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百合園の誓い  作者: 川島
第三・五章ー百合園の赤子ー
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 ーーー異端の学舎『剣魔共立高等学校』の女子寮の一室に神代悠子は身を置いていた。

 ここは剣士派遣協会の総本山の地よりも強固な防衛機能があり、なおかつ異端が排斥させることもなく、協会の追っ手から身を潜めるには打って付けの場所だった。

 しかもあの文化祭の一件以来、さらに警備も強化され、もはや絶対不可侵の要塞のようになっていた。

 

 ここにいればしばらくは安全だろう。

 勿論、滞在可能期間は卒業までの間だけど、それでも当面の安寧を稼げるには十分と言える。

 悠子はあの後、屈強な大男(名前はライルニック・シュナイダーと言う)の部下を助ける為に剣士派遣協会の地下牢に忍び込み、そこに幽閉されていた彼の部下を連れ出した。

 

 悠子の推察通りだった。


 彼女は剣士派遣協会の上層部とアル・クレシアは繋がってるのでは、という推察を立てていたが、その通りだったことがそれによって証明された。

 科学者に拉致されて、幽閉されていたはずの彼の部下が剣士派遣協会の地下牢にいた。

 それが二つの勢力が繋がっていることを示す何よりの証拠になる。

 こんなに呆気なく二つの関係を決定付けるようなことをあの創造主アル・クレシアがしたことに、恐らく何らかの裏があることは間違いないが、それでもこれが歪められた事実というわけではなく、協会上層部がアル・クレシアに手を貸したことは確実だった。

 理由としてはアルでも剣士派遣協会に忍び込むことは、まして大罪人を幽閉する為に作られた地下牢を誰にも悟られることなく使うことは不可能だからだ。

 協会がアルに牢を貸したことは明白だった。


 悠子は推察を確信に変えた後、この異端の学舎の学生寮まで戻ってきた。

 その確信を得たおかげか、決定的に派剣協会と対立することを決めたが、もう心残りはない。

 忌々しいアル・クレシア(悠子のトラウマを植え付けた元凶)に手を貸したという事実が、悠子にとっては不快以外の何物でもなかった。

 いっその事、叩き潰してしまおうとも考えたが、それをすると剣士と魔法使いの均衡が崩れるため出来ない。

 剣士派遣協会の上層部は腐っているが、魔法使いと拮抗するためには不可欠な組織だから、潰すことはそれ即ち世の剣士の居場所を奪うのと同じようなものだ。

 何の罪もなく、ただ研鑽に励んでるだけの同胞まで迷惑かけることは悠子の思いではない。

 そういうわけで、悠子は仕方なく、しばらくは身を潜めることに決めた。

 

「ねえ、悠ちゃん。まだ準備は終わらないの?」


 そう決めた……が、この日ばかりは仕方なかった。

 少し目立つかもしれないが、約束は約束だ。

 悠子はあの文化祭の一件が終わった後にエルと出かける予定だったが、なんやかんやで先延ばしになったその約束を今日この日に果たすことになった。


「ごめんなさい。もう少し待ってて」


 悠子は少し厚めに化粧を塗り、メガネをかけて、帽子を被る。

 変装だ。

 神々しい存在感が滲み出すエルの隣を歩くのだから、出来るだけ「神代悠子」だと悟られぬように変装する必要があった。

 厚化粧のせいか、それともスーツ姿のせいか、普段の悠子よりも大人びていた。

 出来る女といった雰囲気だ。


「こんなもんかしらね」


 ぱたんと化粧台の観音開きの扉を閉じて、ゆっくりと立ち上がり、ベビーベッドに寝かせた褐色の赤子を抱える。


「よいしょ、と。サンドのベビー用品も買わないとね」


 サンド、それはこの子の名前だ。

 あの悪魔製造の儀式に巻き込まれ、悠子の悪魔の肉体を構成する要素になった女性。

 つまりこの子の本当の母親の名だ。

 それを亡き母の忘れ形見として、この子に与えたのである。


「うんうん。まだほとんど揃ってないし、この子の玩具とかも買わないといけないよね」


「そうね、それじゃあ行きましょうか」


「うん!」


 こうして二人は学生寮の一室から出ていく。

 今まで二人が居たのはエルの部屋だ。

 悠子に与えられた部屋には、ライルニックたちが泊まっている。

 仮にも女の子が一人暮らしの部屋だし、ライルニックやその部下を泊めることに僅かな抵抗はあったが、流石に外で寝ろとは言えず仕方なく悠子の部屋を貸すことになった。

 ちなみにクロナは美波の部屋に泊まっている。詳しい経緯はよく分からないが、いつの間にか仲良くなっていた為、彼女のことは美波に任せる事にした。


 美波は特に事情を訊くこともなく、彼女にしては珍しく二つ返事で快諾してくれたのである。


 二人は今はもう開かなくなった巨大な自動ドア(原動力であるエルの魔法が盗まれた為)の下部に設置された人一人が通れるサイズの扉を開けて、学校敷地を出る。


 二人でここを通るのは、入学式のあの日以来、なかったことだ。

 ふわりと風が心地いい。

 こんなふうに一緒に肩を並べて歩く日がこんなにも早く訪れることになるなんて、少し前までは思わなかった。

 きゃっきゃっと悠子の腕の中でサンドが笑い、それに連られてエルの口元にも僅かに笑みが零れた。




 


 










 

 

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