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一方、その頃。タコ焼きを頬張り、ベンチに腰掛ける男がいた。
隻眼に隻腕の男。
彼は天を仰ぐように眺め、その先に繰り広げられる攻防を感じ取っていた。
「おおっ、はじまったか」
目に見えない程の距離のはずだが、確かに彼はその攻防を感じ、笑う。
「にしてもあんな化け物相手によくやるぜ」
タコ焼きを宙に放り、それを口でキャッチする。
「俺なら最初の初撃でお陀仏だ」
「ど、同感です」
それに答えるのは、オドオドした少女。
彼女は帽子を深く被り、その顔を周囲に見られないように隠していた。
「そ、それよりミツキさん。 こんなところまで出てきて、もし今ここで神代悠子と相対することになったらどうするつもりなんですか」
震えた声で少女は言う。
「あ? そんなもん作戦を前倒しにするだけに決まってんだろ」
何気なく答えるその男に、少女は慌てたように叫ぶ。
「そ、そそそんなことをしたらアル様に怒られてしまいますよ!」
「はんっ、いいんだよ。 どうせあいつのことだ。その程度の想定外、織り込み済みだろうしな」
「で、でもぉ」
必死に食い下がる少女に、彼は一言。
「くどい」
と言って、少女を黙らせた。
「そもそも、本来なら俺は今からでもあの女をぶっ殺しにいきてえところなんだぜ。 それを我慢してやってんだ。 悪いが、多少の勝手は許してもらわねえとやってらんねえよ」
「ううっ、もう私は知りませんからね」
「結構結構。 お前も時間までは自由にしてていいと思うぜ」
「私の場合、そうはいかないんですよ……」
答える彼女は、そのまま彼に背を向け、歩き出した。
「けっ、真面目なやつだな」
そして、少女が立ち去った後、再び彼は空に視線を向ける。
(にしても、本当にあの化け物相手に、予定の時間まで生き残ってられんのか?)
彼は空を眺め、思う。
それは別に彼女の身を案じているわけではない。
(嫌だぜ。ここまで来て、撤収なんてのはよ。死ぬならせめて作戦後にしてくれよ)
それを心配しているだけだったのである。




