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百合園の誓い  作者: 川島
第三章ー百合園の敵対者Ⅲー
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8

 穢れた悪魔の身が焼き滅ぼされてる頃、その内の世界に意識を置く神代悠子は、自身の元に無数の自我を寄せていた。

 それは悪魔製造の儀式の生贄になった者達、つまりあの黒い爆発に巻きこまれた者達の自我。

 悠子ほどハッキリ意識を持ってるわけではないが、なんとなく自分はここにあるという曖昧な感覚を彼らは抱いていた。

 勿論、全員が全員、悠子の内なる世界で、自我を持てるわけではない。全ての意識は彼女の管理下に置かれる為、普通は自我なんてものを抱けるはずはない。

 だけど、強い自我を持つものならば、悠子の内でも僅かに自我は残る。時間経過で徐々に失われていくものではあるが。


「……どうやら間に合ったようね」


 異物を手繰り寄せるように悠子は他者の自我を集めた。

 その数は僅か四つ。

 巻き込まれた者達は恐らく数十、数百いるだろう。

 あの集落の者達も巻き込まれたはずだ。

 しかし、自身の元に集められたのは、四つだけ。

 それが意味することはひとつだ。


「救えるのは、これだけね」

 

 これだ。

 この内なる世界に形作ったものを現実世界に反映することができる。

 つまり僅かでも自我という意識の残滓さえあれば、それを元に肉体を作り上げ、現実世界に反映させることができるというわけだ。

 悪魔製造の儀式で、悠子と巻き込まれた者達が一身になったからこそできる芸当ではあるが……。

 

「仕方ない、か。流石に埋もれた自我を引き起こすことは、私にもできない」


 現実世界に反映させることが可能なのは、四つ。

 恐らく巻き込まれた一般人は皆、即死だろう。

 悠子は脳裏にサンドの顔が過ぎる。


「ごめんなさい。出来ればあなたのことも元に戻したかったのだけど、私には無理みたい」


 悠子は集めた自我を抱えるとそのまま現実世界に自身らを反映させる。


 ふわりと悠子の体が現実の、抉れた大地の中に降り立った。

 その身は悪魔のそれではなく、元の清廉潔白な彼女の姿。


「成功のようね」


 次にクロナ、真紅と続き、三人目に現れたのは意外にも、裏切り者のあの大男。


「……」


 実力的には、強くはないはずだが、自我だけは強かったということだろう。

 三人とも眠ったように意識を消失しているが、全員生きている。問題はない。

 そして、四人目。

 これに悠子は驚いた。


「おぎゃあああああああ」

 

 悠子の手の中。そこには褐色の赤子の姿。


「わあ、かわいい」


 その泣き声に誘われるように、エルは悠子の元に近寄った。

 息が触れ合う距離だ。

 そこまで近付いただけで、何故か悠子の心臓が脈動する。


(ち、ちかい……)


 僅かに頬に熱が帯びるが、その強靭な自制によってそれを全て抑え込む。


「その子は、悠ちゃんの子供?」


 冗談混じりに言うエル。それに悠子は即答する。


「違うに決まってるでしょう! 恐らくサンドの、あの子のお腹の中にいた子供よ。あなたと同じで天才というものなんでしょうね、母体の中でも僅かに自我があったみたい」


「ふーん、なるほどね。それでこの子はどうするの?」


「……そうね」


 おぎゃあおぎゃあと母を失った悲しみに泣き叫ぶように声を上げる赤子の体を抱き締め、悠子は呟いた。


「責任を持って、私が育てるわ」


 サンドを殺したのは、関節的に悠子である。

 もう少しアルという存在に警戒を抱き、事前にサンドたちを遠くに避難させたりしていれば、彼女たちは死なせずに済んだかもしれない。

 全ては彼女の考え不足が招いた結果だ。

 だから。

 せめてもの償いに、とこの子を育てることを決意する。


「そっか、じゃあ私も一緒に育てるよ! こうなった責任は私にもあるしね。悠ちゃんがお父さん役で、私がお母さん役。どうかな?」


「ふふ、それは素敵な申し出ね。でも、私も出来ればお母さん役のほうが嬉しいわ」

 

「ええ……、悠ちゃんは絶対お父さん役のほうが似合ってるよ。かっこいいし」

 

 エルは悠子の手の中の赤子の頭を優しく撫でる。すると、だんだん泣き声が小さくなっていく。


「それにほら、私の方が母性みたいなものはあるし」


 赤子の涙を止めただけで、ドヤ顔を披露するエル。

 悠子は苦笑し、そして言った。


「そう、かもしれないわね」






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