1
ーー悠子はワイシャツのボタンを下から順に止め、足先からスカートを腰の辺りまで持ち上げ、シャツの裾を入れて、その真横のチャックを閉める。
そして、ワイシャツの襟にネクタイを通して胸元で結び、その上からスーツの上着を羽織る。
「終わったわ」
悠子はカーテン越しのまま外の者に、着替えが完了したことを伝える。
「かしこまりました。それではカーテンを開けさせていただきます」
左右にカーテンが開き、悠子の目の前にエプロンドレスとフリルの付いたカチューシャーーーつまりメイド姿の老婆の姿が見えた。恐らくは熟年のメイドなのだろう。背筋が真っ直ぐ伸びていた。
「おお、お似合いですよ。悠子サマ」
老いたメイドは人懐っこい笑顔を悠子に向ける。
「これならお嬢様と肩を並べて歩いても違和感ないでしょう。ささっ、こちらへどうぞ」
老婆は革のハイヒールを悠子の足元に差し出し、履くように促す。
「ありがとう」
悠子は老メイドに誘われるままに革のハイヒールに足を入れた。
「少しヒールが高いのでお気を付けください」
「分かってるわ」
悠子は頷き、革のハイヒールの中に踵まで収める。
「それでは悠子サマ、お嬢様がお待ちです。参りましょうか」
静かな口調で老メイドは呟き、それに悠子は「ええ」と答えた。
この部屋は試着室なのだろう。老メイドは重々しい扉を押して開き、廊下に出る。その後ろに悠子は着いていく。
長く長い廊下だ。床には真紅のカーペットが奥の奥まで続き、壁には幾つもの模造刀や魔法具が飾られており、さらにその天井には絢爛豪華なシャンデリアが吊るされ、この通路を明るく照らしていた。
まるで王城の通路のような絢爛な廊下だった。
(それにしても本当に大きい家ね、ここは)
そのまましばらく老メイドの後ろに着いて、歩いているとその先に巨大な扉があるのが見えた。
「悠子サマ、こちらにお嬢様がいらっしゃいます」
老メイドはその扉の前まで来ると立ち止まり、悠子の方を向き直る。
「ここが……、ここがあの子の……」
どくんどくんと悠子の心臓の鼓動が高鳴る。それは緊張のせいだろう。
悠子は胸を抑え、1度自らを落ち着かせる為に深呼吸をする。
吸って吐いて、吸って吐いて、吸って吐いて、と。
深呼吸する度に気持ちが安らいでいくことに悠子は気付いた。
「……ふぅ。じゃあ、行ってくるわね」
悠子は一言メイドに声をかけ、そのメイドは深々と頭を下げた。
「それではお嬢様をよろしくおねがいします、悠子サマ」
そして、悠子は重々しい目の前の扉を開き、その先に足を踏み入れた。




