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ーーアルの頭部を掴み、持ち上げる。少し重い。だが、それでも片手で持ち上げることが出来る程度の重量だ。
「……」
エルは冷え切った視線をその手中にある彼女の頭に向ける。
そこには既に胴体はなく、頭部だけになっている。そして、その顔に張り付けられた表情。ーー瞳孔が開き、その瞳の中に光は灯らず、白銀の長い髪は血に濡れ、真っ赤に染まっていた。
それはアルの死に顔だった。
エルはアルを殺した後、彼女が取り込んだ筈の自らの魔法を探した。だけど、不思議なことにアルの体の中から、エルの魔法は、消えていた。
おかしい。
エルの魔法を別の場所に移せるほどの時間の余裕などアルにはなかったはずだ。
エルの一方的な力の前に、アルはまともに魔法を発動させることすら出来なかった。そのはずだ。
だが、にも関わらずアルが体内に取り込んだはずのエルの魔法は、その痕跡までもが完全に消え去っていた。
「……どういうこと?」
エルは自問する。
(まさかさっきの狐面が持っていった……?)
一度、その考えに至ったものの、それは直ぐに改められた。
(いや、それはない。さっきまで私が戦ってた創造主は、確かに私の魔法を使っていた)
エルは考える。
(一体どうすれば……、この私の目の前で、あの魔法を別の場所に移すことができるというの?)
しかし、答えは出ない。エルは自分の力に絶対的な信頼を置いてるが故に、思考が詰まる。
(本当に一体どうやって……)
エルはアルの頭部を眺め、魔法発動の痕跡を探す。だけど、やはり特殊な魔法発動の気配はなかった。
「うーん、まったくわからない」
そこで、ついにエルは思索することを放棄した。すると、その時だった。エルの後方に大きな気配が現れたのは。
「!」
エルはその巨大な気配を知っていた。それは彼女にとって、大きな存在。最愛の親友。
(悠ちゃん、近くまで来てるんだね)
神代悠子の気配だった。




