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百合園の誓い  作者: 川島
第三章ー百合園の敵対者Ⅱー
83/96

6

 初動がほとんどなく、いきなりの攻撃だったが、

 二人は両側に身を反らすことで、空を穿つ勢いで突き抜ける縄の初撃を回避した


「なるほどねぇ、なかなか疾いね」


 甘ったるい声で言いながらレンは、その初撃を避けた後、木の上から飛び降りて、その縄から距離を取った。情報が未知数の相手にいきなり斬り掛かるほど、彼女は愚かではない。そして、それが最善の手段だと考えたのか、メイもまた飛行魔法で荒縄から少し離れた場所まで移動していた。


「今のを避けるなんて、ここにいるだけはあって、流石に強いね」


 荒縄は少女の声を発しながら鞭のようにうねり、再び振るわれた。レンは首を少し横に動かすだけで、その一撃を容易に回避する。

 そして、そのまま地を蹴り、駆け出した。

 剣を下段に構え、レンは地を縫うように駆け抜ける。が、縄の根本の科学者の男と距離を詰めようとした瞬間、いつの間にか根本まで戻ってきていた縄のカウンターが飛んできた。


「!!」


 レンは咄嗟に身を屈めて、それを回避する。


(やっぱり魔法の構築が疾い)


 レンの移動速度よりもカナデの魔法速度の方が圧倒的に早い。縄を伸縮させるだけの魔法だが、それでもレンが一歩踏み出した時には、伸び切っていたはずの縄が既に根本まで戻っていた。

 それに彼女は驚き、次の攻撃が来るより前にバックステップで元いた場所まで退避する。

 

(それより悠子サマが言うには、彼女の得意魔法は封印魔法だったはず……)


 そう聞かされていた。それなのに今のカナデは、封印魔法を使うことなく、それどころか使ってる魔法というのは、縄を硬化して伸縮させるだけのもの。魔法というよりは、ただの物理攻撃にも等しい。

 今、距離を詰めたのも、魔法使いが自分の身を守る時に仕掛ける罠を調べる為。魔法使いというのは基本的には近接戦闘が苦手だ。だから魔法使いと戦うときは、出来るだけ距離を詰めることが大切になってくる。ただ、それでもある程度の上位の使い手にもなってくると、その身の周りに魔法で、接近者を撃退する為の罠を仕掛けることが大半だ。

 なので、その罠の部類を調べる為に突然したが、カナデが撃退に使ったのは、魔法による罠というよりは、何方かと言えば剣技によるカウンターにも等しい攻撃だった。

 そのことにレンは疑問を持ち、一つの考えが脳裏を過ぎる。


(もしかして使わないんじゃなくて、使えない?)


 封印魔法は応用によっては、罠にすることもできる。勿論、悠子を封じるほどの『六縄封印』を罠にすることはできないだろう。だが、それでも相手の動きを封じたりできる封印魔法は、罠には向いている。

 にも関わらず、彼女は一切の封印魔法を使う素振りがない。だからその結論に至るのは、自然の流れだろう。

 そんな風に思考を巡らせるレンの隣に、空中魔法を解いたメイが降り立った。

 

「多村さん、あのひと多分、そこまで警戒するに値しない相手だと思いますよ」


 そう小声で耳打ちするメイ。それにレンは疑問を抱く。


「……それはどうして?」


「だって、ある程度、能力の高い魔法使いなら近距離に詰め寄った瞬間魔法が発動するし、それがないってことはそこまでの魔法使いではないってことでしょ」


 メイの言葉。魔法使いの見解では、そうなのだろう。そして、それはレンと同じ考えでもあった。

 カナデは悠子を縛ることのできるほどに優秀な封印魔法の使い手だ。それなのに彼女から得られる魔法の情報は、ほとんどない。ただ闇雲に物理攻撃をしてるようにしか見えない。

 そのことにメイは実力不足の魔法使いだと考え、レンは今は使えないのでは、と考える。

 

「確かに……、そうかもね」


 レンは剣を握る手に力を込めて、それを正面に構えた。


(六条カナデがわざわざこの場所に現れた理由、それは分からないけど、とりあえずまずは捕らえるーーー!!)

 

 レンは地を蹴り、剣を構えたまま駆ける。一歩踏み込み、その瞬間に硬化した荒縄がレンの腹部を定めて、突き抜けた。が、それはレンの腹を抜けることもなく、虚空を貫いた。

 さらにもう一歩。レンは前に踏み込むと、いつの間にか根本まで戻っていた荒縄が、再び彼女に襲いかかる。だが、やはりそれも最小の動きで躱された。

 何度も何度も何度も何度も、レンが進む度に荒縄の刺突が彼女を襲うが、その全てを回避していく。

 その様子にメイはアシストする為に蓄えていた魔力を、解放する機会を失っていた。


(動きに一切の無駄がない……)


 自然と同化するように全ての攻撃を避けながらも前に進んでいく。一切、攻撃が当たらない。

 こうしてレンは、ついに荒縄の根本ーーー、つまり科学者の男の元まで至った。


「これで、終わり」


 そう呟き、レンは剣を振るい、その縄を断ち切った。


「ぐっ、うぐ」


 最後に荒縄は苦痛の声を上げて、そのまま消失し、それによって科学者の男の体も地に伏せる。


「ふぅ……」


 ちゃきと腰の鞘に剣を収めて、レンは息を吐いた。


(…それにしても今この場面で、六条カナデがここに意思を表出した理由……、それは本当に科学者の男の意識が戻ってしまったからというだけなの?)


 あの程度の力で、今この場に出てきたところで犬死にすることは目に見えていた。それなのにレン達の前に姿を現したのには、恐らく他に何らかの意図があると見て間違いないだろう。

 だからレンは、今のこの考えを伝える為に音波をエルと悠子の元に飛ばす。ーーー刹那、悠子の絶叫にも等しい切羽詰まった声が音波を通じて、この作戦に参加してる全員の脳内に轟いた。


『ーー全員、今すぐその場所を離れなさい!!』


 と。そして、皆が反応を返すよりも早く、それは起きた。断崖絶壁の中の館を起点に、凄まじい轟音と共に黒く輝かない闇のような光がドーム状に広がっていく。木々を呑み込み、生き物を吸い込み、悠子たちが寝床として使っていたあの集落までもがその闇の中に呑み込まれた。半径数キロに渡って、それは広がった。黒い爆発だ。

 そして、それが最大まで広がると、直ぐに爆発は収束を始め、その全てが収まった時には、呑み込まれたものは何もかもが消え去った。そこにあるのは大きく抉れた大地と、その中心に立つ一人の黒い少女だけだった。


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