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夜雲を突き抜ける断崖絶壁の崖の中の館。その一室に彼女はいた。
「……ふふ、まだまだ幼いな」
この世界の創造主であり、エルの先祖のアル・クレシア。
彼女は柔らかいソファーに腰を沈め、足を組む。
その幼い見た目とは反し、妙に色気のある幼女だった。
「神代悠子にエル・クレシア……」
アルの目の前には、幾つもの薄い板が展開しており、そこに無数の映像が映し出されていた。
それを見ながらアルは言う。
「やはり所詮はまだまだ子供ということだね」
そこに映るものは、『何も知らない』悠子たちの姿。
何も知らず、何も分からずに協会の意思のままに動き、敵対するもの全てを殲滅するだけの道具。
その様にアルは哀れみの視線を向けた。
「このままいけば、きっとこの子たちも……」
『何もかもを知ってる』アルだからこそ、その映像の中の二人に心底同情の念を示す。
「だからせめて私の糧にしてあげるよ」
そう言い、
「美波、計画遂行の準備はいい?」
アルは真後ろに控える仮面の少女ーーー美波に声をかける。
「とっくに終わってますよ」
それに美波は答え、それを放り投げる。
パシッとアルは放られたそれを手に取った。
「相変わらず仕事が早いね、美波。流石だよ」
それは筒状の形状をしており、その先端にはボタンのような青い突起が付いている。
それは彼女の計画の要であり、ある装置を起動させるためのスイッチでもある。この先端の突起を押した時点で、それだけでここでの計画は完了する。そんなスイッチだった。
「あなたが手伝えば、もっと早く終わったんですけどね……!」
美波は仮面越しにアルを睨み、言う。
「まあ、私には私の仕事があるからね」
「神代さんたちをストーカーしてるだけなのに、何が仕事ですか」
文句を垂れる美波にアルは苦笑いした。
「いやいや、だって彼女たち強いよ? 万が一にでも計画を邪魔されるようなことがあったら困るし」
それに美波は、溜息をつく。
「あのですね、慎重になるのも良いですけど、何の為に『耳役』を仕込んでると思ってるんですか。あなたがそうして監視してると、折角の耳役の意味ないじゃないですか」
「耳役、ね。でもその耳役って結局は派剣協会の人間だし、あまり信じられないんだよね」
アルは足を解き、年相応の子どものようにぶらぶらと振り子みたいに足を揺らす。
「美波だって、この作戦が終わればその耳役とやらは始末するつもりだよね?」
それに美月は、少し口篭りながらも答える。
「まあ、それは……、ただ、私の場合は利用できるものは利用して、不要になったら切り捨てるだけで、利用できるものまで利用しないあなたとは根本的に違いますよ」
「うっ……」
アルは返す言葉が見当たらなかった。
「……まあいいです。とりあえず計画の要は完成したので、後はあなたに任せます。きちんと完遂してくださいね」
美波はそう言い、それにアルは「りょーかい」と答える。
「それでは、私は先に避難しておきます」
そうして、彼女はアルの元を離れていった。
一人残ったアルは、美波の去った方に視線を送り、
(まったく、口煩い)
と思うのだった。




