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百合園の誓い  作者: 川島
第三章ー百合園の敵対者ー
77/96

10

 夜雲を突き抜ける断崖絶壁の崖の中の館。その一室に彼女はいた。


「……ふふ、まだまだ幼いな」


 この世界の創造主であり、エルの先祖のアル・クレシア。

 彼女は柔らかいソファーに腰を沈め、足を組む。

 その幼い見た目とは反し、妙に色気のある幼女だった。


「神代悠子にエル・クレシア……」


 アルの目の前には、幾つもの薄い板が展開しており、そこに無数の映像が映し出されていた。

 それを見ながらアルは言う。


「やはり所詮はまだまだ子供ということだね」


 そこに映るものは、『何も知らない』悠子たちの姿。

 何も知らず、何も分からずに協会の意思のままに動き、敵対するもの全てを殲滅するだけの道具。

 その様にアルは哀れみの視線を向けた。


「このままいけば、きっとこの子たちも……」


 『何もかもを知ってる』アルだからこそ、その映像の中の二人に心底同情の念を示す。


「だからせめて私の糧にしてあげるよ」


 そう言い、


「美波、計画遂行の準備はいい?」


 アルは真後ろに控える仮面の少女ーーー美波に声をかける。


「とっくに終わってますよ」


 それに美波は答え、それを放り投げる。

 パシッとアルは放られたそれを手に取った。


「相変わらず仕事が早いね、美波。流石だよ」


 それは筒状の形状をしており、その先端にはボタンのような青い突起が付いている。

 それは彼女の計画の要であり、ある装置を起動させるためのスイッチでもある。この先端の突起を押した時点で、それだけでここでの計画は完了する。そんなスイッチだった。


「あなたが手伝えば、もっと早く終わったんですけどね……!」


 美波は仮面越しにアルを睨み、言う。


「まあ、私には私の仕事があるからね」


「神代さんたちをストーカーしてるだけなのに、何が仕事ですか」


 文句を垂れる美波にアルは苦笑いした。


「いやいや、だって彼女たち強いよ? 万が一にでも計画を邪魔されるようなことがあったら困るし」


 それに美波は、溜息をつく。


「あのですね、慎重になるのも良いですけど、何の為に『耳役』を仕込んでると思ってるんですか。あなたがそうして監視してると、折角の耳役の意味ないじゃないですか」


「耳役、ね。でもその耳役って結局は派剣協会の人間だし、あまり信じられないんだよね」


 アルは足を解き、年相応の子どものようにぶらぶらと振り子みたいに足を揺らす。


「美波だって、この作戦が終わればその耳役とやらは始末するつもりだよね?」


 それに美月は、少し口篭りながらも答える。


「まあ、それは……、ただ、私の場合は利用できるものは利用して、不要になったら切り捨てるだけで、利用できるものまで利用しないあなたとは根本的に違いますよ」


「うっ……」


 アルは返す言葉が見当たらなかった。


「……まあいいです。とりあえず計画の要は完成したので、後はあなたに任せます。きちんと完遂してくださいね」


 美波はそう言い、それにアルは「りょーかい」と答える。


「それでは、私は先に避難しておきます」


 そうして、彼女はアルの元を離れていった。

 一人残ったアルは、美波の去った方に視線を送り、


(まったく、口煩い)


 と思うのだった。



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