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それは穏やかな威圧だった。
そこに敵意も害意も一切なく。
ただ、それを問うだけ。
多分、その問に答えれば少女のことは見逃すだろう。
何故なら悠子は目の前の少女が捨て駒なのだと考えていたからだ。
当然である。
仮にもこの学校の強固な警備を掻い潜ってまで潜入者を紛れさせるような者たちだ。
こんなにも容易く尻尾が掴めるはずがない。
そこまで考えてるにも関わらず悠子が少女を捕えたのには、三つの理由がある。
一つ目は捕えた少女から情報を得ること。
これは望み薄だろう。
仮にも悠子とエルを相手取るのに簡単に感知の網に引っかかるような者に、大切な情報を握らせているはずはない。
二つ目は、彼らの狙いを確かめることだ。
狙われてるのはこの異端の学校なのか。
それとも悠子なのか。
それともエルなのか。
それを確かめる必要があった。
標的がエルならば、悠子は関与することは出来ないだろう。
そして、三つ目。
これが特に重要なこと。
この少女を捕らえることで、悠子が彼らの存在に気付いてることを相手に示すことができる。
自らの情報を意図的に開示することは悪手だという者は、中にはいるだろう。
だけど、悠子はそうは思わない。
情報というのは、持ってるだけでは何も意味を為さない。
要は持ってる情報を『どう使うか』が問題になる。
特に今回のように手元の情報が少なく、受身に回らざるを得ないような時は、あえて自分の側の情報を相手に示すことで、状況が大きく変わることもある。
そして、今回は牽制が目的だった。
相手側に『神代悠子が気付いてる』という情報を意図的に与えることそのものが、牽制になるのだ。
それも当然。
まず悠子と対等に戦える者は、この世でエルだけだ。
その時点で、彼らは悠子を排する為の術を持たないだろう。
つまり、敵にとっては悠子に見付かった時点で詰みなのである。
だからこそ、悠子に気付かれた相手は、見つからないように慎重になる。
それが悠子の牽制だった。
もう牽制の楔は打った。
後は目の前の少女から情報を引き出すだけだ。
「ねえ、私の問に答えてくれる?」
悠子は言う。
それに対して、目の前の弱々しい少女は、悠子の投げた問いを力強く否定する。
「っ! い、嫌です! 絶対に言いません!」
その言葉に、悠子は思わず感心する。
(なるほど。どうやら仲間意識だけは強いみたいね)
彼女のその言葉は嘘偽りのないものだった。
そして、それは一つの情報を悠子に与えてることに少女は気付かない。
(それに仲間意識があるということは、どうやら標的は私ではなさそうね)
悠子を狙う殺し屋の大半は基本的に単体で活動し、利害関係の一致のみで手を組むような連中ばかりだ。
つまり相対的に悠子が標的という可能性は低くなる。
(それじゃあ、やっぱりエルがーー?)
そんな風に思考に耽る悠子を前に、少女は思う。
(チャンス!)
こっそりと少女は胸の内ポケットの中に手を忍び入れ、それを握る。
(今ここでこの人を殺すことができたら……)
そして、ゆっくりとそれを取り出した。




