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百合園の誓い  作者: 川島
第三章ー百合園の敵対者ー
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4

 作戦の最終確認は、大きなお腹を抱えながら夕食を運んできたサンドの一声によって終わりを迎えた。

 元々、ただの確認作業のようなものでもあったので、そこまで時間がかかるものでもなく、直ぐに終えてもいいことだった。

 それでも、サンドが夕食を運んでくるまで作戦会議が続いたのは、折が合わないような連中ばかりがこの場に集まったからだ。

 悠子は辟易とした面持ちで、配膳に来たサンドをこの廃屋に招き入れる。転ばないように両腕で彼女の肩を支え、歩かせる。


「あ、ありがとうございます」


 サンドは悠子に礼を言い、一歩一歩慎重に、軋む床の上を歩く。

 外に置いててもいいと、サンドに告げたのだが、根が真面目な娘なのだろう、彼女は頑なに最後まで仕事を為そうとしていた。

 どうして妊婦にこういうことをやらせるのだろうか、と悠子は思う。他に人がいないわけでもないはずだ。事実ここに来るまでの間、サンド以外にも人の姿は見受けられた。

 それなのに、こういう簡単なことすらもこの娘にやらせるということは、何かがあるのかもしれない。そこまで考えると、ふっと悠子は我に返る。


(いや、これ以上は止めておきましょう)


 今はそんなことを考えてる場合ではない。この村にはこの村の。何らかの深い事情があるのかもしれない。あるいは何らかの文化や風習があるのかもしれない。自分たちの常識は、この閉された村には当てはまらないだろう。実際、悠子はこの村の住民のように原始的な生活をしたことがない。この集落の民のように裸体を隠すために毛皮を直接纏うのではなく、細い糸を複雑に編み込み、縫ったーーー洋服を着用している。

 そう。彼らの文化や風習を知らない以上、深く考えることは無意味なのである。


「えっと、あの、これ」


 サンドは悠子の手前に、食べ物の乗ったお盆を置いた。

 木のお盆だ。その上には色鮮やかな食べ物がある。

 大きい葉っぱをお皿代わりに敷き、その上に表面が微かに焦げた焼き魚があり、それを囲うようにチーズや野草が並べられていた。

 

「どうぞ」


 それなりに豪勢な食事だった。正直、用意されていたのがこの廃屋だっただけに、夕食もさほど期待はしていなかった。いや、それどころか嫌がらせに角材が何かが運ばれてきても不思議ではない、そんな空気感がこの集落には満ちていた。誰一人として悠子たちの来客を歓迎してない。そんな雰囲気が漂っていたこの村で、これほどの食事が出されたことに微かな戸惑いを覚えた。


 毒でも入ってるのかもしれない。そんな失礼なことを考えながらも悠子は出された食事に手を伸ばす。すると、それと同じようなことを考えていたのか、隣に正座するクロナが悠子にぼそっと耳打ちをする。


「ゆ、悠子様。私が先に毒味をするので、それまで食べるのは待ってください」


 悠子はそれに首を横に振る。


「いいえ、毒味は私がするわ」


 と箸を掴み、焼き魚の身の中に箸を入れる。この集落は、敵の本拠地からも近い。だからもしかしたら敵に感づかれ、悠子たちを排除しようと毒を盛られた可能性も否めない。ここの民に悪意はなくても、その可能性自体はある。

 なのでそもそも出された食事を、そのまま信じて食べることはできない。必ず毒味役というのが必要になる。そして、その毒味役に相応しいのはこの中で、ただ一人。悠子だけだった。


「な、何を、ダメに決まってます」


 クロナは反発の声を上げるもこの中で適任なのは悠子だけだということは、誰もが分かりきっていた。


「もしも本当に毒が入ってたらどうするつもりなんですか」


 クロナは言う。彼女も分かっていた。この中で適任なのは、悠子だということを。悠子ならば致死クラスの毒を喰らったところで、直ぐに生き返ることができる(勿論、毒はただの可能性に過ぎない。それも限りなく低い可能性だ)。しかし、それでも毒を喰えば苦しいことには変わりない。だからクロナは否定の声を上げる。

 すると、それを聞いたサンドがバツが悪そうに顔を伏せた。


「別に、普通の食事、です。何も入ってません」


 ぼそりと呟くサンドを、クロナは睨む。


「そんなの、分からないだろ」


 奥歯を噛み締め、嫌悪の視線を浴びせるクロナに、サンドは「ひっ」と短い悲鳴を上げる。

 その様子に悠子は溜息をつく。


「クロナ、おやめなさい」


 悠子はクロナの頭を叩き、


「ひぐっ!!」


 強制的に黙らせた。


「この子が失礼を、ごめんなさいね」


 悠子は一つ謝罪をし、出された食事に手を付ける。

 ほぐした魚の身を箸で摘み、それを口に運ぶ。


「はむっ」


 もぐもぐと咀嚼し、ごくりと飲み込む。


「美味しい」


 その悠子の感想にサンドはほっと胸を撫で下ろす。この反応。もしかしたらこの料理を作ったのは、彼女なのかもしれない。


 すると、それに続いて、他の者達も料理に箸を付けていく。やはり彼らも悠子が食べるまでは、その料理を信用してなかったのだろう。悠子が食べた途端に次々に箸を進めていく。頭を叩かれたクロナは「ふぎゅうう」と目を回し、倒れていた。







 

 

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