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百合園の誓い  作者: 川島
第二章〜百合園の舞踏会 Ⅲ〜
41/96

1

 ーー膨れ上がる純白の粒子が青空を駆ける。

 雲間を突き抜け、四方八方に飛来する。


「っ!!」


 白い光子の波が白衣の女を捉え、また逃す。

 それの連続だった。


(しぶとい)


 エルは詰将棋のように白衣の女に、粒子を放っていた。

 白衣の女の位置、移動する方向、回避する場所、瞬間移動の地点、瞬間移動の時間。

 それらを踏まえた上で、粒子を移動させる。

 それなのに未だ攻撃を当てるに至らない。

 白衣の女は、瞬間移動以外の魔法を使ってる様子はない。

 だけど、エルは彼女に攻撃を当てることが出来なかった。


「いい加減」


 エルは粒子の移動を加速させる。


「諦めて」


 空を呑み、膨大な光子は白衣の女の直前まで迫る。


(疾ーー!?)


 しかし、それも別の地点に瞬間移動することで、回避する。


「あ、ぶない」


 すると、眼前にエルの姿が現れる。


「やっと捉えた」

 

「なっ!?」


 エルの手元に白い光子が取り巻いていた。


「今度こそ、終わりーー」


 そして、エルがその光子を目の前の白衣の女に向け、放とうとした瞬間だった。


 エルの後方。遥か遠方に膨大な魔法の改変痕を感じ取った。


「ーーえ?」


 その方向は、間違いない。

 剣魔学校の方だ。

 

 エルは思わず後ろを見た。

 

 肉眼では捉えることができないくらい学校から距離は離れていたけど、千里眼を使えるエルには距離というものは関係ない。


 振り向き、同時に千里眼を発動させる。


 それは遥か遠方。数百キロ先の距離。

 そこに学校はあった。


 白衣の女を殺すことだけを考えてた為、そこまで距離が離れていたことには気付かなかった。


 そして、その敷地内に千里眼の焦点を合わせる。 すると、その中に大量の『何か』が蠢いていた。


「!!」


 黒く淀んだ霧のような魔力のを纏い、赤黒く肌が変色したーー大量の人間。


(な、にあれ)


 エルは驚きに目を見開いていた。

 

「悠ちゃ……」


 エルは思わず口に出す。

 その直後、エルの直下から紅蓮の火柱が天に上る。

 エルの身は灼熱の炎に呑み込まれた。

 その魔法を受け、そこでエルは初めて目の前の女に明確な敵意を覚えた。


(こ、の、ーー!!)


 別に攻撃されたことに対し、憤ってるわけではない。

 むしろ、この程度の魔法ではエルの髪の毛一本焼くことすらできないだろう。

 それなのにエルが白衣の女に敵意を抱いたのは、その真意を察したからである。


(私と悠ちゃんを引き離す為にーーいや、それだけならまだいい)


 エルの怒りが沸沸と煮えたぎる。


(私の悠ちゃんを侮るなんてーー許さない)


 エルの怒りの理由は、それだった。


 白衣の女は、エルを学校から引き離す為の囮なのだろう。

 恐らくエルを学校から引き離し、その間に剣魔学校を襲撃する算段のはずだ。

 彼女たちの襲撃の理由も目的も分からないものの一つだけハッキリしてることがある。

 彼女たちは、エルを学校から排除すれば、襲撃が成功するのだと思っている。

 それは言い換えれば、悠子のことなど元より障害にすらならないのだと言ってるようなものだった。


 そのことがエルの怒りを買っていた。


「ねえ」 


 エルの背中から翼のように純白の粒子が吹き出し、炎の柱を消し去った。


 そして、


「身の程を弁えた方がいいよ」


 いつの間にか白衣の女の背後に立っていた。


「ーーなっ!!ーー」


 白衣の女は咄嗟にエルから離れるために別の地点に瞬間移動した。

 が、それは全くの無意味。

 瞬間移動の先には、既にエルは移動していた。


「まずはその腕から貰うことにするよ」


 エルの放った純白の粒子の波動が、白衣の女の両腕を爪先から肩まで呑み込んだ。


「っぐぅぅ!!」


 白衣の女の両腕は消失した。


(くっ、全く、まだ私は『呑まれる』わけにはいかないってのに)


 

 

 



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