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百合園の誓い  作者: 川島
第二・五章〜百合園の同盟〜
64/96

5

 剣技と魔法。悠子とエル。その二つの勢力が手を組み、今後の事について策を講じてる中、その渦中にある組織『科学者』の長は、薄暗い室内にある巨大なフラスコの培養液の中に身を置いていた。


「肉体の調整はまだ終わらないの?」


 ぶくぶくと口の端から気泡を漏らし、フラスコの中の白い髪の少女は呟いた。


「まだ終わりません」


 それに答えるのは、腰に剣を引き下げた少女、美波。


「そもそもエル・クレシアに力を与えるのは早すぎですよ。この先、彼女が計画の進捗の邪魔をしてきたらどうするつもりなんですか」


 美波は咎めるように言う。しかし、それを白い少女は笑い飛ばす。


「ふむ、それは特に問題ない」


「どうして、そう言い切れるんですかねえ」


 美波は額に青筋を浮かべながら目の前の少女を睨み、


「当然、手は打ってあるからね」

 

 そう答える少女は楽しそうに笑う。その笑顔を見て、美波は溜息をついて、


「アル、あなたは言葉が足りなすぎです」


 言う。

 そのフラスコの中にいる白い髪の少女は、全く面影はないけれどアル・クレシアそのひとだ。

 見た目は幼く縮み、目の下のクマも消えていた。

 かつての疲れ切った感じが消え、幼く若返っている。

 彼女はエルの魔力に飲み込まれたのに、何故かそこにいた。

 エルの読み通り。彼女は生きている。

 しかも呑まれたはずの四肢もあり、五体満足で、若返っていた。

 いや、厳密には若返っているというわけではないが、それでも彼女は幼い姿になっていた。

 

「もう少し計画の内実を明かしてください」


 美波は言う。

 しかし、それに彼女は首を横に振る。


「やれやれ、敵を騙すには味方から、という言葉を知ってるかな?」


「それは知ってますが、今回の件はあの魔法を奪うことだけが目的だったはずですよ」


 事前に聞かされていた計画の内容とは食い違う部分も多かった為、美波は憤る。


「上手く行ったから良かったものの、下手すれば私もあの場で殺されてたかもしれない」


 それにアルは不敵に笑い、答える。

 

「しかし、君は生きてるだろう」

 

「そんなのは結果論です」


「ふふ、必然は結果論とは言い難いけどね」


 ああ言えばこう言う、とてもこの組織の長だとは思えない言動の数々に美波は呆れる。

 すると、美波の胸元から太い荒縄のようなものが伸びる。


「ま、まあまあ、二人共、落ち着いて」


 それは美波の中にある六条カナデの精神の残滓だ。

 その荒縄を通して、意思疎通をすることができる。

 

「仲間同士なんだから争うのはよくないよ」


 うねうねと蠢き、その荒縄からは可愛らしい声が放たれる。


「仲間、ですか。居場所のない人間同士が仕方なく身を寄せ合ってるだけのこの組織に、仲間意識なんて芽生えるはずはないでしょう」


 美波は自身の胸元の生えた荒縄に視線を落とし、


「あなただって、父が殺されたから仕方なく、この組織にいるのでしょう」


 と言い、それに荒縄はおどおどと答える。


「そ、それはそうだけど、今は仲間なんだから」


「大体、カナデさん。あなたはいつまで私の中にいるつもりですか? さっさと別の体を探してください」


「うぅ、それは無理ですよ」


 まるで姉妹のような二人の姿を見て、アルの口元に笑みが零れる。


(何だか、懐かしい光景)


 その二人の姿に、かつての「自分たち」の姿を重ね合わせる。

 それはアルと、昔ここにいた今は亡き彼女の想い人の姿。

 それを思い出し、自然と笑みが零れていた。

 すると、それに気付いたのか、美波とカナデは培養液の中で柔和に微笑む彼女に言う。


「ふーん、アル。あなたでもそんな風に笑うことあるんですね」


「意外に可愛いかも」


 そんな風に言う二人の言葉にアルは一言。


「う、うるさい」


 と言葉を返す。


 そんなこの場に似合わないような三つの姦しい声が飛び交う中、ドンとこの部屋の重々しい扉が開き、


「やあやあ、こんにちわ、君たち」


 絢爛な装飾品を身に付けた少年が一人、ずかずかと踏み込んでくる。


「おやおやこれはこれは、ディル家のご子息殿ではないですか」


 それはクロノ・ディル。世界有数の財閥ディル家の長子であり、時期ディル家の跡取りである。

 

「今日はどういったご要件で?」


 美波は小馬鹿にしたようにクロノに言う。

 しかし、クロノはその長けた容貌には見合わないような気味の悪い笑顔を浮かべ、答える。


「ふふ、決まってるだろう。例のモノを持ってきたんだ」


 クロノの手には鎖が巻かれ、そこから真後ろに伸び、何かを繋いでいた。


「要望通り、生贄百体だ」


 それは大量の裸の女性だった。

 鎖で繋がれて、全身に傷を負い、目に光を伴わず、生きる気力すらも残ってないような絶望を煮詰めたような感情を抱く女性たちである。

 大方、散々クロノに痛め付けられた挙句、生きる気力を失った哀れな者達なのだろう。

 その光景に美波は微かな嫌悪感を覚える。


(相変わらずゲスな人間ですね)


 その美波の思考にカナデはツッコミを入れる。


(まあ、この女の子たちで、悪魔を作ろうと考える私たちが言えることではないけどね)


(まあ、確かにその通りですね)


 今のカナデと美波は一心同体の為、脳内での会話も可能だ。

 だからお互いが思ってることも容易に分かる。

 美波は不快感を抱きつつも、笑顔のままクロノの元に近付く。


「ああ、ありがとうございます」


 お礼を言い、繋いだ鎖を受け取る。


「お金はいつもの場所に置いてあるので、持っていってください」


 それにクロノは「了解」と頷き、次に巨大なフラスコに視線を向ける。


「なんだい、また随分と若々しくなったね」


 にたにたと笑い、粘り付くような視線でアルを見る。


「くすっ、ありがとう、と言っておくべきかな、少年」


 それにクロノは返し、


「別に褒めてはないけどね。それよりあのムカつく男もいないみたいだけど、どこに行ったんだい?」


 思い出したかのようにそれを切り出した。


 ムカつく男、というのはあの隻腕隻眼の大男ミツキのことだろう。


「ああ、彼なら剣士派遣協会に囚われの身になったよ」


 何気なく答える彼女に、途端にクロノの顔が青く染まる。


「お、おい、あいつも僕のことを知ってるけど、捕まったってことは僕がこの組織の協力者だってバレるんじゃないのか?」


 急な態度の変化に、美波は吹き出しそうになるのを必死に堪える。


(相変わらず身なりは偉そうなのに、気は小さいんですね)


 内心では見下しつつも、美波はそれを表出させることをしない。



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