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文化祭の前日。
文化祭の準備の大半を終え、学内では後夜祭の為の最後の合わせを行ってる生徒の姿が、ちらほらと見受けられる。
体育館で、教室で、屋上で、校舎裏で、廊下の隅でも。
学内の至るところで生徒たちが手を取り合い、踊る姿がある。
その光景は。
魔法と剣技が触れ合うその光景こそが。
まさしくこの学校の理想そのものだろう。
いや、それはこの学校だけではない。
もしかしたらこの光景こそが、この世の本来あるべき姿なのかもしれない。
そして、それは悠子も同じだった。
悠子は、六条カナデの手を取り、その動きを合わせていた。
それは少し拙いものの、一応形にはなっている。
勿論、悠子だけならーーというよりは、剣技科の生徒同士なら完璧に踊れるのだろうが、如何せん魔法科の生徒と組まなくてはならないので、どこもかしこも拙いものである。
その程度の完成度しかない。
悠子は、カエデの拙い動きに合わせる形で舞う。
自分の動きに彼女が合わせられない為、悠子の方からカナデに合わせているのである。
悠子は思う。
(やっぱり魔法科の子は、こういうことも苦手なのね)
まだまだ拙いものの、一応踊れている。
だけど、ここまで形にするのには、結構苦労した。
悠子の想像を絶する程に、魔法科の生徒というのは、運動能力が低かったのだ。
勿論、自分と同じように出来るとは悠子も思ってはいない。
それは当然だ。
知識を追求する魔法科が、身体の極限を追求する剣技科と、同等に踊れるはずもないだろう。
それは分かってはいたものの、流石にそこまで出来ないとは思ってなかった。
最初の頃のカナデは、自分の足に躓いて転んだり、少し動いただけで呼吸困難に陥ったり、とても当日までに踊れるようになるとは思えない程、運動能力が低かったのである。
まあ、魔法科の中でもカナデの運動神経が悪い方なのだが、それを知らない悠子にとっては、魔法科の生徒はそんなものだろうなのだろうという認識に到るのだった。
「はぁ……はぁ……」
ぽたぽたと汗を垂らし、カナデは肩で息をしていた。
疲労困憊の様子だ。
一方、悠子は汗一つかかず、それどころか呼吸すら乱すことなく、カナデの手前にタオルを差し出した。
「あ、ありがと、ございます」
カナデはそれを受け取ると、タオルで顔を覆った。
ふわりと甘い香りに包まれる。
(あ、良い匂い)
熟した桃のように甘ったるい香り。
「神代さん、これイイ匂いがします」
タオルの中、もごもごとカナデは言う。
「そう?」
「はい、えっと、本当すごく良い匂いです」
「ふふっ、それはよかった」
悠子は次に、飲み物をカナデに差し出す。
「あ、ありがとうございます」
それも受け取り、カナデは水分補給をする。
そして、悠子も自分の水筒に口を付ける。
「そろそろ止めにしましょうか」
そう提案する悠子に、「はい!」とカナデは受け入れる。
本番は明日だ。
今ここで無理をして本番に望むよりも、出来るだけ万全の状態で本番を迎えたい。
それが悠子の考えだった。
そして、それは同様にカナデの考えでもあった。
ただ、考えこそ同じではあるものの、お互いの思いは違っていた。
悠子にとっては、文化祭が本番で、舞踏会はそのオマケ。
だけど、カナデにとってはその真逆。
舞踏会が本番で、文化祭がその前座に過ぎないのだ。
カナデは明日の舞踏会。
その情景を思い浮かべ、口角を緩める。
(明日は、楽しみだなあ)
背を向け、帰る支度を始める悠子を横目に、カナデは明日の本番への期待に、胸を膨らませる。
(本当に)
どきどきとカナデの心臓が高鳴る。
(楽しみ…)
そして、
(神代さんと一緒に…)
緩んだ表情を隠すようにカナデは、悠子のタオルに顔を埋めていた。
そんなカナデの様子に、それを感じ取った悠子は、
(結構、緊張してるわね。やっぱり本番は緊張するのかしら)
と、緊張してる理由について、大分ズレた思考を働かせていた。




