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その後、二人はその世界を出る準備をする。
本当はもっとゆっくりと会話を楽しみたかったが、あまりここに今二人で長居することはできない。
あの村には二人だけではなく、他の者達もいるからだ。
長い間、二人同時に姿を消してしまえば、不審がられるかもしれない。何かあったのではないか、と勘繰られる可能性もある。
幾つか言い訳は考えてはいるものの、流石に長い間二人同時に消えてても大丈夫な程の言い訳は思い付かない。
一応、二人は部隊の上に立つ人間だ。
身勝手なことはできないだろう。
「じゃあエル。とりあえず今日は戻りましょうか」
「うん、そうだね」
エルは頷き、
「一応いつでも入れるようにこの世界は開いておくね」
と言う。
この世界は、好きな場所に出口を設けることもできる。
つまりこの百合園を介せば事実上のワープが可能というわけである。勿論、今まではエルの去った後にこの世界は崩壊していた為、それは出来なかったが、彼女の力が強まった影響か、完全に安定して存在することのできるようになった為、
この空間からは、そういう利点までが生まれていた。ただ、当然だけど誰でも彼でもこの世界に入れるわけでもないので、実際ワープが可能なのは、この百合園の創造主たるエルの他には、一つの世界を構成する情報量の中でも平然と自我を見失わずにいられる悠子くらいのものである。
そのことに悠子は、
「本当にずっと固定したままでいられるようになったみたいね」
と言いつつも、
(この子に追い付くためには、もっと頑張らないといけないわね)
そう思う。
悠子自身も分かっていた。
今までは均衡していた力に、大きな差が出たことに。
(今回の仕事が終わったら久しぶりにお義父さまに稽古を付けてもらいましょう)
普通に戦えば恐らく悠子が完勝するけど、単純な剣の腕ならばまだ悠久の方に分があるだろう。
最強ではあるものの、完全ではないので、悠子にもまだまだ強くなる余地はあった。
(エル、頑張ってまた元の対等の位置に戻るわ)
そうして二人は、その世界を去り、元の世界に戻る。
真っ暗な夜の世界だ。
二人は別々の場所に出口を作り、そこに現れた。
悠子はサンドを見送った地点に戻り、エルは別の地点に。
同時に現れた。
一応、事前に誰もいないことを確かめて、そこに出口を作ったので、辺りには人の気配が一切ない。
悠子は夜空を仰ぎ見る。
(まだあの世界が閉じずに残ってるのが分かる)
目には見えず、触れることもできないが、何となくの域で分かる。
この世界に混在するようにあの世界があることが。
感覚を研ぎ澄ませればより鮮明に、認識することはできた。
(これは凄いわね)
悠子の口元に笑みが浮かぶ。
(私も負けてられないわ)
そして、悠子はあの廃屋に戻る為に足を進めた。




