帰宅
走っていた。息をきらして
がむしゃらに、あぜ道を走っていた。
倉庫の赤い壁が見えた。
帰らなきゃ、でもまだ帰れない。
走り続けた。
次は我孫子・・・。
アナウンスで引き戻される
うとうとしていた。
降りないと・・・。
意識が命令するが、身体はついて来ない
足元がふらつく。
「電車は疲れるな」とつぶやいてしまう
都心の喧騒は消えつつあるが、重い身体は軽くならない。
ため息を一つついて、ホームに降りる。
成田線に乗り換えて、二つ先の駅にある宿舎が今の我が家
北陸にいる時はめったに乗らない電車
車ならとつい思ってしまう。
実際都心へ車で向かうのは駐車場や渋滞を考えると
利便が良いとは言えないのだが、
ため息をひとつはく
発車を待つ車中には
女子学生がラケットと、赤いスポーツバックを抱えて
友達とげらげら笑っている。
何が可笑しいのか、でも彼女たちの前には
お可笑しいものが沢山転がっているのだろう。
最近笑ったのはいつだっただろう。
反対ホームを見ると、雑誌にしか出てこないような赤い服を着て
気取ったポーズで立ってる男、大学生だろうか
彼女の待つ週末の繁華街へ行くのだろう
地元の街はしょぼかったけど
週末に家には居れないと出掛けていた時代もあったなと思う。
目の前の座席には年配のサラリーマンが、もう一杯ひっかけたのか
赤い顔してシャツを出して、ぐったりと眠りこけてた。
見たくないと窓を見ると、むくんだ顔の男が
こちらの方を向いた。窓の中の自分の顔
自分もついさっきまで、あの眠りこけてる男と同じ姿を晒していたのだと
気がついて苦笑いとため息をもうひとつはいた。
帰ったら缶ビールをあけよう。
つまみは、カシュナッツとあたりめがまだ残っている。
何より一つ仕事を終えた。
来週から本格的に腰をつけて仕事ができるお墨付き、
手厳しい言葉のオマケ付きではあったけれど
ストレートに言われなくても
応援してくれているんだと感じる事ができた。
課題は山積みではあるが
仕事がスタートできる
だから美味いに決まってる。
それにしても今日は赤いものが目に入る
ホームが赤い、空が赤い
さっきうとうとしてた夢の倉庫の赤い壁
たまに見るあの夢は、いつ自分の記憶に居座ったのだろうか
今ここに居る夕暮れと全ては繋がっているのかと
ふと思った。
この街に来てまだ一カ月
その前までは街の名前も知らなかったのに
どこか懐かしさを感じている自分がいた。