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悠子が動くたびに、その身が白い力の奔流に打ち付けられた。指一本、視線ひとつ。動かしただけで、エルの力に弾き飛ばされる。
回避することが不可能な、一撃。直線の攻撃を回避しても、不意に攻撃が直撃している。
自我がないため、今の悠子は剣技を使うことはできない。当然だ。獰猛な獣のようにただ闇雲に動いてるだけの彼女に、剣技という技術が扱いきれるはずもない。
それを見越しての攻撃なのだろう。いや、攻撃というよりは、防御にも等しいような、そんな白い粒子の波による連撃。
悠子を倒すためではなく、防御だけに専念させる。それがその攻撃の意図だった。
そして、それは成功だ。
思惑通りに悠子は、その場から動けずにいた。
というよりは動こうとする度に、純白の粒子の荒波によって押し戻される。
「ぅ、ぐっ」
進むことも、引くこともできない。その状況に、悠子は息を吐き出すように唸る。
「グルルルル」
肉食の獣のように喉を鳴らし、ばさりと六つの翼を大きく広げて、飛び上がる。が、直ぐに頭上に滝のように降り注ぐエルの攻撃のせいで、即座に撃墜され、地に落ちた。
「ぐふっ」
だが、即座に起き上がり、懲りずに駆け出した。
「っ!」
その姿にエルは再び迎え撃つ。悠子の逃げ道を封じるように。その膨大な粒子の渦が悠子の全身を襲う。
どこにも逃げられず、そのまま元の地点まで弾き返される。そのはずだった。
そうなるはずだった。
だけど、今。それとは異なることが、目の前で起きた。
(速度が、上がった!?)
純白の粒子の移動速度を遥かに凌ぐ。それほどの速度を悠子は瞬間的に出した。
それも剣技による技術を用いた速度などではなく、純粋なただの脚力。
それだけで、エルの攻撃速度を上回っていた。
(まずいっ!)
エルは咄嗟に別の魔法を、発動する。それは迫り来る悠子の攻撃を阻む為の、魔法。
(間に合わ……ーーー)
が、もはや遅い。二人の距離は、手が触れ合える寸前のところまで縮まっていた。
一瞬の油断。
剣技を使うことのできない、身体能力だけの相手だと。
そう高を括ってしまっていた。
相手は剣技を使えないとはいえ、あの悠子だ。
それなのに。悠子の体を傷付けないようにと、攻撃に手を抜いたりもしていた。本来、同格の二人。そんな対等の立場なのに、攻撃の手を緩めた。その結果が、これだ。
回避はおろか、防御もできない。そんな状況にエルは追い詰められた。
唯一、エルに許されたことは、全身に魔力の巡らせ、そうやって出来るだけ攻撃を軽減することくらいだ。
「ーーーーー!」
悠子は拳を振るう。その時だ。二人の間に薄く半透明なガラスの壁のようなものが現れたのは。
「!」
それにエルは驚いた。
自分の魔法ではない。別の誰かの、防御魔法。
だが、この程度の防御魔法では悠子の拳を受け止めるには足りず、直ぐに砕け散った。
ただ、それが緩衝材になったのだろう。
悠子の拳の勢いが少しだけ落ちた。
(これくらいなら、何とか受けきれるーーー)
そして、悠子の拳が、エルの頬を打ち抜いた。
「っっ」
口の中に血の味が広がった。ばきりと奥歯が欠けたような感触を口の中に得る。
そのままエルは、殴り飛ばされた。
さらに悠子は、エルが地面に落ちるよりも早く、追撃する為に空中の彼女を追いかける。
が、流石にそれを防ぐための備えは、きちんと用意されていた。
悠子の足元に幾何学的な魔法陣が浮かび上がる。
「!」
その魔法陣の端々。東西南北の位置から白い鎖が飛び出し、悠子の手足に絡み付いた。
(獅子封鎖)
それはエルの開発した、封印魔法。
獅子封鎖。
六縄封印よりは、幾分か拘束力は落ちるが、それでも一瞬の足止めくらいならば、十分に出来る。
が、完全な拘束をするには、これだけでは不十分だ。
エルは宙を一転して、着地し、そのままの勢いで大地に掌を合わせる
。
(凍結封印)
すると、悠子の足元の魔法陣から天まで。氷の柱が伸びた。
「っ!」
その中に悠子は、四肢を白い鎖で縛られたまま封じ込められた。
(これで、しばらくは時間を稼げるかな)




