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エル・クレシアは、空中を漂いながら文化祭の情景を眺めていた。
その手元には、写真のように鮮明に描かれた悠子の人物画がある。
(悠ちゃん、頑張ってるなあ)
それはエルが魔法を使い、描いたものだ。
もはや『絵』というよりは、『写真』に近い程の完成度の絵だった。
念写の魔法。
見たものを正確に絵に変える魔法。
魔法使いならば、誰でも扱うことのできるような簡単な魔法である。
それを使い、エルは悠子の貴重なメイド姿を絵に残す。
「それにしても悠ちゃん、ほんとよく似合ってる」
その絵に視線を落とすエルの口角は、だらしなく緩んでいた。
エルは直接、彼女の教室に行くことは出来ない。
だからこうして、誰にも見付からない空の中で、悠子の事を見つめていた。
千里眼(遠方を見る魔法)を使い、メイド姿の悠子を眺め、それを念写で絵に残す。
彼女のこの文化祭の楽しみは、それだけだった。
自クラス他クラスの文化祭の出し物も、剣技科の生徒との舞踏会も、彼女には一切興味が無い。
自分のクラスは劇の最中みたいだが、そこには自分の分身体を残し、彼女はこうして自由きままに空を漂う。
すると、不意にエルの背後にそれは現れた。
「あー、しまったなあ」
ごしごしと白銀の髪を乱雑に掻き、ぼろぼろの白衣を強風にばたつかせる女性。
余程容姿に無頓着なのだろう。化粧ひとつしてない。
「ここなら良い待機場所になると思ったんだけど、まさか先約がいるなんてねえ」
エルは咄嗟に手のものを鞄の中に隠す。
第三者に悠子を見てたことを知られるのは、困る。
「あー、隠さなくてもいいのに、それ神代悠子の念写でしょ」
その言葉。そこでようやくエルは、彼女の存在に興味を示した。
「見たの?」
それは無感情なエルの声。
どこまでも冷淡で無機質な声だった。
エルは悠子の前のみ年相応の少女でいられるものの、それ以外の場所では相変わらず機械のように無感動な少女のままだった。
「ううん、絵は見てないよ。 まあ、あなたが彼女をずっと見てたことは知ってるけどね」
「そう、それじゃあ仕方ない」
エルの全身から純白の光子が溢れ出る。
「私と悠ちゃんの為に、ここで死ね」
「っ!」
白衣の女性は、真横に身を投げた。
それは正しい判断だった。
彼女が先程まで立っていた空間を、放たれた光子が抉っていた。
青空の中。光子の通った道だけが純白に塗り潰されている。
空間が蝕まれていたのである。
(私の初撃が、避けられた……)
それは必殺の一撃。
過去にその一撃を回避した者は、誰もいない。
防いだものも、一人としていない。
何故ならばその光子には、触れたら最後。全てが呑み込まれる。
人も物も現象も、時空さえも例外無く、呑まれる。
故に必殺。
それを、避けられた。
流石に驚きを隠せない。
しかし、一方の銀髪の女性は、内心では生きた心地をしていなかった。
(あ、あぶなかった)
間一髪。
あと少し避けるのが遅ければ、彼女は光子に呑み込まれ、死んでいた。
本当に間一髪だった。
それも彼女がエルのことをよく知ってたから避けられただけで、何の予備知識もなければ、避けることなど出来なかった。
エルと彼女の間には、それだけの力の差があった。
だけど、それを知らないエルにとっては、目の前の女が自分の攻撃を避けたという事実だけがある。
そして、それこそが彼女の狙いだった。
(これで作戦は整った)




