話し方ばかりだ。未来を読んでいるのなら、もうこんなまどろっこしい言い方をしないでスパッと結論から言ってしまえばいいのに。しかし竜王はそれ以上を語ろうとはせず、私たちを見送るのだった。
***
私たちはまたカルヴィンの背に乗って移動していた。やはり竜の背に乗り飛ぶのが一番移動速度が速いようで、快適とは言い難いがスムーズな旅ができた。海も渡れる体力を持つのだから、流石である。しかしマグノーリェ大陸上空まで来れば、誰かに見られないようになるべく場所を選ぶ必要があった。
なんせ今、世界は魔王復活で緊張状態にあり、敵が襲ってこないかと警備が以前より厳しくなっているのだ。あまり明るい時に人里近いところは飛べないので、暗くなった夜中にコッソリと森深い中に上陸することにした。
カルヴィンの背に乗っている間、私は気になっていたことをニーニャに問う。
「どうしてニーニャは私を助けに来てくれたの?」
「はぁ!?」
ニーニャは突然の質問に驚いたようで、ワタワタと動揺していた。
「別に、心配だったから行った訳じゃないから!エルフのじいさんが、鍵開けが得意なら協力してほしいとか言ってきたから!」
「あぁ、なるほど。イザークが陽動係でニーニャが救出係だったのね」
私が物の見事に失敗してしまったから、上手くいかなかったけど。
「それに、誤解も解かなきゃいけなかったし」
「誤解?」
「ミラのこと…」
ミラ…思い出されるのは変身したカバの姿だった。そういえば、大変な目にあっていたからそのことについてはすっかり忘れてしまっていた。
「ミラは、魔族ではないんだっけ?」
「そうよ、違うわよ!」
ニーニャは即座に否定した。どうしてもその誤解が許せないらしい。
「ミラは…ハーフなの」




