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百合園の誓い  作者: 川島
第三章ー百合園の敵対者ー
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1

 数日後。エルは悩んでいた。とある森の中。傍らを歩き、数多の剣士を率いる少女ーー神代悠子を横目に、悩んでいた。

 剣士派遣協会の剣士が入手した情報を頼りに討伐部隊を編成し、今から科学者の潜伏してる施設に乗り込む手筈になっている。

 運が良ければそこで全て終わる。

 敵を殲滅し、エルの魔法を奪い返すことができるかもしれない。

 その為に編成した部隊を率いて二人は歩いていた。

 空気がピリピリしている。

 当然だ。

 いくら共通の目的があるとはいえ、元々は敵同士。

 互いに憎しみ合ってる関係だ。

 互いに対する憎悪を刷り込まれていた。

 でも、それらはエルの悩みとは無縁のものだ。

 エルの悩み。それは悠子との関係性だ。

 エルは文化祭のあの日、さらに力が強くなった。

 元々強大だった力だけど、それ以上になった。

 今のエルは間違いなく世界最強の力を持っている。

 それは剣士魔法使いひっくるめても、同じだ。

 悠子すらも超越してしまった。

 それが今のエルの悩みだ。

 普通の者にしてみれば「強くなりすぎたことが悩み」というのは贅沢なものだろう。

 しかし、半ば悠子に精神的に依存しているエルにとっては、とても大きな悩みだった。

 何故なら悠子とエルが知り合い、繋がることができたのは、その最強という力故のことだからだ。

 つまり悠子を超えるということは、相対的に最強を冠する資格があるのはエルだけということになる。

 もしもこの力のせいで、悠子に見放され、再び孤独の中に突き落とされたら、と考えるとエルは怖くて夜も眠れない。


(はぁ……)


 なんとしてでも悠子の前ではその力を隠さなくてはならない。


 すると、そんなエルの頭の中に一つの文字が浮かんでくる。


『今夜、百合の園にて待つ』 


 それは悠子の言葉。

 音波を放ち、対象に意識を伝達する為に使われる手段。

 剣士が戦場にて仲間と意思疎通する為に使う剣技の基本術式。

 これを大きくすれば衝撃波を生み出すことも斬撃を飛ばすことも出来るようになる。

 その剣技の基本術式の音波をエル用に改良した為、それは他の者には拾われることなく、エルの元にだけ届く。

 

 エルは頭の中に届いた悠子の言葉に小さく頷く。


(うん、わかったよ、悠ちゃん)


 二人はそれぞれの部隊を率いて、森を抜けるまで歩き続ける。

 この森の先には一つの集落がある。

 今晩はそこで寝泊まりする予定だ。

 そして、朝日が登る前。

 情報のあった科学者の施設に襲撃を仕掛ける。

 編成人数は剣士十人、魔法使い三人の計十三人。

 しかも、剣士は悠子を含めてS級が六人もいる。

 何人ものA級剣士が科学者に殺された。

 だからその討伐部隊は基本的にS級だけで編成されている。

 無駄死にを防ぐためにも、悠子の独断で決めた。

 悠久や剣神の巫女には伝えたが、老兵には何一つ言わずに出た。

 文化祭の日に大量の部下を死なせたこともまだネチネチ言われるような状態だ。

 そんな中、S級編成の部隊を悠子が率いることを認めてくれるはずもないだろう。

 だから帰ったら怒られることを覚悟して、彼女はS級を連れ出した。

 最低でも足でまといにはならない戦力が必要だった。

 文化祭のあの日、屋上で悠子は科学者と戦った。

 だが、奥の手を出さなくてはならないほどに苦戦を強いられた。

 科学者を退けることはできたものの、その思惑を看破することが出来ずにまんまとエルの魔法を奪われるという失態を二人に犯させた。

 彼らは狡猾で、手段を選ばないような連中だ。

 何があるかは分からない。もしかしたら悠子を超えるほどの力を隠し持ってるかもしれない。

 仮にも敵はこの世界の創造主だ。どんな手段を持ってるのかも分からない。

 だから出来るだけ死にそうにない連中を選ばなくてはならなかった。

 それにエルの魔法を使いこなすに至っていれば、無尽蔵の魔力を振るうことができる。

 そんな敵を相手取るのに足でまといを率いていては危険だろう。


(出来ればこちら側の創造主の力も連れてきたかったのだけど)


 悠子は脳裏に老人口調の少女、剣神の巫女の姿を思い浮かべる。


(彼女がいれば……、ううん、今更言っても無駄ね)


 悠子は溜息をつく。

 剣神の巫女には断られた。

 

『魔法使いと協力なんぞ、儂は絶対にせぬよ』


 そう断られた。

 当然だ。かつて剣神は大切な人を魔法使いに殺された。そういう過去を持つ為、魔法使いのことは毛嫌いしている。

 だから今回の共同戦線についても凄く渋っていた。


(とりあえず誰も死なせないようにしなくてはね)


 思い、悠子は歩いて行く。そして、しばらく歩き続けていると、ようやく森が明け、その先に一つの集落が見えた。

 

 

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