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百合園の誓い  作者: 川島
第二・五章〜百合園の同盟〜
62/96

3

 エルは悠子をジトっと睨む。その非難の視線に悠子は思わず目を逸らした。


(仕方ないでしょう、私も仕事なんだから)


 胸中に罪悪感を抱きつつも悠子は次の話に切り替える。


「そ、それで、そちらの要望は、人員よね」


「…そう。人員だけ、ね」


 エルはジト目のまま答える。遠回しな嫌味を悠子は流しつつも溜息をつく。


「この内容に何か不満?」


「いいえ」


 悠子はその綺麗な足のラインを強調するように足を組み、言う。


「そう。なら決まりというわけね」


「うん、それでいいよ」


 相変わらずエルは不満たっぷりな様子だ。

 エルの不満の種が何なのか、悠子は分かっていた。


(エル、そんな顔しないで)


 それはこの場の交渉が原因というわけではない。元々この場に悠子が来る予定はなかった。本来は剣神の巫女が来るべきような双方にとっての大切な場だった。それが急遽、悠子が代理で来ることになったのは、これが魔導師協会のクレシア家の館で行われることになったからだ。

 敵地の中。そんな危険な場所に派剣協会の巫女を単独で送り込む事など出来るはずもなく、仕方なく魔導師協会に許可を取り、代理として悠子を送り込んだ。


 本来それは失礼なことで、とても許されることではない。巫女というのは立場的には人よりも上に位置付けられている。どんな者よりも偉い立場の人間。そんな高位の者に相対するのは、同じ立場の人間。つまり剣技側の巫女だけだ。それなのに悠子が来た。

 これはつまり相対的に魔導師側の巫女を貶めることでもある。そして、それは同時に魔導師協会を貶めてる事と同義だった。自分たちは最高位の権威を示してるのに、相手側はそれよりも身分の低い者で答える。これは礼を失った愚行だ。

 しかし、それなのに魔導師協会側がそのことを問題にしないのは、単に今は猫の手も借りたいような状況にまで追い詰められていたからだ。当然だ。魔導師協会にとって、エルの生み出したあの魔法は、どんなものよりも価値がある。どんなに才能のないものでも膨大な魔力を持つ事ができ、才能のある者ならばさらに強くなることができる魔法。それを量産することが出来れば魔導師は、更なる高みに登ることができるはずだ。


 だからこそ、彼らは躍起になってあの魔法を探す。だけど、それは言い換えれば、敵の手に渡ったままだと自分たちの地位が危ないことを意味していた。エルの作った魔法は、それほどの危険性と可能性を孕んでいた代物だった。


 だからこそ急遽この場を設けたのだが、それはエルにとっては最悪な事だったのだろう。

 元々この日はエルの休みの日だ。しかも、悠子も休みだ。そして、その休日を利用して、二人は一日ずっと過ごす予定だった。

 文化祭の後夜祭(襲撃のせいで延期)を一緒に踊ることができない代わりに、休日のひとつをエルに捧げる。それが文化祭の準備期間の時に交わした約束だった。そして、それが今日だった。

 だけど、今この場に二人が揃っている(これはエルにとっては嬉しい誤算)のは、ただのお仕事だった。

 つまりあの約束も延期になったというわけだ。そのことに少なからずエルは憤りを持ち、目で訴えかけていた。


(今日楽しみにしてたのに……)


 今日この交渉が終わった後。しばらくは互いに休みがない。学校と仕事の両立で二人は、それなりに忙しかった。だから今日を逃せば、学校外で二人きりになれる好機は、だいぶ先まで失われるだろう。

 だけど、悠子は内心でエルにある話を伝えることができることに浮かれていた。それは悠子にとって嬉しく、恐らくエルにとっても喜ばしい話ではあるだろう。


 悠子は思わず笑みを零した


「それでは、まずはこれを貴女に渡すわ」


 悠子は書類の束を取り出し、それをエルに差し出す。


「……これはなに?」


「悪魔崇拝者………、いや、今は科学者と名乗ってるんだったわね。 まあ、私としてはどっちの呼称でも構わないけれど、その異端者の殲滅チームのリストよ」


 それを受け取り、エルはその一番上にある名前を見て、驚いた。


「!?」


 神代悠子。その名前が記されている。


(……まさか。悠ちゃんが……!?)


 最強の戦力。それを派剣協会は、派遣を決めていた。勿論、それにも理由はある。派剣協会にとってあの魔法は存在してるだけで脅威の代物だ。敵を殲滅し、早々にその魔法を破壊する。それが派剣協会の思惑だった。だから悠子を殲滅リストに組み込んだのだ。そして、その殲滅リストに載ってる剣士を表面上、統括する役割として上がってるのがエルである。つまり、敵を倒すまでの間、一緒に仕事をする。それは悠子にとって、思い描いていた一つの理想像である。


 だから、悠子は内心では喜びに満ちていた。


(これのおかげでしばらくは共同戦線を張れるわね、エル)


 悠子は微笑み、それにエルも呼応するように口元に笑みが滲み出てくる。その事は、やはりエルにとっても嬉しいものだったのである。




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