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黒い爆発が収束した後、その中心に黒い球体が蠢いていた。
どこまでも黒く、果てしなく深い漆黒の球体。
それが蠢き、唸っていた。
「ぁ……ぁあ」
球体の中から苦悩に満ちた声が漏れだす。
「タスケ……タスケテ」
溢れる苦痛の声。
「イギャアアア! クルシイ! クルシイ! ダレカ! タスケーーー」
そう声が終わった直後、ピキピキと縦から下に向かって黒い球体の中心部に亀裂が生じる。
下まで完全に亀裂が届くと、そのひび割れた部分から手が一本、伸びた。パリンと手が貫いた箇所だけが部分的に崩れた。
それは漆黒の肌に、女性のように細い腕であった。
その手の貫いた部分を中心に亀裂が大きくなっていく。
縦から下だけではなく、縦横無尽に亀裂が進む。
そして、完全に黒い球体の全体に亀裂が届くと、次の瞬間、それは木っ端微塵に弾け飛び、その中から一人の少女が姿を現した。
漆黒の肌に、それと同色の長い髪。鱗のようなもので胸や秘部を覆い隠してはいるものの、ほとんど全裸に近い姿。その背中からは、蝙蝠のような翼が六枚。右に三枚、左に三枚、広がっていた。
悪魔だ。しかも、それは普通の悪魔ではない。
あの文化祭の中で現れた者とは、別格。
次元が全く異なる悪魔である。
黒い少女は、口角を歪める。
「ぎひぃ」
息を吐き出すように笑う少女。その眼前に、一人の白い少女が舞い降りた。
「……どういう、こと」
エルだ。
「悠ちゃん……、その姿は、一体……」
そして、その黒い少女。それは神代悠子の姿である。
悠子は、答えない。
「ふしゅうう」
いや、答えることができないのだろう。自我はなく、獰猛な獣のように舞い降りたエルの姿を睨み付ける。
「悠ちゃん……?」
どういうことなのかは不明。突然、悠子の音波が自身の元まで届き、その指示通りにその場を離れた、その直後のことだ。悪魔製造の魔法が発動し、一帯の全てを呑み込んだのは。他の者がどうなったのかは、エルには分からない。逃げられたのか、それとも爆発に巻き込まれて死んだのか。一切が不明。ただ、その爆心地の中央に、悠子の気配を感じた。その為、エルは戻ってきただけだ。
だが、この惨状から察するに、恐らく他の者は、全員死んだのだろう、とエルは思う。
「それ、『悪魔』の姿だよね?」
周りには誰もいないので、エルは仲のいい友達に話し掛けるような砕けた口調で、言う。
「どうして悠ちゃんが……、それに悠ちゃんなら自我を失うなんてことは絶対ないはずなのに……、一体なにをされたの?」
自我の吹き飛んだ様子の悠子の姿に、エルは困惑する。
同時に世界中の全ての生き物の視点になったところで、自我を見失わずにいられる悠子が、自我を絶たれたような様子で、そこに立つ。
そのことに、エルは戸惑っていた。
(一体……、なにが)
思考するエル。その姿を確かめた悠子は、一瞬にして、エルの直前まで迫っていた。
「……えっ」
エルの眼前。そこに悠子の拳が見えた。
「っ!」
攻撃が、来る。そうエルが認識するよりも早く、膨大な純白の粒子の奔流が、悠子の拳を受け止めていた。
「悠ちゃ……」
エルが何か反応を示すよりも早く、次の攻撃が迫る。が、その全てはエルの自動防護の魔法によって、遮断される。
ただの拳。それは剣技でもなんでもない。ただ、身体能力にものを言わせただけの攻撃だ。
それなのに、エルの自動防護が押されていた。
身体能力だけなら、普段の彼女よりも高い。いや、もはや別格だ。
ただの、身体能力だけで、エルの自動防護を突き破ってしまいそうだ。
(……どういうことかは、よく分からないけど、とりあえず今の悠ちゃんを、何とかしないと)
エルのその体から白い粒子が溢れ、ただただ眼前で拳を振り続ける悠子のことを吹き飛ばした。
「がふっーー」
純白の波に弾き飛ばされるが、直ぐに体勢を立て直し、悠子の元に迫る。が、その直後にまた悠子は吹き飛ばされた。
エルのその力は、悠子を攻撃する意思はないのか、ただ相手を突き飛ばすというだけの威力に乏しい力だった。
「ふしゅうううう」
何度も何度も何度も何度も何度も何度も。エルの元に迫るが、その全てが叩き落とされる。
(確かに、速いけど、剣技を使わない今の悠ちゃんなら、完封することができる。だからその間に、何とか悠ちゃんを元に戻す方法を考えないと)




