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手賀沼の先人  作者: 神坂四郎
3/3

炬燵に浴衣

アパートの階段を慌てて上がった

女は手摺にもたれて遠くの赤い空を見ていて

階段から登ってきた自分に振り返った。

「すいません・・・、利子・・・。」声をかけて言葉が続かなかった。

似ていた利子に瓜二つであったが

利子が来るはずもないのだ半年前に・・。


女の髪はずぶ濡れで

着ている浴衣を濡らしていた

言葉を探している自分に

会釈して

「大切なお話があってお待ちさせて頂きました。」

そう言って濡れた髪をかきあげた。

「通り雨だったんですか?ずぶ濡れじゃないですか

ウチの騒音についての苦情でしょうか」

「濡れていてすいません、時間がなかったもので・・・」

そう言ってうつむいた。

「とりあえず話は中でしましょう。濡れていたら

風邪ひいてしまう、部屋へどうぞ」そう言って

部屋の鍵をあける。

慌てて部屋の奥のクローゼットから

バスタオルを掴んで棚に戻す

先週買ったばかりの

まだおろしていないバスタオルがあったので

そちらをまだ廊下にいる女に渡す。

動転していた

利子にそっくりな女が自分を訪ねてきている

 大切な話ってなんなんだろうか

騒音の話か・・頭が白くなる。

「あがってください」

「ありがとうございます」

女はバスタオルを受けとり

髪を拭きはじめた。

その仕草までもがそっくりだった。

女は利子では無いが、利子だと理屈の通らない思いが

頭の中に広がるのを止める事はできなかった。

 言葉を探した。

「とりあえず、そこらへんに座ってください」

「・・・」

「何にもなくて・・」

「・・・」

「あそうそう、お茶出しますね」

台所に行き、お茶とビールしか入っていない冷蔵庫から

ペットボトルのお茶を出し

茶碗やコップが無い事に気がつく

「このままですいません」

テーブルに二本ペットボトルのお茶を置く

「素敵なテーブルですね」

「炬燵ですよ」苦笑いする

「とっても素敵」

「何にも無い部屋でしょ、

家具付きって事でこの部屋借りたんですけど

電子レンジ、冷蔵庫、テレビ、洗濯機

ひと通りついいるんですけど、机は無かったんです

だからどうしようかって悩んだけど・・、やっぱ机ないと

飯も美味くないんですよね。駅の商店街にリサイクルショップあるでしょ

あそこで見つけたんですよ。炬燵っぽい感じじゃないけど、裏っかえすと

ヒーターついてて店でびっくりしました。

まだ活躍してないけど冬にはね炬燵もいいなと思い

コレにしたんですよ。値段も破格の値段だったしね。」

「あの・・・」

「すいません

なんかひとりでしゃっべってしまって

騒音問題とかですよね・・・。

自分はもっと田舎に住んでたから

音とか気にしてなくてすいません」

「違うんです」

「大家さんか近所の自治会の方ですよね」

「違います、地元のものですが・・・」

女の手元には

アジサイの絵のついた団扇が

いつのまにかあって

汗だくになっている自分をやさしくあおいでいた。

「暑いですよね」

あわててクーラーの電源を入れる


おんなの浴衣には

アジサイの葉の様な模様が描かれており

胸元にある団扇に描かれたアジサイを引き立たせていた

団扇をを握りしめた手は折れそうで細くその団扇から見え隠れする

胸元の膨らみから目がはなせなかった。

この女を抱きたい。利子をまた抱きしめたい。




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