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百合園の誓い  作者: 川島
第三章ー百合園の敵対者Ⅲー
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9

 ーーー戦いは終わった。

 何を為し、何を遂げたのか分からない。

 今回の作戦の尽くが失敗に終わった。

 アルからエルの魔法を奪い返すという目的を達することもなく、彼らの情報の入手も叶わなかった。

 得られたものは、大きな犠牲だけ。

 生き残った者は、悠子とアル、それとこの赤子。後はクロナ、信紅、裏切り者の男、そしてギリギリ空間の倉庫の中に逃げ込むことで巻き込まれずに済んだ老メイド。それとレンやメイ(この二人も空間の倉庫の中に逃げ込んだ)だけだ。

 他の者たちは全滅。


 悪魔製造の儀式に巻き込まれたアルの生死は不明だが、エルから逃げおおせるほどの存在だ。恐らく彼女も生きてる可能性が高い。


 ただ、悠子は作戦失敗の中に一つの可能性を見出していた。

 それは出来れば、あってほしくはない一つの可能性。

 剣士派遣協会。その上層部の派閥の一つが、科学者との繋がりを持っている。

 その可能性。

 あまりにも情報が漏れ過ぎている。

 

 今回の相手の罠も、悠子たちが事前にあの場に来る事を把握してなければ行えないものだ。

 悪魔製造の儀式というのは、簡単に行えるものではなく、きちんとした準備が必要な魔法だ。

 しかも、起動の為の供物は悠子の肉体だった。

 悠子の体を生贄にして、悪魔製造の儀式が発動した。

 アルのいたあの部屋が供物を奉納する為の祭壇の役割を果たし、そこに供物を捧げなければ儀式は発動しないというカラクリだ。

 つまり事前に悠子があの場に行くことを知っていなければ、あの儀式が発動することはなかったというわけだ。

 

 あの大男に作戦の細部までを明かすことはしていないし、全てを熟知してるような敵の罠。

 それを説明付けるには、剣士派遣協会そのものが情報を流したとしか考えられなかった。

 そこで、あの剣神の最後の言葉が脳裏を過ぎる。


『いずれ殺し合うことになる』


 悠子は溜息をつき、一つの結論を出した。


「私は、今回の件で上の者達へ疑心だけが沸き起こる。だからしばらくの間、派剣協会には戻らない」


 その言葉に戻ってきた周りの者達が驚いた。


「はァ!? 何言ってんだ! あんたがいなくなったら協会の象徴体はどうすんだよ!」


 信紅は言う。

 だが、それを悠子は、


「私はあなたの上司のことももはや信用できない」


 と一言で黙らせる。


「!?」


 信紅は驚き、悔しさのあまり奥歯を噛み締める。

 今の彼女の直属の上司は、剣神の巫女だ。

 剣士派遣教会内でも最高位の権威を誇る人物で、同時に剣士派遣協会の真の象徴のような存在でもある。

 彼女の今の上司が、それだ。

 その者を信用できないと切り捨てるということは、協会そのものを不審がってることと同義。

 もはや返す言葉も出ない。

 協会を擁護するにも、今回のこの件で信紅自体が協会に対する不信感を募らせていた為、咄嗟に擁護の言葉も出なかった。

 

 信紅を黙らせた後、次に悠子はレンを見る。


「そういうわけだから、師匠(ちち)にその旨を伝えておいてくれる?」


「本気、なんだね。うんうん、わかった。まあ、あのひとのことだし、可愛い子には旅をさせよ的な感じに納得すると思うよ」


 容易に想像がつくことに悠子は苦笑する。

 

「それで、その手の中の赤ちゃんはどうするの? 協会が責任を持って育てることもできるけど、本当に悠子サマが引き取るの?」


 ぶりっ子特有の甘ったるい声だが、その内に僅かに心配の様子が込められていた。彼女にとっては悠子は妹のようなものだ。それなりに心配なのだろう。

 悠子はそれを理解した上で頷いた。


「ええ、お金はあるし、それに……」


 ちらっとエルを見て、


(一人ではないもの)


 と僅かに頬を染めて、思う。


「それに……?」


 レンは首を傾げ、続きを促す。


「いいえ、なんでもないわ」


 答え、最後に悠子はクロナに視線を向ける。

 彼女は俯いていた。


「クロナ、あなたもおねがーーー」


 そう言いかけたところで、クロナは呟いた。


「私も、連れていってください」


 と。

 懇願するように言った。

 

「それは……」


 無理だ。

 悠子はクロナのことは信用している。

 だけど、彼女を連れていけないことには理由がある。

 協会を抜けるということは、彼らに「危険性故の殺処分」という大義名分が与えられることになる。

 悠子ほどの力が自分たちの管理下を離れるのは危険だからいっその事殺してしまおう、というものだ。

 協会から抜けた瞬間に悠子は、協会にいた頃よりま遥かに命を狙われる頻度が高くなるだろう。

 それが分かってるからこそ、クロナを連れていくことはできない。


「もし、連れて行ってくれないというのなら、もう生きる意味はありません。私を殺してから、行ってください」


 困った。

 本当に困った。

 クロナの目は真剣そのものだ。

 その心に嘘偽りはなく、このまま殺さずに行ったところで恐らく自害すること間違いない。それが容易に分かる。

 悠子は溜息をつく。


(どうやって、断ろう)


 すると、信紅が先ほどの仕返しとばかりに


「いいんじゃないすか? 連れてっても」


 と言った。

 その顔には意地の悪そうな笑みが浮かんでいた。


「どっちを選んでも死ぬっつうんなら、せいぜい振り回して死なせてやればいいんじゃねえすか?」


 こいつは人の命を大切に、という心情を持ってるくせに何を余計なことを言ってるんだ。

 

「そうだそうだー! クロナちゃんが可哀想だぁ」


 などと信紅の言葉をさらに援護するレン。

 この連中を切り刻みたい衝動をぐっと堪えながら悠子は言う。


「そうは言っても、ミヅキを例に上げれば分かるけど、協会の追手はそんなに優しいものではないのよ」


 元S級上位の実力を持ちながら容易く淘汰されたあの隻腕隻眼の男がいい例だ。

 悠子ほどの実力ならともかく、クロナでは直ぐ始末される可能性が高い。


「それにディル家はどうするの? あの不出来な(クロノ)に任せたら絶対滅びるけれど、本当にそれでいいの?」


 クロナはディル家の長女であり、悠子の許嫁であるクロノ・ディルの実の姉でもある。


「あんな家どうでもいいです。私にとってはあなたが全てなので、不要なら斬り捨ててくださって構いません」


 告白のような言葉だが、言ってることはあまりにもあれだ。

 要するに遠回しの脅し。

 一緒に居られないのなら死ぬという類の少し怖い言葉だ。

 そこで、悠子は全てを諦めて、頷いた。


「……分かったわよ。好きになさいな」


 クロナの表情が歓喜に染まる。


「よかったです。これでまだまだあなたに尽くすことができる」


 心底安堵した様子だ。

 そして、悠子はもう一人。連れていかなければならない人物がいる。

 それは、


「それで俺はどうすればいいんだ? もう俺には生きる意味もない」


 つい今しがた聞いたようなセリフだが、彼の場合は悠子は関係してない。

 あの館の中に囚われてたという自分の仲間。それが失われた為、もはや生きていく気力はなくなっていた。

 目に光はなく、処刑の日を待ち焦がれる囚人のように力なく項垂れていた。


「ひとつ言っておくけれど、あなたの仲間はあの館の中にはいなかったわ」


「は?」


 男は顔を上げる。

 理解できないと言った様子だ。


「私はあの爆発に巻き込まれた人の事は何となくの感覚で分かるけど」


 お腹を擦りながら悠子は言う。


「私の世界の中にその存在を認識できないということは、あの中にはいなかったということ」


 かつて彼がクロノ・ディルの支持で仲間を引き連れて襲い掛かってきた時、そこで返り討ちした彼の仲間のことは覚えている。

 しかし、自身の内側にその気配はない。

 それが悪魔製造の儀式に彼の仲間が巻き込まれてないという証明だった。


「それじゃあ、あいつらはどこにいるんだ……」


「この際、丁度いいかもしれないわ。これからあなたの仲間を助けにいきましょうか」


 にこりと悠子は笑いかけた。

 

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