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百合園の誓い  作者: 川島
第二章ー百合園の舞踏会Ⅱー
37/96

10

 悠子は、彼女の改編痕の残滓が急に消失したことが気になった。


(エル……?)


 悠子は先程まで、微かだけど確かにこの喫茶店の中にエルの改編痕を感じていた。

 エルは二つの改編痕を残していたことから、二つの魔法を併用して使っていたことが伺える。

 ひとつは、おそらく千里眼。

 遠方から悠子のことを見ていたのだろう。

 そして、もうひとつの魔法。その術式の正体までは分からなかったものの、千里眼と併用していたことから『相手を見る(認識する)事で発動する魔法』を使用してたのだと読み取れた。


 多分、エルのことだ。

 念写でも使っていたのだろう。

 

 悠子はそのことに気付いてはいたものの、特には彼女の魔法を妨害するつもりはなかった。

 あれだけ見たがっていたのだ。

 好きなだけ見せてあげようと悠子は思っていた。

 それなのに、一時間前後でエルの改編痕が消え去った。

 いや、それだけなら悠子は『見るのはもういいのかな』程度に思っていただろう。

 だけど、エルの改編痕が悠子の元から消え去った次の瞬間には、空にエルの改編痕が現れたのである。

 とても薄く、だけど力強い。

 眩い光のように濃い改編痕。

 それが空に現れたということは、エルが空高くで魔法を使ったということだ。

 しかも、それは強大な魔法だろう。


 その魔法を悠子は知っていた。

 神隠しの空間を固定する為に使った魔法。

 百合園を創造するための魔法だ。

 いや、正確にはその魔法に限りなく近いものだ。


(どういうことーー?)


 それは、創造の改編痕を何度も受けた悠子だから感知できたのかもしれない。

 こんなに巨大な改編痕が現れたのに周りは誰も気付く様子はない。

 剣神も、悠久も、それには気付かず未だ呑気に口喧嘩をしていた。


(あの子は一体なにをしてるのかしら)


 エルの側に別の改編痕が現れた。そして、消える。それは典型的な瞬間移動の改編痕だ。


(交戦中? いや、それはありえない)


 悠子は首を横に振り、それを否定する。


(あの子と対等に戦えるのは、私だけのはず)


 悠子は答えを模索するように考える。


(それなら何故ーー)


 考えがまとまらない。

 確かなのはエルが攻撃の意図を持った魔法を使ったということだけ。

 本来それだけあれば交戦中と断じるには十分だが、エルの場合は攻撃魔法を使った瞬間に勝利する。

 つまり交戦になることそのものが、ありえないことなのだ。

 それにこの学校の警備は尋常ではない硬さだ。

 外部の者では悟られずに突破することは不可能だろう。

 あんなにも容易く部外者に制空権を取られることは、まずない。

 ということは必然的にエルの側にいるのは、この学校の生徒もしくは教員ということになる。

 だけど、この学校の関係者でエルと交戦することが可能なのは唯一。

 悠子だけだ。

 そういう前提があるせいで、悠子は考えに迷っていたのである。


(!)

 

 そして、思考を巡らせる中、ようやく悠子は一つの可能性に辿り着いた。


(いや、ちょっとまって、今日は文化祭よね)


 悠子の行き着いた結論が、徐々に鮮明に色付いていく。


(一応今日だけはこの学校に部外者でも、正面から入ることは可能)


 そして、その可能性はまた新たな可能性を生み出した。


(だけど、もしも仮に今エルの元にいる者がこの学校の部外者なら……)


 はぁと悠子は息をついた。

 確かに今日だけは部外者でもこの学校に入ることは可能だ。

 でも、この学校に入るためには、学校関係者からの招待状が必要だ。

 それも身内以外の者を招きたい場合は、事前に学校側に通達する必要がある。

 つまり、それは一つの可能性を示していた。


(今この学校の関係者の中には、内通者がいることになるわね)


 その可能性に思い至った悠子は、感知の網を学校全体に広げた。


(仕方ない。制空権はエルに任せて、念のために私は学内全域を見張っておきましょう)


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