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百合園の誓い  作者: 川島
第三章ー百合園の敵対者Ⅱー
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2

 館の一階ロビーでは、激戦が繰り広げられていた。

 科学者の構成員は、それなりの手練揃いだった。

 ただ、手練れとはいってもA級剣士以上のような化け物的な力を持ってるわけではなかったが、それでも常人を遥かに凌ぐほどの力を個々が有していた。

 当然、単騎で闘えば先程までと同様に瞬殺できるだろう。

 だが、それでもS級剣士の二人ーーークロナと信紅は苦戦していた。


(厄介だ)


 クロナは剣を下段に構えながらそう思った。

 科学者。彼らは強い、というよりは戦い方が上手い。

 己を知り、弁えた上で、きちんと役割を理解し、力を際限なく生かしている。


(本当に厄介だ)


 クロナは科学者の構成員の振るった剣をいなしてはじき、その懐に飛び込んだ。が、やはりそこまでだった。

 真横から迫る炎の塊に邪魔をされて、『斬る』まで進めることはできない。

 クロナは炎の塊を回避する為に一歩後ろに下がる。

 ぼわっと鼻先を炎塊が通り過ぎた。

 

「しねええええええ」


 すると、その炎の塊に隠れるように身を潜めていた科学者側の剣士がクロナに飛びかかる。


「ちっ」


 クロナは敵の剣技を受け流して、その顎に掌底を放つ。


「ぐふっ」


 その剣士は吹き飛び、それに追い打ちをかけるようにクロナは一歩踏み出すも、二歩目で後ろに引き下がる。目の前を火球が通り抜けた。

 これだ。

 この戦法がとても厄介だった。

 それは実際にはありえない、理想の陣形。

 クロナは目の前の科学者の構成員たちを睨み付ける。

 前衛の剣士が攻撃をして、後衛の魔法使いがそのアシストをするというその陣形。

 単純だけど、実に強力だった。

 ありえない、というのは、魔法使いと剣士が手を組むことなど、滅多にないからだ。

 今回の一時的な同盟でもそうだが、確かに二つの勢力は協力関係にあるけど、それでも肩を並べて戦うことはありえないだろう。

 ただ、科学者というのは、剣士と魔法使いの混同の組織である。

 恐らくこの陣形を取り入れることができるのは、そういう異端な組織だけなのだろう。

 クロナは溜息をつき、視界の端に信紅の姿を見る。

 彼女もどうやら手を焼いているようだ。

 相手を殺そうとしても後衛の魔法使いが邪魔をして、殺し切ることができない。しかも、それだけならともかく彼らは、前衛に治癒の援護までする始末だ。

 一撃で殺し切らないと直ぐに回復されてしまう。

 後衛の魔法干渉が間に合わない程の速度で切り込み、前衛の剣士を一撃で殺し切るか、もしくは……。

 その考えに至ったクロナは、思わず深い溜息を漏らす。


(出来ればこの方法は使いたくない、が……、そうも言ってられない状況だな)


 悠子と違い、前衛を抑えながら魔法干渉を上回る程の速度は、クロナには出せなかった。それは信紅も同じはずだ。その為、その方法を取るしか選択肢はない。嫌だけど、仕事だと割り切るほかなかった。


「藤堂! 組むぞ」


 クロナは叫ぶ。音波ではなく、普通の声で。

 その言葉だけで信紅は、全ての意図を悟ったのか、答える。


「はんっ! 仕方ねえな、足引っ張んなよ!」

 

「貴様がな!」


 クロナと信紅は前衛の剣技を受け流して、後衛の魔法を回避しながら一つの地点で合流する。

 現状を打破する選択肢。それがこれだ。

 二人が手を組む。これしかなかった。

 彼女たちは個々でも能力は高いが、それでも一つの完成された陣形を相手取るにはまだ力が足りなかった。

 これが悠子や悠久、剣神ならば単騎でも無双できたかもしれない。

 だけど、彼女たちではまだ力が及ばない。

 だからこれが最善の方法だった。


「行くぞ、藤堂」


「おうよっ」


 そして、二人は駆け出した。今までと何かが変わったというわけではない。剣筋も同じ、能力も同じ。ただ、戦い方が協力戦にシフトしただけだ。


「はぁあああああああっ!!!」

 

 クロナは地を縫うように走り、下段から思い切り剣を振り抜き、それを科学者側の剣士が迎え撃つ。

 クロナの剣撃は、単体では止めることは不可能だ。だから彼女の一閃に合わせるように科学者側の剣士は、複数の力で押さえ付ける。


「ぐっ」


 クロナの一閃が、複数の剣士に相殺された。すると、剣を振り抜いた姿勢のまま、その真横に挟み込むように火球が迫っていることに気が付いた。後衛の魔法使いの、魔法だ。これを回避する為には、真後ろに下がる他ない。このまま前に進めば、確実に炎塊に身を焼かれることになるだろう。

 流石の彼女も、複数の魔法使いの同時攻撃をその身に受ければ、タダでは済まない。

 にも関わらず、クロナは回避行動を取ることなく、前に一歩踏み出していた。

 すると、次の瞬間だ。

 彼女を挟み込むように撃たれた炎塊が、風船が破裂するように砕け散った。

 クロナは知っていた。

 その魔法が、消滅することを。

 それを知ってたからこそ彼女は回避ではなく、攻撃の姿勢に移っていたのだ。

 その魔法。それを壊したのは、信紅だ。

 剣を振り、クロナを守るように炎の魔法を消し飛ばしていた。


「そのままやれや」


 信紅は呟き、それに応じるようにクロナは笑う。


「ああ、勿論だ」


 彼女はさらに一歩踏み込み、今度は上段から剣を振り下ろした。

 空気を巻き込み、それは科学者側の剣士たちの身を捉えて、その肉を骨ごと切り裂いていく。


「が、はっ」

 

 辺りに血飛沫が飛び散る。

 そこからさらにまた身を押し進めて、クロナは剣を振るう。後衛の魔法使いのアシストは全て信紅が打ち砕き、前衛の剣士の命はクロナが刈り取っていく。

 元々、勝てる土台は出来ていた。それなのに苦戦していたのは、やはりバラバラで戦っていたからだ。

 協力戦に切り替えたこの今では、もはや苦戦する要素はない。


(少し癪だが、随分と楽になったな)


 クロナは敵の陣形を切り崩しながら思う。

 

(このまま行けば、直ぐに終わる)


 その矢先の事だった。

 クロナの左肩に激痛が走る。


「なっーーー!」

 

 熱した鉄棒を強引に肩に捩じ込まれたような、そんな激痛。


「クロナ!」


 信紅は思わず叫んでいた。

 

「う、ぐっ、は」

 

 そのままクロナの体は、倒れた。

 

(いっ、たい、何が……!)


 焼けるように肩が熱い。彼女は肩に触れる。そこでようやくそのことに気が付いた。肩からどくどくと止めどなく血が溢れていた。


(そういう、ことか、……油断した)


 クロナは肩を抑えながら身を起こす。拳銃だ。事前に悠子に聞いていたことだったのだけど、相手が全然『拳銃』というものを使う素振りがなかった為、それを考慮に入れていなかった。

 

(これが、銃、というものか。凄い威力だ)


 腕が動かない。撃たれた衝撃によって肩が外れている。利き腕が潰された。流石に獲物である剣は握ったまま離すことはなかったものの、利き腕が使えなくなれば今までのような快進撃は行えないだろう。

 だが、このまま倒れてるわけにはいかない。クロナは直ぐに身を起こして、後ろに跳ぶ。

 ザザザザザ、と今まで彼女が伏せていた場所に、無数の剣が突き刺さった。

 危なかった。少しでも回避が遅れていたら今頃あの剣に串刺しにされていただろう。

 間一髪だ。

 ぽたぽたと肩から溢れた血液が腕を伝って、指先から滴り落ちる。


(少し、まずいな)


 クロナは剣を左手に持ち替える。すると、すたっと彼女の隣に信紅が跳んできた。


「おいおい、クロナさんよ、それ大丈夫か?」


 信紅は横目にクロナの肩の傷を見る。それに彼女は答える。


「ああ、問題ない。が、この状況は大いに問題あるな」


 利き腕が使えなくなったクロナ。それに比べて、科学者側は銃も保有しており、まだまだ戦力に余力がある状態だった。しかも、銃弾がどこから来るのかも分からない。恐らく目の前の科学者たちが撃ったものではないだろう。それだけは確かだ。もしも、眼前の彼らが使ったのならば信紅が見逃すはずはない。

 信紅が何も言わないということは、そういうことだ。彼女もまだ分かってないのだ。


「確かにこの状況は少し……、いや、結構ピンチだな」


 信紅は辺りに視線を巡らせる。


「それにどっから撃たれたのかも分かんねえこの状況、どうやら一点に留まるよりは動き続けた方が良さそうだぜ」


 それにはクロナも同意する。


「ああ、そうだな。とりあえずそれが最良の選択だな」


 二人は同時に移動を始めた。左右に別れて、少しでも銃弾の当たる確率を下げる為に。

 二人は駆ける。

 前衛の剣士の攻撃を受け流し、後衛の魔法を打ち砕き、とにかく二人は回避することに専念する。

 

 



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