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剣士派遣協会総本山の街には、ひとつの巨大な建物がある。
他の建物の屋根並びから奇妙に一つだけが突出してる巨大建造物。
それは世界各地にもある派剣協会の依頼受託施設。その大元である。
そこは、派剣協会の全権を担う者たちの会議が行われ、世界全域の派剣協会の情報が全てここに集まってくる。
つまり、世界中の剣士の情報は、全てここにある。
しかも、この建物の最上階。
そこは剣士側の巫女。
剣神の鎮座する場所でもあり、剣士側の聖域のようなものだった。
そんな建物の地下深く。
三権会議の場を過ぎ、それよりも遥か下の世界。
そこには縦長の空間が広がっていた。
螺旋階段が直下まで続き、それを真下まで下りるとそこには果てしない地下牢が広がっていた。
この街ほどもあるような広々とした空間だ。そこが囚人を収容する為の施設になっていた。
数え切れない程の鉄格子。
無人のものもあれば、その中に拘束衣に身動きを封じられた者の姿を見受けられるものもある。
そして、その一角にぶかぶかのスーツを着た少女が一人。
剣神の巫女の姿がある。
「ほっほ、やっておるのう」
彼女は目を閉じ、その瞼の裏に神代悠子とエル・クレシアの姿を見ていた。
二人は一つの部屋の中、話し合っている。
それは剣士と魔法、二つの勢力が共に手を結ぶ為に開いた話し合いの場。
本来、悠子ではなく、彼女が参加しなくてはならない場の光景を、その瞼の裏に見ていた。
今この時も話し合いは行われている。それなのに何故彼女がこんな場所にいるのか。
その理由は一つだ。
「それにしても血の世界に迷い込んだ此奴の呪いを解け、というのはワシにも不可能なことだというのに、厄介事を押し付けおって」
目の前の牢獄に収容された意識不明の男。
彼は悠子の血濡れの太刀に斬られたことにより、その血を体内に取り込み、血の世界に迷い、ずっと眠り続ける男ーーーミツキだ。
先の戦いで悠子が生かした(生きてるかどうか本当に怪しいものだが)まま捕らえた敵側の情報を持った唯一の捕虜である。
すると、その傍らに控える少女が一人。
「仕方ねぇですよ、悠子サマのおねだりですもん」
言う。
「聞かねぇことには、拗ねちゃうじゃねえすか」
それは敬語がチグハグで態度の悪い少女だ。
目付きが鋭く、粗暴な表情で、剣神の巫女の傍らに控えていた。
彼女の名は藤堂信紅。
その名を体現するような真っ赤な髪をしている。
「ほっほっ、君は上司に対して随分な見方をしているようだ」
悠子は、その態度の悪い少女の直属の上司だ。
それなのに悠子に対するその言動。
それが少し気になった。
「はっ、当然じゃねえっすか。あのクソガキの我儘で、どれだけ死んだと思ってるんすか」
吐き捨てるように言い、信紅はその顔に憤りを浮かべる。
「あんただってわかってるんじゃないすか、剣神サマ。あのクソガキではなく、悠久さんなら死人を出すことなくあの戦いを終えていた、と」
余程、悠子のことが嫌いなのだろう。
どんどん口調が荒々しくなっていく。
「大体、強過ぎるだけの悠子サマには、人を束ねることなんてできねえんすよ」
それは一理ある。
剣神の巫女も常々思ってはいたことだ。
(確かに悠子に、人を束ねることは難しい)
悠子は自らが死ぬ事は絶対にない為、闘いにおいては命というものを軽んじる傾向がある。
というより正確には、死んだところで意図的に生き返ることができる為、命を軽く見てる。
死ねば終わり、という実感がそもそも持てずに欠落しているのだ。
だから平気で人を駒のように扱い、その命すらも敵を殲滅する為ならば簡単に切り捨てる。
ように見える。
だが、それが違うことは剣神の巫女は知っていた。
悠子は闘いが終わった後、味方の屍を眺め、必ず『別れ』という形で死を実感していた。
きちんと陰で失った者達の供養をし、涙は出さないものの心で泣いていたことを知っていた。
だからこそ剣神の巫女は悠子のことを嫌いになることは出来なかったのだが、彼女のことを深く知らない者ならば、この口の悪い少女のように思うのは仕方の無いことではある。
剣神の巫女は溜息をつく。
(しかしな、儂はあの娘が嫌いにはなれぬ。悠久の義娘だから昔から知っておる為、親心のようなものが芽生えたのかもしれぬが、どうにも嫌いにはなれんのじゃよ)
剣神の巫女の瞼の裏に悠子の姿が浮かぶ。
(いや、違うか。儂はあの娘に、姉様の影を見出してるだけなのかもしれぬ)
その悠子の姿に、彼女が幼き日に大好きだった『姉』の姿が重なる。
(やはり似ておる。本当に瓜二つ)
そして、それと同時にその『死に顔』が脳裏を過ぎる。
「っ!!」
剣神は咄嗟に目を開け、思わず顔を背ける。
それは思い出したくもない光景だった。
「剣神サマ、どうしたんスか?」
すると、そんな風に動揺する剣神を心配したのか、ひょこりと信紅は、剣神の前に顔を出す。
「いいや、なんでもないのう」
それに剣神は取り繕ったように答えるのだった




